あれから、みょうじなまえは忽然とすがたを消した。
意を決して尋ねたクラスにも勿論おらん。さらに、クラスの奴に聞いてみればみょうじはこのクラスじゃない、それだけ言われる始末じゃ。(ちなみに、幸村もおらんかった)
 ふざけた話じゃが、本当に行方を眩ましたんじゃ。



 たしかに幸村と同じクラスってゆうとったはずなんじゃ。幸村に、片想いをしとるとも。なのに、あいつは俺にキスして、それで。いみわからん。急にあらわれて、近付いて・・・消えて、振り回されっぱなしじゃ。なんじゃ、なんで

 そのまま教室を離れた俺に残された道はもう、少ない。情けない話じゃが、俺はみょうじの連絡先をなんも知らん。幸村に電話をかけると、まるで幸村が俺からかかってくることを予測していたかのようにすぐに着信はつながった。

 どうやら幸村は中庭におるらしい。すぐに行く、それだけ言って電話を切ると足を踏み出す。
道中、他のクラスも覗いてみたんにみょうじの姿はなく・・・俺は益々顔をしかめることになったのは言うまでもない。
 そうして、そんな様子のまま辿り着いた俺をみた幸村は、花に水やっとったんを中断して顔をあげるなり、薄く笑顔を浮かべた。



「・・・どうしたんだい?そんなに慌てて」
「白々しい演技はいいきに、説明してほしいんじゃけど」
「なんの説明をすればいいんだい?」
「・・・・・・みょうじのことでお前さんが知ることを全部じゃ」
「その前にまず、何があったのか聞かせてくれよ」
「・・・・みょうじからは」
「聞いてないよ。俺が後押してからはちっとも聞いてない」



 後押した、
やっぱり・・・幸村はみょうじが俺のもとへきたんに一枚噛んどる。・・・・いや、一枚で済んだらええんじゃが・・・一枚も二枚も噛んどるかもしれんのう。(まあ、協力者は明らかに幸村一人じゃないんじゃがそのへんは機会があれば探る、でいいじゃろ)


 面倒じゃが、幸村はそう簡単には折れん男っちゅーんはよくわかっとるき、ひとまずはかなりかいつまんでじゃが・・・・すべてを説明することにしておく。・・・・キスのことはさすがに言えんけど。


 すると幸村は話を聞くなり笑ったり、怒ったり、わかりやすく感情をみせた。
ひときわ笑ったんは・・・みょうじが幸村に片想い、とかなんとかの話。



「あのあと、なまえに聞いたりしなかったんだ」
「・・・・聞いとらん」
「それは全くの嘘だよ。本当に全部、まるごとね。」
「・・・・・・・あいつ、嘘ばっかりじゃ」
「はは!仁王にそう言われたんならなまえも光栄だろうな」
「・・・・本間のクラスは」
「・・・・・・・どうして知りたいの?」
「どうしてもなんも、嘘つかれたままなんは気持ち悪いきに・・」
「急にこなくなった。それで?仁王はどうしてなまえを追いかけたいの?」
「・・・・」
「・・・・それとも、確認しなきゃいけないような事がおきた、もしくはされた、してしまった。この中のどれかかな?」



 幸村は、顔色ひとつかえとらん。一方の俺は、ポーカーフェイスを保ちつつも、考えた。
わざわざ伏せたんに、幸村は勘づいとる。俺とみょうじに何かあったことを。
たしかに、事情がまるきり違うとはいえ、今までなにかあっても女の子に執着することなんてなかった。あいつは、・・・・特別だったあいつすら、追いかけなかった。そんな男じゃ。それなら気付かれたって当然なのかもしれない。

 そう思った途端、自分の行動に苛立った。あんなに好き勝手されて、・・・勝手に、助けられて。勝手に消えて。俺はみょうじを、本心も、なにもしらん。追いかける術すらない。



「・・・みょうじなまえは蓮二のクラスだよ」
「・・・・・・は?」
「信じていいよ。俺はだれかさん達と違って嘘なんかつかないからね」
「・・・・・なんじゃ、なんで急に・・・・・なんか裏があるんか?」
「別に。二人の奥ゆかしさに辟易しただけだよ」
「・・・・なんのことだか」
「さっさと行けよ。たぶん蓮二が匿ってるから、決意したって言わないと通してくれないとは思うけど」



  幸村に小さく礼を言って、踵をかえす。
なんじゃ、今日はやけに走り回る日じゃのう。こんなん前にも・・・・・ああ、みょうじを探したとき。あのときもこうじゃった。いや、今の方が切羽詰まってるかもしれん。・・・あのときは焦ったなりにまわりを気にしとった。いかに溶け込みながらはやくいくか、ってのう。でも今は違う。というかここへくるまでもそうじゃった。廊下をこんなに早くはしるんは久しぶりじゃ。

 らしくないかもしれん。・・・・それも、らしくないのは元々じゃ。あのひときわ寒かった日。唐突にみょうじが訪ねてきたあの日。あの日から・・・俺は変化を気に病みながらも受け入れてきた。



 なんで俺を尋ねたんか、なんで・・・助けたか。それから、なんでうそをついたんか。今度は、俺がみょうじに会って、聞きにいく番じゃ。


 幸村のいうとおり、俺の前に立ちはだかる参謀を前に、小さく息を呑んだ



「・・・・なんじゃ、不躾に」
「要望があってな」
「クライアントの提示を要求しようかのう」
「・・・・その口振りだと全てわかっているようだが」
「全て?全てはわからんよ。わからんから来たんじゃ」
「みょうじさんにお前の事を頼んだのは俺たちだと知っても、か?」
「・・・・・通りで情報が流出しとるわけぜよ」



「お前の答えは決まったのか」
「さあ、どうだかの。でもみょうじに用があるんじゃ」
「どうしても、か」
「なんならここでそのへんの女子に声をかけてもいいんじゃよ。面倒な思いをするのはお前さんじゃき」
「・・・・遠慮しておこう。教卓の前だ。これ以上面倒をかけてくれるなよ」



 どうにも納得のいかん展開じゃが・・・・・こうなったからには俺だって覚悟を決めんといかん。
参謀は道をあけると、肩を竦めて笑った。俺はそれをみないふりをして、教室へと足をすすめる。勿論、俺の登場により、あたりはざわめいとる。教卓のまえでひどく驚いたみょうじの姿をみつけたのもそれからすぐじゃった。

 視線から察するに、ドアのあたりに立つ参謀をにらんどるんじゃろうな。それも、話がちがう、っちゅー顔じゃ。
 一歩足をすすめる度にまわりの視線はおもしろいほど俺からみょうじへと移る。みょうじは顔をしかめるばかり。
 それから、結局俺がみょうじのもとへたどり着くまで道を阻む奴はおらんかった。みょうじの傍におる友達らしき二人も、ただただ見守ってくれとる。



「・・・・・話、したいんじゃけど」



 注目されるんは慣れとったはずなんに、この空気は逃げ出したくもなったんはいうまでもなか。それに、なるべく優しい声色でっておもっとったんもできんかった。かなりぶっきらぼうに言った俺を沈黙が包む。

 それを破ったのは・・・・



「・・・とりあえず場所、かえよ」



 みょうじじゃった。これでもか、という程の注目をうけたんじゃ。無理はなかろ。頬を赤らめ、俺とは一切目をあわさずに横をすりぬけ先陣を切って教室を出ていく姿を見送り・・・俺もそのあとに続く。廊下にでてすぐ、振り返れば意味深な笑みを浮かべる参謀と目があった。

 これはまぎれもなく、自分で選んだ結果。なのに、こんなにも足が震えるんは緊張の証拠・・・・か。自嘲ぎみた笑みを浮かべながらも小さな背中を追いかける。頭のなかはただひたすらこれからのことを考えた





20131016


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