おひるやすみ、教室がざわめいたとおもえば友達がわたしのところへすっとんできてそのまま廊下へ連行。わけがわからないまま連れ出されるとそこには柳生くんがたっていた。ここでわたしは口に含んだままでいたウインナーを危うくそのまま飲み込みそうになり、それはもう激しくむせることになったのはいうまでもない。なにこれめっちゃ恥ずかしいしそれにな、なんで、



「みょうじさん、ですね?」



 柳生くんはわたしを一瞥するなり、そういう。たしかにわたしはみょうじだけど、それよりも大変なことに気付いた。

この柳生くん、ほんものだ。



「仁王くんからしっかり受け取りました」
「て、手紙のこと・・・?」
「ええ、それに・・・仁王くんと私を見分けてくださったそうですね、そんな方ははじめてで、私も驚きましたよ」



 柳生くんは周りに聞こえないように考慮してか、小声でそういう。もしかしてテニス関係の企業秘密、とかだった?それをわたしが見破ったってこと?つまりやっぱりあれは柳生くんじゃなくて、仁王くん?仁王くんってあの?なんか白髪で、(銀髪?)柳生くんとダブルスをくんだりしてる仁王くん?

 それで、柳生くんはわたしにてがみを受け取ったことをわざわざ伝えにきてくれて、



「返事なのですが、」



そう、返事を・・・・・・

返事?



「あ、わ、わたし、あの手紙をかいたんじゃないの」
「・・・・書いたのでは、ない?」
「中庭で拾って、その、届けただけで」


 
 大変なことになってしまっている。どうしてあれが仁王くんだったのか、とかそういうことは聞けそうにない。だって返事!返事って!間違いなくわたしがかいたものだって思われてる。
 少なくとも好意をもっていることにはちがいないけど・・・・・・わたしには柳生くんにそれを伝えるなんてそんなことできないし、する気もない。だから、必死に説明をし、首をふってみせると・・・・・・柳生くんは眉をさげ、続けてこう言う。(こんな顔ですら眩しくって、ついつい目をそらしてしまった)



「そうでしたか・・・では困りましたね・・・実はあの手紙、差出人が書いていなかったのですよ」
「えっ」
「・・・ですから誤解してしまい、失礼いたしました」
「・・・う、ううん」
「それに、わざわざ届けてくださってありがとうございました」



 ・・・・・・なるほど。だから誤解されたんだ。でも、差出人の名前が書いてなかったなんて・・・わるいことをしたんだろうか。
ぺこりと頭をさげる柳生くんにわたしも会釈をして、さりゆく背中をみつめながら、胸がずきりといたんだ。柳生くんとおはなしできて嬉しいはずなのに、喜ぶことができないのは紛れもなく手紙のことが気がかりだから、だ。どうしようも出来ないことはわかってる。柳生くんだって、さぞかし困っているだろう。もうわたしに出来ることはひとつしかない。
・・・そのこの想いがとどきますように、そうひたすら祈ることだけ、だ。




 それから、教室にもどったわたしは怒涛の勢いで友達やらなんやらに取り囲まれ、あれやこれやと事情聴取をうけることになった。当然みんな誤解したみたいで、説明したら安心されたりがっかりされたり笑われたり。反応はさまざま。
一方わたしは、緊張がとけたおかげで一気につかれたような気がした。

 でも、よくよく考えてみれば・・・・・・一応どんなことでも柳生くんと一言でも言葉を交わすことが目標だったわたしにとって、今日はかなり大きな成果といえるだろう。
柳生くんと話せたんだし、みやぶったことも褒めて?くれたんだし・・・・・うん。これで心残すことなく卒業できる。
 そう思うと不思議とはれやかな気持ちになることができた。・・・・・・・・・・・・・・・・・・放課後、わたしのクラスの靴箱の前に佇む目立つ銀色を目にするまでは。



「みょうじ、であっとるかのう」


 ・・・・・・・・・仁王くんだ、ってほとんど初対面なのにそう確信できたのは日頃の仁王くんの躍進だとか、噂だとか・・・そのおかげだった。
たしかにわたしはみょうじだけど、柳生くんも仁王くんもどこから情報をしいれてくるの。そう思うわたしをよそに、仁王くんは靴箱から足をすすめ、わたしとの距離を詰めて、そうして・・・



「ちょっと時間、ええ?」



 感情の読み取れない表情でこういった。・・・・正直すごくこわかったけど、わたしは黙って頷くことしかできなかった自分を悔いた。

 やっぱり用件はあの手紙のことで間違いないんだろうけど、肝心の中身が全く思いつかずに不安ばかりがまとわりつく。それに、どこにいくんだろう。わたしがついさっきおりた階段を仁王くんのあとについてのぼる羽目になって、違和感を感じながらもわたしはひたすら背中を追いかける。
 途中でもしかして、っておもってはいたけれど・・・・・・、やっぱり仁王くんは屋上へつながる階段へとあしをむけた

 なにこれこわい
もしかして、もしかしてだけど・・・・・・あのひ、あんなふうに押し付けるようにして逃げ出したことをおこって、る?でも、それだけで呼び出したりなんて少なくともわたしはしない!でもほかに心当たりなんてないわけだし、考え方なんて人それぞれだ。誠意をこめて謝れば伝わるだろうか、だとか、そんなことを考えているうちにも目の前にはドアがあり、仁王くんは黙ったまま中へ行ってしまった。

 それから、仁王くんは突き当たりのフェンスに背をあずけ、何を言うでもなくわたしをじっとみる。対してわたしは蛇ににらまれた蛙のような心地で仁王くんをひかえめにみつめ返す。
この妙な見つめ合いが続いたのちに話された仁王くんの用件はわたしの予想の見事に斜め上だった。



「なんで柳生じゃないってわかったのか、聞かせてもらいたいんじゃが」
「・・・・・・・・は?」
「試合でもたまにやっとってのう、イリュージョンっていうて、柳生と入れ替わるんじゃ」
「入れ替わる・・・」
「見破ったのはお前さんがはじめてだった」



 仁王くんの探るような視線が再びわたしに突き刺さる。
っていうか!イリュージョンってなに!テニスの試合で入れ替わるの?テニスってなんだっけ
・・・それに、聞かせてほしいっていわれても!柳生くんのことをずっとみていたからです、だなんていえない。くちが裂けてもいえない!

 そんな心の葛藤をしってかしらずか、だんまりのわたしに痺れを切らしたのかすう、と仁王くんが目を細め・・・・・・わたしはひっそりと肩を震わせる。仁王くんって印象がなにもなかったわけでもないけど・・・・・・なんだろう、すごく、こわい。



「・・・・答えられんか、じゃああててみせるき、あたったら正直にいうんじゃよ?」
「え、ええ、ええええ!?」
「・・・・・・柳生がすきじゃから、どうじゃ?」
「・・・・・あ、あのラブレターはわたしじゃないから」
「でもすきなんじゃろ」



 とっさに首をよこにふりかけて、やっぱりやめて・・・どうこたえようか迷っているうちにも仁王くんはにやりと口角をあげる。や、やばい



「・・・・・や、柳生くんには、いわないで」
「ほう、考えてもええがの」
「おねがいだから」
「そんなに必死にならんでもええじゃろ」
「で、でも!」



 益々笑みを深める仁王くんに、わたしは頭を悩まされるばかりだ。・・・・・・どうにか打破する手はあったはずなのに、今更後悔しても遅いんだけどどうにも対策なんて思いつかない。宥められて、ひとまず引き下がるけど・・・・・ほんとに柳生くんにわたしの気持ちがばれるわけには、いかないのだ。
・・・・平和な日常のためだもの。



「告ったりせんの?」
「し、しないよ」
「ほう・・・・ま、今日はひきとめてすまんかったのう」
「ううん」
「またの、みょうじ」






 そう決意したわたしにとって、ここですんなり引き下がる仁王くんの行動にはかなり驚かされた。
背を向け、悠々と歩いていってしまう仁王くんの背中をぼんやりと追いかけながら、わたしはいまだに夢見心地でいることしかできない。

 柳生くんへの気持ち、黙っていてほしいってあんなにいったのに結局頷いてもくれなかったし・・・・・・・・・不安は募るばかりだけどこれ以上仁王くんと接触する勇気も、どうにかする自信ですらわたしにはないわけで。一気に力がぬけたわたしがフェンスにもたれかかるのと、仁王くんが出て行った反動でドアがぴしゃりと閉まるのはほぼ同時の出来事だった。



 ・・・・・・・・・こうして、わたしのとんでもない一日はようやく幕をおろす


20130406

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