「・・・・やっちゃった・・・!」



 聞こえの悪い台詞を連呼しながらみっちゃんにすがり付くわたしの右手には送信されました、というメッセージが表示されたスマートフォン。

 遂に、遂におくってしまった。・・・まあ、正式には送信ボタンはみっちゃんに押してもらったんだけど・・・とっ、とにかく、遂に・・・柳さんにメールしてしまった


 文章を考えついたのは夕日が沈んでしまったあと。それから教室をでて、送信をたっぷり悩んだ結果、みっちゃんの手によりメールは柳さんへと送信されたというわけだ。
 情けない結果だけど・・・・送ったという事実に変わりはない。
恥ずかしいやらなんやらですっかり消沈しているわたしを、みっちゃんはたくさん甘やかしてくれる。

 そうして、二人でいろんなことを話ながらゆっくり歩いたおかげでいつもの別れ道に差し掛かったとき、すでに外は真っ暗になってしまっていた。
付き合わせてしまったみっちゃんには何度も謝ったけれど彼女はからりと笑っていた。
本当に、みっちゃんいいこすぎる。ぐじぐじ悩むのも悪くて、なんとか普通に振る舞っていたつもりだったのにあっさり見破られて、慰められる始末だもの。
わたしが男の子だったら絶対みっちゃんに惚れてるとおもう。・・そう、断言できる。


 大丈夫。・・・・・元気づけてくれたみっちゃんのためにもがんばろうって、そんな気になれた。




 だから、浮わついた気持ちばかりで・・・ふわふわしていたんだとおもう。
近道のためにと入った裏通りでぴったりくっついてくる足音に気付いたときには思わず泣きそうになった。もっとはやくに気付いていればこんな道、選ばなかったのに!・・・そんな後悔をしたところでもう遅く、突きつけられた現実に気が遠くなる


 どうしよう。・・・・もし、なにかあったら?・・・なにかの間違いじゃ・・・・・ない、みたい、だし
 混乱や、恐怖のあまりはや歩きになるわたしにあわせるように足音は響く。後ろを振り向く勇気なんてなくて、勿論対処法だってわからなくて・・・


 限界をこえたわたしはついに走り出して・・・・・それからは、無我夢中だった。
スマートフォンをなんとか操作するけれど、走りながらだと当然うまくいかなくて・・・もうほとんど泣きながら走るわたしが向かったのは・・・コンビニだ。
無事に店内に入ってからは一番奥の売り場までなんとか駆け込んで・・・控えめに呼吸を整える。まるで体のぜんぶが心臓になったみたいにくらくらする。

 ・・・・なにも、いませんように。ただの勘違いだったって、明日笑って話せますように!そう願いながら顔をあげて、
飛び込んできた景色に思わず息を呑んだ。



 視界にうつるは店の外でガラス越しにじっとこっちをみる男の人の姿。・・・それも、一目ですぐにぴんときた。


 つい先ほど、みっちゃんと歩いていたときにずっとわたしたちをみていた人がいたのだ。その視線に気付いたみっちゃんは怪訝な顔をしてわたしと顔を見合わせて・・・・さらに、避けるようにして道を変えたんだけど・・・・間違いなくあのひとだ。


 どうすればいい?警察?それともレジの人に説明して・・・・・・助けてもらう?ううんそれよりも、またみてるだけ、かもしれないし、なにもないかもしれない。でも、・・・もう、外をみる勇気なんてないし、なら状況もわからないままで、もし・・・入ってきたら?・・・・・・・・もう一度みたら、もういないかもしれない。そんな願いを胸に恐る恐る顔をだして、同じ場所で同じ出で立ちのままでいる姿をみて、もうめまいすら覚えた。
 ・・・・ひとまず、外から身を隠すように陳列棚に背をむけて、スマートフォンを再び取り出す。震える指で操作したってロックのパターンがうまく入力できずに余計に追い詰められていくわたしが、新着メールの文字に気付いたのはすぐだった。
 それから、流れるテロップにはたしかに柳さん、と表示されていて。

 ロックを解除してすぐ、受信したメッセージにかかれた電話番号を迷わずタップしたのだった。



 呼び出し音がなる間、ひたすら柳さんのなまえを頭のなかで呼び続ける。頭の中は真っ白で、柳さんがでたところでなにを話すのか、でなかったらどうするか、なにも考えられないままにひたすら。
そうして、



「・・・・もしもし」



 ・・・・つながった!
その瞬間、向こうから柳さんの声をきいた瞬間、ぼろぼろと涙が溢れてきて・・・・
なにも言わないわたしを呼ぶ柳さんの声をききながら、なんとか絞り出した言葉は、



「・・・・やな、・・ぎ、さん・・・・・・っ!」



 それだけだった。それからのことは、もうよく覚えてはいない。

わたしの様子からなにか察知したらしい柳さんから居場所をきかれて、駆け付けてくれて。わたしを庇うようにして無造作に停めた柳さんの車に乗せられ・・・・
助かったって、認識したのは車が走り出したあとだった。

柳さんをまつ間、ひたすら大丈夫だって・・・・・すぐにいくって、声をかけてくれて・・・・・それだけですごく安心できて。・・・・・それでも、わたしはひたすら泣くことしかできなかったけど・・・
繋がったままだったな、って、柳さんが通話中のままのスマートフォンを掲げてみせてくれたとき、わたしはようやくちからなく笑った。



 それからすこしして、柳さんに警察から連絡がきて・・・男の身柄が拘束された事をきいた。どうやら家をでるまえに通報してくれていたらしい。
・・・なんでも、近隣の高校に度々出没していて、今回たまたま見回っていた警官がたまたま通りがかったんだとか。


 なにもなくてよかった、って思うと・・・改めて引っ込んでいた涙が再び溢れだしてきて・・・柳さんはハンドルを握っていない方の手で、わたしの肩をやさしく叩いて、くれて、
 そのやさしさが、余計に涙腺を刺激して、もうわたしはぐちゃぐちゃに泣いた。



「・・・・なにからなにまで、すみませんでした」
「気にする事じゃないさ。それよりも無事でよかった」



 わたしがなんとか泣き止むことができたのは、駐車場について少ししてから。改めて頭をさげるわたしに、柳さんは心底安心した様子で息をついてくれる。

 ・・・そこで、ようやくわたしは柳さんの車の、それも助手席に乗っていることに気付いて、すこし気恥ずかしくなったのはいうまでもなく。



「・・・・本当によかった」



 だけどそれも、柳さんのそんな呟きに吹き飛ばされてしまった。・・・・今までみたことのない、すこし余裕を失った柳さん。本当に心配をかけたんだって・・・・・ほんのすこしだけ自惚れてしまいそうになる。
 それは、わたしだけの秘密。


 ぽつりぽつりと会話をするなか、何度か警察から連絡があって・・・わたしの連絡先を伝えたりなんかしたけれど・・・ひとまず、事情聴取はまた明日という事になった。・・・これもわたしの様子から柳さんが判断してくれたこと。

 電話が終わって、改めて一息ついたわたしたちはどちらからともなく顔を見合わせ・・・今度こそわたしも笑顔をつくりあげる。



「・・・明日、俺の付き添いはいるか?」
「えっ、さすがにそこまで迷惑はかけられないです!」
「そう言うとは思ってはいたが、どうやら勘違いをしているらしい」
「勘違い?」
「・・・・・・"彼女"をつれて、というニュアンスだったんだ」



 かのじょ、
そな単語を脳内で何度も繰り返して・・・ようやく理解したあかつきに大声をだして口にしたわたしを、柳さんは読めない表情で見守る。

 たしかに、はたからみれば柳さんは、まるでわたしの・・・か、彼氏みたいで・・・。そうでなくとも十分わたしにとっては颯爽と助け出してくれたヒーローだったけど、

 ・・・・だめだ、恥ずかしすぎる・・・・!
顔を真っ赤にしたわたしに、まるで楽しむかのように笑みをうかべる柳さんはずるい。・・・ずるいのに、そんな柳さんの悪戯っぽい笑顔がすきで、また一人で恥ずかしくなったわたしはおとなしく俯いておいた。



 それから、なんとか車をおりて・・・・部屋までの距離をすこし寂しく思ったりもして、そんな気持ちを振り払うようにしてただひたすら歩くことに集中する。・・・なんだろうわたし、・・・・また、ふわふわしてる。



「それにしても・・・連絡先を交換していたおかげ、か。・・・このことは精市には黙っておきたいな」
「わたしはお礼がいいたいです」
「・・・いい度胸じゃないか」
「・・・それに、柳さんの連絡先だもん、うれしいに決まってるし・・・・・・・・・あ、もちろん・・妹?として!」
「・・・・・そうか」





 柳さんには、憧れてるだけ。こんなシチュエーションに、憧れてる・・・だけで。こんな素敵な彼氏がいたらいいなって、ゆめみてるだけ。
そう何度も心のなかで唱えて顔をあげる。そうするとうまく笑えるような、そんな気がした。



 笑顔の向こうの柳さんの表情はみないまま、わたしはひっそりと胸を撫で下ろして

妥協するな、
ある日一生懸命にそう言った白井くんの声は、聞こえないふりをしてそっとこころに蓋をしたのだった

20140301

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