となりの部屋に誰が、どんな人が住んでいたか・・・だとか、そういったことには全く興味がなかった。

だから、いつから空き部屋だったかも知らない
・・・というより、気にしないまま今日までを過ごしてきた。

よく俺の部屋に訪れる精市いわく一年ぶりであるという隣人は、



「あの、今度おとなりに引っ越してきたみょうじともうします」



女子高生だった。






「・・・女子高生?隣が?しかもバームクーヘンもって挨拶?くっそ律儀だね」
「笑う要素が見当たらないんだが・・・・」
「だって、女子高生の一人暮らしだろ?やらしいぞお前」
「・・・やらしいのはお前の思考だ、精市」


好き勝手いいながらも、ようやく笑いがおさまったらしい精市はその噂の彼女がもってきたバームクーヘンを頬張る。
ちなみに、中に生クリームが挟まったそれは見た目に反して甘さは控えめで、俺でさえもきにせず食べることができた代物だった。(こういうチョイスもさすが女子高生、といったところなんだろうか)




「なんかしゃべった?」
「朝に挨拶を交わす程度だ」
「へえ、可愛い?」
「おそらく、赤也あたりが好みそうな外見をしているな」
「お前は?」
「・・・・どうしてもそういう方向にもっていきたいようだな?」



その彼女について盛りあがる中、女子高生、という単語を使うことにも、それに特別な意味がこもることにすら自分達の年を感じながらも・・・気付かないふりをして焼酎が注がれたカップをあおる。
一方精市はバームクーヘンの最後の一口を飲み込んで、にやにやとわらっていた。こうみえて奴は人の恋路に首を突っ込むのがやたらと好きで、さらに引っ掻き回すのが上手い、という厄介な特性をもっている。

実際にその毒牙にかかった赤也の嘆きを俺だって、忘れてはいない。つまり、あのときと重なる精市の笑顔に、気付いていないわけではないのだ



「そんなに構えるなよ、なにもしないから」
「ほう」
「俺がなにかしなくてもなんかある気がするし」
「どういう意味だ」
「ただの勘だよ、勘」
「・・・なにかあってたまるか、犯罪だぞ」


けらけらわらいながらコップを傾ける精市をよそに俺はため息をつく。・・・本気にして説教を始めかねない分、この場に弦一郎がいなくてよかった。いまはつくづくそう思うばかりだ

それに、昔から精市の勘は妙にあたる。
たしかそれは抜き打ちテストの有無だとか、テスト範囲の山だとか、そんな何気ないことで発揮していたが、
結局それ以降彼女の話題は出ず、特になにもないまま数日が経ち・・・・

俺がちょうどこの件について忘れかけた頃にそれは起こった。


精市の勘は、今回はよくない方面であたったらしい。俺の部屋の前で言い争う制服姿の二人をみて、瞬時にそう思った。
片方はたしかにみょうじさんで、もう片方は、当時の赤也によくにた少年だ。


引き返そうかと思い悩んでいる間にも、涙を一筋流すみょうじさんと目があって、心臓が跳ねた。
俺の介入で場の空気はかわったらしく、少年は俺を一瞥すると、帰るから、とぶっきらぼうに告げて顔を伏せたまま俺の隣を通り抜けていく。

そうして、取り残されたみょうじさんは泣き笑いのような表情をして、ぽつりとこう言った。



「へんなとこ、みられちゃった」



掛ける言葉は、みつからなかった。

いい加減な言葉をかける場面でもない上に、俺は彼女を知らなすぎる。

どうしていいかわからずに、ひたすら考えた俺は気が付けばさっき買ったばかりのしるこを彼女に手渡していた。部屋で飲もうと思っていたものだったが背に腹は変えられない。

彼女は大きな目をぱちくりさせ、俺としることを交互にみる。



「・・・よかったら、飲むといい」



これが炭酸飲料か紅茶かなにかだったならまだ格好もついたというのに、我ながらチョイスを誤ったとおもった。(まさかこんな場面に出会うとはおもっていなかったから仕方ないが)

いっそ引っ込めてしまおうか。そう思った矢先に、遠慮がちに伸ばされる白い手を俺は見逃さず。
同時に、はじめてみた愛想笑いではない彼女の笑みに俺は年甲斐もなくぴくりとも動けずにいた

動揺するような場面でもないのに、そう言い聞かせていると、



「友達の彼氏が浮気したってきいて、黙ってられなくて」



しるこを手のひらで転がしながら、彼女はそういった。

てっきり彼女がふられたものだとばかり思っていただけに、一瞬拍子抜けしたが・・・・それでも、友達のためを思っていまも瞳を濡らす彼女に素直に感心した。

だが、かける言葉は・・・・相変わらずみつからず。
赤也ににていたせいか他人に思えないあの彼を思い描きながら、俺は黙ってみょうじさんからすこし離れたところで立ちすくんだ。
それに気付いた彼女が、困ったように笑う



「足、とめちゃってすみません」
「ああ、いや・・・気にしなくていい」
「これ、ありがとうございました!人生初おしるこです」



喜んでいいのかわからない言葉をかけられ曖昧に笑みをみせる。

じゃあ、おやすみなさい そういってドアの向こうに消えた彼女はもう、いつもの彼女だった。






macherie

お前の勘はあたるな、そう一言精市にメッセージを送り・・・瞬く間に届いた返信はひとまず置いて、俺は静かにソファにしずみこんだ。

彼女の泣き顔が、なぜか焼き付いてはなれなかった

20130509


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