柳生くんのことがすきだった。
それも、見ているだけでしあわせで自分からなにかしたりするわけじゃないけどなにかあったらいいな、なんて思うぐらいの、そんな少女漫画ちっくな恋。


 そんな奥手なわたしが、どうしていま、柳生くんを待っているのかというと・・・・・
偶然、柳生くんあての手紙を中庭でひろったのがきっかけだった。柳生くんへ、それだけかいた淡いピンクの封筒は、どうみたってラブレターで。中身はみてないし、どういう経緯でここにあるのかはわからないけど・・・・・おなじ想いをもつ身として、どうしても放っておけなかった
ただそれだけが、理由。


 さっきテニス部のひとが通ったのをみたし、ここはわたしの経験上、とっておきの柳生くんスポットだったはず。とはいえ、ここに佇んでもう5分以上が経とうとしている。気合いをいれるものの、不安でいっぱいだし・・・なにより私自身心の準備なんてできたもんじゃなかった。
 それに、まず柳生くんにあえる確証がないのだ。だからって拾ってしまったこの手紙をなかったものにすることだって心苦しいし・・・。とりあえずあとすこしまってみて来なければまた考えよう、そう思い始めたころだった。
どうやら神様はいるらしい。


 誰かきた!
しかもあれは、レギュラージャージ!
だれだろう、どきどきしながら目をこらし、歩いてくる姿を確認したわたしは目眩を覚えることとなる。わたしが見間違えるはずがない、あれは、

 柳生くんだ!
まさかの本人の登場に動揺を隠せるはずもなく。
しかも、もう最初に通りがかったテニス部の人もしくはレギュラーのひとに言付けてもらおうとさえおもってたのだからその分喜びも大きい。
しかし当のわたしは、折角の柳生くんとのファーストコンタクトで…すごく、すごくうれしいはずなのに複雑な心境でいた。

 だって、風で髪は乱れてるかもしれないし、それに、緊張でへんなかおしてるかもしれない。
突然こんなことして、へんなやつだっておもわれる可能性だってあるのだ。…まあ、柳生くんに限ってそれはないとしてもこの名前もわからない子のためとはいえ、気が退けてしまうことは確かだ。…とはいえ、わたしの熱視線に柳生くんが気づかない筈もなく。わたしはいま、おそらく怪訝な顔でみられている。(怖くて顔をあげられそうにないのだからあくまで予想のはなしだけど…)

 ・・・・・・いまならまだ、にげられる
けど、だけど!
みてるだけのわたしとはちがって、ちゃんと前へ踏み出そうとしたこのこのためにも、責任をもって送り届ける・・・・・!



「あの、これ」



 そう決意した途端なんだか力が湧いたような気がして、柳生くんがすれちがってしまう直前になんとかこえをかけることができた。さいごのほうなんか、消え入りそうな声になったけど、たしかに柳生くんが振り返ったのを確認して手紙を差し出す。

 かおなんてみれなくて、でもこれで最初で最後だとおもうともったいないきもして・・・・
勇気をだして、かおをあげる
そこでわたしと柳生くんははじめてかおをあわせることになったのだけれど、妙にかんじた違和感にわたしは思わずこえをあげてしまっていた。



「・・・・・・・あれ?」
「どうされました?」



 はっとして口を抑えるけど遅く、柳生くんの声が降りかかる。ちなみに、完全に手紙を差し出す手は引っ込めてしまった。
 なんだろう、見た感じはすごく柳生くんなんだけど・・・・・・・・・・ちかくでみたら細部がちがうし、そう思い始めると声までなんだかちがうようなきがして、ますます違和感は色濃くなっていく。なんだろう、この違和感。どこがどう違うのか聞かれても詳しくは答えられないけど、明らかにちがう。

 ・・・柳生くんじゃないわけはないのに、でも、



「・・・・柳生くん・・・・だよね、ごめんなさい、・・・あの、えっと、」



 すっかり混乱してしまい、そううわ言のように繰り返すわたしを、柳生くんはすこしの間じっとみつめたかと思うと・・・・
不意にためいきをついた。それに従いわたしの肩もびくりとはねる。当然だよね。急に呼び止められたと思えばこんなのどうみても告白だし、それに・・・・・この状況だと歯切れの悪いわたしに痺れを切らしてしまう理由もうなずける・・・・・!

 はやく謝らないと、その一心で顔をあげて、そこで違和感はようやくあらわになった。柳生くんが、なんだか・・・・・緊張をといて、る?その立ち振る舞いは完全に別人のようで・・・・・わたしはなにがなんだかわからずに、混乱したまま柳生くんを見守るばかり。たしかに柳生くんじゃない違和感があるんだけど、もしかしてほんとは柳生くん?でも、でもやっぱりちがう、そう今度こそ確信したとき、それはおこった。



「・・なんじゃお前さん、なんでわかったんじゃ」
「・・・・・え?」



 がらりとかわった声のトーンと、表情からは、柳生くんらしさは見当たらない。先ほどまでまとっていたオーラさえも跡形もなく消えたから、わたしはただただ目を白黒させながらその様子を見守った。
柳生くんじゃ、ない?たしかにわたしもそうおもったけど、いざそんな状況になると信じられなくなってきた。だって、じゃあどういうことなの
 そうこうしているうちにも柳生くんもどきはわたしが握る手紙を指差してこういう。



「・・・それ、柳生にか?」
「あ、あの、は、はい!渡したかっただけだから!!柳生くんに、」



 柳生にか、って、じゃあつまり・・・・・目の前の彼は柳生くんじゃない、というわけで。そうとわかれば、わたしはいいかけた柳生くんもどきの言葉を遮って手紙をむりやり押し付け・・・・・彼がたしかにそれを手にとったことだけを確認すると、振り返りもせずに全力で逃げた。・・・・・・・・・・だって、こわすぎる!

 柳生くんと話すことすらわたしには精一杯だったのに、ましてや柳生くんが柳生くんじゃなくてなんだかそっくりさんで、だなんて
・・・・・・・・・・そんなこと、頭が追い付かないよ。



 と、そんなわたしだけど、すっかりあとになって後悔することになったのはいうまでもなかった。よく考えなくたって、あのひとに渡したって柳生くんの手にわたるわけじゃないのは明白で、つまり、結局わたしは善意とはいえ・・・・・任務を遂行することができなかったのだ。

 しばらく走って、教室に戻ったわたしはそれからしばらくこのことが頭から離れなかった。手紙のことを伝えようにも伝える手段はもちろんないし・・・っていうかそもそもあの柳生くんもどきはなに?



結局いくら考えたところで答えはでることはなく、わたしは深い深いため息をつくのだ


20130405

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