「で、柳生くんと仁王くん、どっちがすきなの」


 女の子って本当にこういう話がすきだなって、つくづくおもう

 かくいうわたしも他人のは好きだし、それこそ積極的にきいたりもするけど・・・・自分が話す立場になるとちがうのだ。どうしても、照れが勝ってなにもいえなくなる。
とはいえ、
このこたちの前ではそんないいわけは通じるわけもなく・・・・。
例のあの騒動もおさまって、平和が訪れるかとおもえばこれなんだからどうにも気がぬけない。



「ど、どっちって・・・・」



 仁王くんか、柳生くん。
柳生くんはともかく、いまはわたしにとって一番触れてほしくない話題がこれだった。

 わたしは、仁王くんがすき。・・・・・そう認めては、いるけれど・・・みんなに伝えてしまえるかと聞かれれば・・・・・答えはノーだ。
みんなは仁王くんがわたしを好いているって思ってるわけだし、わたしも好きだなんていってしまえばそれこそ騒ぎになりかねない。

 それに、仁王くんが実際わたしをどう思ってるかなんて、わ、わからないし
・・・・・考えたって行き詰まるばかりでなんだかむかむかしてきたわたしは詰め寄るみんなを押し退けて、こういいはなつ。



「・・・どっちもすきとかじゃないし」
「なにそれ!!!」



 歯切れ悪くそうこたえたわたしにすごい勢いで反発する面々に圧倒され、わたしはしずかに椅子をうしろにひいた。
なかでも、みっちゃんの目はなんだかぎらぎらしていて、こわい。

「でもさ、仁王くんはきっとなまえのこと、」



 そういいかけたみっちゃんの肩を小突いたのはゆんちゃんだ。みっちゃんはゆっくりと振り返り、それからはっと口をつぐむ。


わたしは、なんだか嫌な空気を察知した。

 さっきまでそれはもう楽しそうに尋問していたみんながずらりと身を退いていくなか、
その視線を辿ればそこには、

仁王くんがたっていた。



「・・・に、おー・・・くん、いつから、そこに」



 ゆんちゃんの上擦った声をよそに、仁王くんはなんだか表情の読めない顔でずかずかと近付いてくる。わたしも、みんなも、それをしずかに見守る。

 そうして、わたしの前に立った仁王くんは



「俺もなまえのことなんか好いとらん」



 力ない声でそういうと、わたしの前の席にどかりと座った。

空気は依然としてしんとしたままで、みんな動けずにいるなか、わたしは心臓が脈打つのをかんじていた。

 ここで、立ち去るならまだしもなんでわざわざ座ったのか
みんなそう思ったし、たぶん本人も気付いてる。そのむすっとした横顔からすこし悲しみをかんじたわたしは、よくわからない罪悪感に苛まれていた。

 でも、・・・つ、付き合ってるわけじゃないのに、すきじゃないって聞いただけでムキになって・・・・"好きじゃない"って、



「・・・・好きじゃないんじゃなかったの?」
「好きじゃない」



 ・・・・しかもしっかり返事はかえしてくれるし。
なんだか子供みたいで、可愛らしくってついついわらっていると、仁王くんはぷい、と前を向いてしまう。

なにか言いたそうな目でわたしをみているゆんちゃんたちをよそに、チャイムがなって・・・・。



「帰る」



 だれにいうでもなく、そう言った仁王くんはむす、としたまま自分のクラスへと戻っていった。

 ドアがしまってすぐ、口を開いたのはすっかり脱力したゆんちゃんだ。



「・・・・・・なーんか、こっちがむずむずするよね」
「しかも仁王くん、あんなキャラだったんだ」
「ふ、二人があんなこというから!」
「でも、なまえはいまの関係なんともおもわないの?」
「・・・・おもわないわけじゃ、ない・・・けど」



 思えば仁王くんは、突然くっついてきたと思えばはなれて、油断させたと思えば急接近。その繰り返しだったっけ。
そんな割には理由とかは一切教えてくれないし・・・。

 噂は噂だ、っておもってたけど、まさかこういう形でもてあそばれて・・・・・・・・るわけもないし。
だけど、わたしを構うメリットもないわけで。変装を見破るひとだって、探せばいるかもしれないし・・・・

 なんて、結局あれこれ考えたまま午前の授業を終えることになってしまった。
・・・・・・・・まずは仲直りしなきゃいけないっていうのに。

 あの様子からするに、決して不可能じゃないんだけど・・・・・なんだろう、脳裏に繰り返されるのは"このままでいいの?"という声。よくない、よくないけど・・・だからって、



「なまえちゃん」
「わ、に、仁王くん・・・おまたせ」



 実は、今日はゆんちゃんの薦めでわたしから屋上に仁王くんを誘ってみたのだ。
二人でちゃんとはなしておいで、ってみんなは言った。・・・・・だけど、現実はちがう。そんなことができたらもとから苦労なんてしていないんだから。

今回わたしがめざすのは仲直り!そう言い聞かせてはみるけれど・・・・・こころの準備はできないまま。


 さらにいえば、今日は屋上にみんなの姿はない。好都合といえば好都合だけど・・・・・・・きまずいことにかわりはない。会話はなく、空気だって当然重苦しいもので。それに耐えきれず、先に口をひらいたのはわたしだった。



「ねえ、仁王くん・・・まだ怒ってる?」
「怒っとらん」
「じゃあ拗ねてる」
「拗ねとらん」
「拗ねてる」
「拗ねとらん」
「拗ねてない」
「すねて・・・・らん」
「・・・すねてらん、」



 言いながらぷに、と頬をつつくと、仁王くんはかあ、と赤くなる。妙な優越感に頬を綻ばせながらも、内心はすごく安心した。
 さすがにずっとあの調子でいられたらわたしだって参ってしまうし・・・それに、純粋につられる仁王くんがかわいかったんだからしょうがない。



「・・・・好きじゃない・・・ことはないけど、みんなの前だったし」
「拗ねとらんって」
「・・・・大体わたしたちそんな仲でもないでしょ」



 きいてる?仁王くん
そういいかけたわたしがはっとしたのは、仁王くんの変化に気付いたからだった
 だが、そのときにはもう遅く・・・・・すぐ目の前に仁王くんが立って、それから、手首に痛みを感じた。仁王くんにつかまれている、そう気付くまで時間はかからなかったけど、なによりもその力の強さに驚いたわたしは身をかたくする。



「な、なに、こわいよ、仁王くん」



 思ったよりもか細い声がでて、仁王くんはすっと目を細める。手首をつかむ力は、かわらない。ぴったりと重なるわたしたちの影が視界にうつり、じわりと汗が滲むなか、
そのまま体をよせられ、わたしは短く悲鳴をあげた。



「に、仁王くんってば」



 押し返そうにも腕の自由がきかないせいでうまくいかない。仁王くんは表情のよめない顔でわたしをじっとみていて、わたしも、仁王くんを見つめ返す。一瞬、仁王くんが苦しげに眉を潜めたとき、それはおこった

 仁王くんが、わたしのくびもとに顔を埋めて、それから、



「・・・っ、」



 それから、



「に、仁王くん!!な、にして・・・・・・・・・!」
「おこらんで」
「お、おこるよ!」



 いまのは絶対についた、と、おもう。(確認する余裕はない、)

 仁王くんは意外にもすぐにわたしから身を退いて、となりにすとんと腰をおろす。その吹っ切れたともいえる落ち着いた様子は、顔を真っ赤にしておこるわたしとはあまりにも対称的だ



「どうしてこんなこと、」



 したの、そういいかけてやめたのは、答えをきく勇気がなかったからだった。
また誤魔化されるかもしれないし、突拍子もない返事がかえってくるかもしれない。
だけど、仁王くんが例えそんな答え方をしたとしても、わたしにとっては大きな問題で。(き、キスマークも問題だけど・・・!)

 いいようのない空気に耐えきれず、口を開こうとしたときだ。仁王くんがぎこちない動作でわたしを抱き締めた。



「・・・・・したかったから、したナリ」
「し、したかったからって、」
「そのままの意味なんじゃけど」
「・・・・どういう、」



 今にも消え入りそうな声で、わたしを強く抱き締めながら、好きだ、って、たしかに仁王くんはそういった。

 わたしの思考はぷつりと途絶える。でてくるのはどうして、だとかなんで、だとか、そんな疑問ばかり。

 そのあいだにも仁王くんはわたしの顔をのぞきこんで・・・・・・・顔を、近付ける。
仁王くんが目をとじたのと、わたしは仁王くんの顔を押し退けたのはほぼ同時の出来事だった。



「・・・・・こういうの、こまる」
「なんで」
「こまるの!」
「・・・・・・」
「・・・・・・・ん、・・・んん、っふ・・・・・・」



 こまるって、いったのに。

押し当てられたそれはずっと薄くて、なんだかかさかさしていて。逃げ出そうとしたところを再び引き寄せられて、そして、仁王くんは何度かわたしの唇を啄んだあと、ぺろりとひとなめして離れていった


 まだぼんやりとする視界でわらう彼は、普段からはとてもじゃないけど想像できない、わたしの知らない仁王くん。



「・・・・もっかいしてもええ?」
「あ、や、やだ!!お、おかしいよ、仁王くんってば、・・・やっ・・・・・・・・・」



 どうして、その声はかき消され、再び口付けられる。
付き合ってもないし・・・・いま、告白されたばっかりで、返事だってしていないのに、
そんなことばかりがぐるぐると頭をめぐる。



「柳生に、負けんから」



 掠れた声に、わたしはきっとひどく驚いた顔をしただろう。それも、まさか柳生くんの名前がでるとは思わなかったからだ。

 わたしは息をのむと、ゆっくりとくちをひらく。
考えはまとまってはいないけど、仁王くんはわたしがすき、で、それで、わたしは、



「い、一回しか、いわないよ」
「ん」
「あのね、わたし、その・・・・・・仁王くんの気持ちがわからなくて、踏み出せずにいたんだけど」



 わたしは柳生くんがすきで、いつもみているだけだった。仁王くんに出会えたのは、あの手紙のおかげで。
それから、世界がかわった。
いままで関わったことのなかった立海のテニス部のひとたちともすこしだけど話すようになって、あの柳生くんとも、話すことができて・・・・。

 よく知らずに、こわいひとだって思ってた仁王くんの意外な一面もたくさんしれた。



「わたしは、わたしも、仁王くんのことが・・・」







「なあ、柳生とはじめて会った日のこと、覚えとる?」
「そりゃ、大体は・・」
「・・・・そのことなんじゃけど」
「どうしたの?」
「聞きたい?」
「え、そんな言い方されたら気になる」
「・・・・・実はあれな、あのときすでに俺となまえちゃんは運命の出会いを果たしてたんじゃよ」
「・・・・・・・・・また柳生くんに嫉妬してそんなこと言う!」
「なっ、本当なんじゃって!」
「わたしがすきなのは仁王くんだよー」
「、なまえちゃん・・・!って、そうじゃなくて!だから、あのときは・・・!」



そんな、ふたりのおはなし

20130518

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