誰になにが起ころうと日々が待ってくれるわけもなく、
皆平等に朝がくる。つまり、わたしが夜遅くまで考えに考えた悩みごとだって、世界では本当に些細なことに過ぎない

 だから気にしない・・・・・・なんて、そんな事ができていたらここまで悩んだりなんかしないんだから、世界というものはどうにも上手くいかないのだ。

 ちなみにその考え事とは、いうまでもなくわたしと白井くんとみっちゃんのこと。誰ひとり悪くなんかないのに・・・・・誰もどうすることも、できない。


 しかし、みっちゃんとは勿論これまでどおり仲良くしてるし、今はちょうど流行りのドラマについて熱く語っていたところだ。
それは最近のドラマにしては珍しい、がんじがらめのどろっどろの恋愛がテーマ。どう転ぼうともハッピーエンドにはなりそうもないシナリオで、それが話題をよんでいるのだ。

 ・・・・とはいえ、今しがたみっちゃんの"仕方ないよ"の一言で話題が終わりを告げたところなんだけども。
 わたしはわたしで、そのみっちゃんの神妙な顔を見過ごすことはできなくて、ひっそりと息を呑む。

 ちなみにいまは放課後、こうして教室に二人残ったのはみっちゃんが日直で、残って日誌を書く事になったから。ただそれだけが理由だ。(もちろん日誌は当に完成し、きちんと職員室に提出済みである)

 教室はすっかり夕焼けに包まれている。さらに、グラウンドから聞こえてきたサッカー部とおもわしき部活の終了を告げる声に、ようやく時間を確認し・・・・驚いた。どうやらすっかり話し込んでしまったらしい



「なーんか1日はやいなあ」
「ほんと。学生時代なんてあっという間だねー」
「なまえ、なんか落ちたよ」
「ありがと・・・・・・・あ、」



 小さな紙切れを拾い上げたとたん、不意に声をあげてしまった。隣にいたみっちゃんも不思議そうにわたしの手元をのぞきこみ・・・・そして、わたしよりも一際大きな声をあげる。

 これは・・・・あの日幸村さんから餞別だ・・ってくれたもの。



「やなぎ、れんじ・・・って、あの柳さん?柳さんのなの?柳さんの連絡先?」
「う、うん」
「なんでこんな大切なこと教えてくれないの!やったじゃん!」
「・・・・それが、本人からじゃなくて柳さんの友達からもらって・・・・・しかも、悩んでるうちに・・・・忘れちゃってて、」



 この反応、予想はしていたけれど・・・つぎの瞬間わたしはみっちゃんにこっぴどく叱られていた。



「だって例え妹だって言われたって交換ぐらいはしても大丈夫だよ!友達も、応援してくれてるからなまえに渡したんでしょ!」
「うーん・・・それはそうかもしれないけど」
「っていうか柳さんと仲直りするきっかけもくれたんでしょ?なにその人天使じゃん!いいなあわたしもなまえのために何かしてあげたい!」
「みっちゃんは今でも十分助けてくれてるよ」
「そう?ありがと!じゃなくて、なまえははやく柳さんを登録!で、連絡する!」



 みっちゃんはわたしの性格を熟知しているためか、わたしに携帯とメモを押し付けるなり向かいの椅子に座る。

 ・・・・このままどうしようどうしようと渋りながら帰るとそのままになる。それをみっちゃんはわかってるからこそなんだろうけど・・・・・もう準備も終わり、帰ろうという段階だったのに切り替えのはやさに思わず笑っているとぎろりとにらまれてしまった。



「もーみっちゃんが相手だとかなわないなあ」
「当たり前でしょー!あのね、わたしは別になまえに柳さんがいなくて、白井と付き合うかもってなってたって応援したんだからね!」
「え、でもそれじゃあ・・・」
「白井の事は好きだけどさ、なまえは親友だから。その親友ときまずくなんてなりたくない。・・・っていうのもあるし、実は、怖いだけなんだけどさ・・・」
「みっちゃん・・・・」
「付き合ったのに幼馴染み以上にはなれなかったんだよ、全くひどい話だよね。だから、怖いんだよ」



 はじめて口にした、みっちゃんの本音。わたしが全部わかってあげられるわけもないし、そんなつもりもないのに・・・どうしようもなく、心が痛んだ。

 みっちゃんがわたしを大切に思ってくれてるのはすごく、すごく伝わるし・・・素直にうれしい。だけど、だからこそ、そんなみっちゃんに一番すきなひとと幸せになって欲しかった。白井くんがわたしを好きだっていったことをわたしに隠して・・・苦しんで。わたしがいよいよ問い詰めたって・・・浮気だって、みっちゃんはそう、嘘をついた。・・・・わたしはみっちゃんの嘘に気付くことができなかった。白井くんの想いも、しらずに・・・みっちゃんを助けてあげられなかった。

 それなのに、みっちゃんはわざと明るい声でこういった。



「あのね、だからわたしはなまえが幸せになる選択をしてほしいし、それができる人なら誰だっていいんだからね!なまえはなにも悩む必要なんてないよ!」
「・・・・みっちゃん」



 みっちゃんの笑顔はいつだってまっすぐで、いつだってわたしを助けてくれる。みっちゃんの言葉は・・・・わたしを、前へ進ませてくれる。

 ・・・・それに、なぜだろうか。わたしはこんなときに白井くんを、あのときの白井くんを思い出していた。
妥協するな、白井くんは、そう言った。



「ああもう!泣くな!泣くより先にこれ登録!からの連絡!わかった?」
「みっちゃん、すき」
「はいはい、それよりもすきなのは?」
「わかんない」
「けど?」
「・・・・・柳さんに、近づきたい。メール、したい・・・・!」
「よくいえました!」



 それからは、みっちゃんにぎゅうぎゅうに抱き締められて・・・・わんわん泣いていた。・・・もらい泣きだっていいながらみっちゃんの声も震えてた。だからわたしはみっちゃんの髪を撫でて、みっちゃんはわたしの肩を支え・・・・慰めあいながらすこしのあいだ泣いて、それから、笑った。

 わたしのなかの、胸のつっかえがとれた。そんな瞬間だった。
 それで、めでたしめでたし・・・で終わるはずもなく。勿論次は問題の、柳さんへの連絡だ。みっちゃんもいる、勇気ももらった。だから大丈夫!・・・って、すこし前のわたしはそう、思い込んでいた。



「・・・・・・本当にいいのかな」
「いいからもらったの!」
「でも、」
「手を動かす!」



 あーでもない、こーでもないと練りに練った結果、文面ができた頃にはすっかり日は落ち、見回りにきた先生はわたしたちの姿をみて目を丸くしていた。そういうわけで学校をでたものの、送信ボタンは・・・・・まだ押せそうにない。そんなわたしをみっちゃんは根気よく応援してくれるのであった。










 今朝、精市からみょうじさんからの連絡の有無を聞かれたときには度肝を抜かれたものだった。いい忘れた、と付け加えた精市から聞くに、どうやら数日前、あの事件の際にみょうじさんに俺の連絡先を教えていたらしい。

 さすがにもう俺達がメールの一つや二つはしていたと思っていた精市は俺の返答をきくなり酷く驚いていたが・・・・それ以上に驚いたのは勿論この俺だ。
なにせ、この柳蓮二の携帯は鎮座したまま、なにも音沙汰がないのだからな。

 精市が驚き、そして傑作だと、笑っている最中も・・・・・俺は考えていた。あの日、みょうじさんは俺よりも素敵な人を探す、といっていたのだ。・・・・・・それならば、この事態も予想できる。

 が、連絡先を無断で友人に流され、挙げ句交換にも至らないのは流石に心にくるものがある。

・・・・なにより、彼女のことを気にしすぎている、そんな事実に自身が気付いていないはずもなく、俺は柄にもなく焦っていた。寧ろその焦り事態予想外のものだ。彼女を遠ざけたのは俺で。・・・そして、そのまま丸く、おさまるつもりだったんだ。

 そこまで考えて、俺を現実に引き戻したのは電話の着信音だった。・・・・電話の向こう側では今にも笑いだしそうな声で残念、俺でした、と精市が告げる。



「・・・・随分と楽しそうだな」
「あ、わかる?」



 また、益々声のトーンがさがる俺とは裏腹に、精市は至極楽しそうにくつくつと笑っている。・・・・普段は隙をみせないくせに、こういうときの精市はいつもの数倍はたちが悪い。



「・・・・・みょうじさんはお前のことを特別だと思ってたよ」



 ・・・・・・そして、切り換えも早いのだから奴には驚かされる。



「・・・なぜ、そう思う?」
「テニスクラブで蓮二をみつめる顔」
「・・・・・・・それは、自惚れだとは言い難いな。しかしなぜ過去形なんだ?」
「さあ。わからないから過去形にしただけだよ。最も、蓮二は心当たりでもあるの?」
「ないさ。だが・・・・難しいな、あの年頃は」
「ふふ、連絡、くるといいね」
「・・・・精市、また面白がっているだろう」
「まさか。俺が蓮二に"悪いこと"はしないだろ?」



 それもそうだな、
その俺の答えを最後に、精市はまた家に顔をだすという旨だけ伝えて電話を切ってしまった

 そして、直後に連絡先を教えた理由を聞いていないことに気付き、少しばかり後悔したが・・・・聞いた所で結局解決しない可能性が高いことに気付いたのもすぐで。
 長い付き合いというのも考えものだと、一人、少し自嘲ぎみた笑みを浮かべた。・・・・・再び携帯が震えたのはその直後だった。


 ・・・今度はメールか。精市にしては手がこんでいるな、第一印象はそうだった。そして、今度は騙されてやらない。そう、強くおもいながら受信ボックスを開き・・・・・そこに表示された見知らぬアドレスに、目を見開いた。

 指が震える上に不自然なフリックで画面が揺れる。・・・・このタイミングで?そうは思うが・・・心当たりは一つしかない。精市が手を回したのかと疑いたくもなるが、生憎その線は薄いだろう。
ゆっくり、メールをひらいた。そこで一番に目にはいったのは、みょうじです、という文字。

 そうして、読み進めていくうちに・・・・妙に丁寧な文面に自然と頬が緩んだ。・・・・・・・こういうのも周波数があった、というのだろうか、・・・それともただの偶然か。


 ひとまず、連絡されずにそのままになる、という悲劇は免れたことに安心すると共に・・・ある疑念が蘇った。が、わざと酒をあおり、相反する二つの感情をかきけしながらも・・・・俺は深い息を吐いたのであった




その感情を認めるにはまだすこし、

20131129

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