「きょうはわたしたち委員会あるから」
「二人ともごゆっくり」
昼休みになった途端、そういって立ち上がるゆーちゃんを見上げながら、わたしはぽつりと疑問符をうかべた。
わたしたちって、ゆーちゃんはともかくとなりに並ぶみっちゃんはなんにも所属していないはずなのだ。
なのに、ごゆっくりって!そういったものの、二人ともなんだか含みのある笑みを浮かべて踵をかえす。
それから、入れ違いにやってきたのはもちろん仁王くん。
「二人?」
「うん、だからどうする?屋上いく?」
「いく」
事情をきくなり仁王くんの表情が明るくなったのをわたしは見逃さなかった。たしかにここ二、三日はずっとみっちゃんたちと一緒だったし、それに仁王くんは宣言通り滅多に話したりはしなかったから、こんな風に話すのも妙に懐かしく感じる。
しらんふりを決め込む仁王くんと、ちょくちょくわたしたちの仲について引き出そうとするみっちゃんとのやり取りは好きだったんだけど・・・・
こんなふうに、素直にうれしそうにしている仁王くんもわるくないかもしれない。
懐かしく思いながらも、屋上へとつながるドアをあける。
差し込む光に目を細めながらもいつもの場所へとすすむ仁王くんのあとをついて歩いて、すぐさま異変に気付いた。
もちろんそれはわたしだけじゃないらしく・・・振り返った仁王くんは怪訝な顔をして、
それから、
「なんでおまんらがここにいるんじゃ!!」
「仁王に、みょうじさんじゃないか、偶然だね」
「ああ、全くの偶然だ、そしてこっちがさらに偶然二人分空いているようだな」
言葉を荒げる仁王くんの視線の先にはテニス部のレギュラーのひとたちが揃ってお弁当を広げていた。
・・・・今回は仁王くんもこっち側にいるけど、なんだかあのひを思い出す構図。
「いいだろい、皆で食う方がうまいって!な!みょうじさん!」
「そうだよ、ね、仁王」
「・・・・・」
・・・・たしかに、さっきはよろこぶ仁王くんを愛でていたけれど、二人きりは緊張するから、これはこれでよかったかもしれない。わたしがそう思っているのを読んだのか、恨めしい視線を受けながらも幸村くんに手をひかれるままにベンチに座ろうとすると・・・
「なまえちゃんはこっちじゃ」
べつの方向からのびてきた手によって、引き戻される。いうまでもなく、仁王くんの仕業だ。
幸村くんがさりげなく柳生くんのとなりを紹介してくれていたらしく、わたしが腰をおろしたのは仁王くんのとなりの、柳生くんから一番はなれた場所。
特になにも思わなかったけど、ムキになる仁王くんはかわいいし、正直すこしはなれた方が様子をみることができて好都合。・・・とはいえ、いまは柳生くんをみてもなんだか前ほどの昂りは感じられず、自分でも驚いた。
「なに?仁王、妬いてるの?」
「・・・なまえちゃんがやぎゅばっかみるから」
「仁王くんもみてるよ」
「ピヨ・・・・」
みんなのまえで(しかも本人もいる)そんなことをいわれたら、きっと前までのわたしなら今すぐ死んじゃいたくなってたんだろうなあ。ぽつりとそう思うと、ここ数週間での自分の心境の変化をすこしだけ知ったような気がした
一方、仁王くんはみんなからわたしを阻むようにして座ると、頬杖をついてパンを食べ始めて・・・。
それをみたわたしも、同じようにしてお弁当をひろげる。
「最近姿みせないから心配したんだぜ」
「色々あってのう」
「色々?くわしく聞かせろよ」
「みずくさいですよ、仁王くん」
「そのまえにまさかおまんらこの一週間ずっとここにいたんか」
「屋上はみんなのものだからな」
「・・・・二人きりじゃとおもっとったのに」
そうぼやく仁王くんの手からはすでに小さなパンは消えており、さりげない動作でわたしにもたれかかる。わたしはそんな仁王くんをやんわりと押し返しながらも玉子焼きを頬張った。
そんなわたしたちをにやにやしながらみている幸村くんに・・・その奥で眼鏡のブリッジを引き上げる柳生くんでさえもなんだか纏う雰囲気は柔らかい。
・・・・やりにくいなあ、そう思っていると、再び肩にのしかかる物体が約一名。
それを押し返そうか悩んだそんなときだった。
「あの、みょうじさん」
「・・・・あ」
「屋上にいくのをみたってきいて、押し掛けてごめんなさい」
教室で、突然呼び掛けられた"あのとき"と重なった。
すこしおはなしがしたいの
そういって、顔をのぞかせた彼女からは"あのとき"の威厳は見当たらない。
みんなの視線があつまるなか、わたしはゆっくりと立ち上がる。
「・・・・おまん、もしかして先週の、」
「仁王くん、いいから」
「でも、」
「大丈夫だから」
「・・・・・・」
仁王くんが彼女をじっと睨み付ける。
彼女の方はゆっくりと視線を落とす。小さな手が震えているのをわたしは見逃さなかった。
一方わたしは、緊張はあるものの、もうこわくはなかった。それもきっと彼女の憔悴ぶりは演技にはみえないからだ。
屋上をあとにするまえ、みんなにむけて笑顔をつくってみせる。仁王くんはいまにも泣き出しそうなような、怒っているような・・・不思議な顔でこちらをじっとみていた。
彼女は校舎裏につくなり、淡々と語り始めた。仁王くんがすきだったこと、近付いて拒絶されたこと、それでも諦めなかったこと。そして・・・・仁王くんに好かれているのになんでもないように装うわたしが憎かったこと。
深く頭をさげる彼女に、わたしはかける言葉がみつからなくて、拳を握りしめた。
わたしは、柳生くんを追いかけていたときだって、みてるだけで幸せだった。だから、きっと柳生くんと仲のいい女の子の存在がいたとしても、それを知ったとしても、彼女のようにはならなかった・・・と、おもう。
悲しいけれど、今まで通り行動にうつせずにいる。それがわたし
だから、彼女がどんな形でさえ行動にうつしたことは、すこし羨ましくもある。
諦めないから、それだけ告げて踵をかえした彼女の後ろ姿を、わたしはいつまでも見続けていた
いろんなことが頭の中をぐるぐるとまわって、わたしがようやく我にかえったのは視界に見知った銀色が飛び込んできたからだった。日差しをうけてきらきらひかるそれにみとれている間にも、視界が真っ白になる。
抱き締められていることに気付いたのはそれからだった。
「・・・・・仁王く、」
「・・・」
「くるしいよ、仁王くんってば、」
いいながらぎゅうぎゅう抱き締められて、なんとか離れようとするけど逆に力はつよまるばかりで。さらにじわじわ押された結果、背中を反る形になり・・・いろいろと限界をむかえたところでやっと解放される。
ようやくかおをあわせた仁王くんは、なんだか泣き出しそうな顔をした
「なんも、できんかった」
「仁王くんは一緒にいてくれたでしょ」
「またたたかれたりせんかった?酷いことを言われたりとか、」
「してないよ、謝ってくれたの」
仁王くんは驚いたようにゆっくりと目を瞬かせて・・・・それから再びわたしにすがり付く。
「・・・・・とりあえずはなれませんか」
「いやじゃ」
「・・・・・・仁王くん」
「・・・いやじゃ!」
「だれかにみられたら恥ずかしいし!」
「だれも通らん・・」
仁王くんはたまに大きい子供みたいだって、ふつふつとおもう。密着しているせいでいつもよりか細い声も、ふわふわのねこっけも、すこしくすぐったい。
そうして、仁王くんの肩をやんわり撫でてあげながら・・・不意に目頭があつくなるのをかんじた。
どうしようもなくて、ただただ怖かったあのひ、守るっていってくれた。
自分の責任だって言い張って、毎日わたしのところへやってきてくれた、それだけでもわたしは嬉しかった。
なのに、いまだってこんなにもわたしを想ってくれてる。
仁王くんの心音に耳を預けながら、あのこの悲痛な叫びを思い出す。
なんであなたなの、そういいながらわたしの頬を打ったあのこ、あなたがうらやましかった、そういいながら頬を涙で濡らしたあのこ。
なんでわたしなのか、
そんなのわたしにもわからない。でも・・・・
隣にいたい。仁王くんと一緒に、いたい。仁王くんを知りたい
そんな気持ちがおおきくなっているのに気付いたのは、いつからだったか
20130512
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