これは、中学三年の卒業を控えた春のできごと。

わたし、みょうじなまえには二年間片想いしている相手がいた
きっかけはほんとうに些細なことだったけど・・・・落ちてくように好きになって、
恋に落ちるってこういうことかって、ひとりで納得したあの遠いむかしがいまではすこしなつかしくもある


まっすぐ前を見据える目が、みんなを引っ張りあげる腕が、上をめざす頑なな姿勢が、その大きな背中が、真面目で堅い意思をもつところが
ぜんぶ、ぜんぶすきだった

"かなわない恋"だなんて、最初から・・・むしろ、好きになった瞬間からわかってた。だけど、気持ちは二年たっても消えるどころか、どんどん膨らんだ。


だからわたしは彼に、真田弦一郎に、告白をした。


・・・・・・もちろん、結果は惨敗だった
断られることは最初からわかってたし、覚悟はしてた。でも、わたしなりに必死にいろんなことを考えて臨んだはずだったのに・・・・そう甘くはなかったのだ。


頭が真っ白になりながらもなんとか声を振り絞るわたしをまっていたのは、穏やかな拒絶。必要がない、くだらない、そういい放たれたときの衝撃はいまもなお胸に深くこびりついている。だって、わたしはまだ最初の一フレーズさえ口にだせていなかったのだから

たしかに真田くんにとってはくだらないことかもしれない。でも、そんな風にひとくくりにしてほしくなかった。せめて、想いを伝えたかった・・・・


そんな身勝手な想いが暴走した

どうしたかって、わたしは・・・・なんと、真田くんにむかって逃げるのかと、詰め寄ってしまったのだ。
結果、我にかえって余計に混乱に陥り・・・・咄嗟に謝って、ほんとうにだいすきでした、と締め括りに告げるだけ告げて逃げ出す、という・・・・・・・・本当に最悪な、告白。





「泣くぐらいなら告白しなかったらよかったんだろい」
「だ、だって・・ほんとに、ほんとにすきだったんだもん・・・」



いま、わたしの隣にいるのはいろいろと協力してくれた友達であり、真田くんとおなじテニス部でもある仁王くんと丸井くん。

経緯をはなすにつれ、後悔やら悲しみやらが押し寄せてきて、ついには涙を浮かべてしまったわたしをみて、二人は困ったように笑う。



「相手が悪かったのう」
「そうそう、よりにもよって真田じゃあどうしようもないって」
「それはわかってるってば!てか!慰めるとかないの!」
「はいはい、言えたんだったらそれでよかったんじゃねーの」
「これで悔いなく卒業できるのう」



な、慰めてもくれない!
わたしだって、わたしだって、断られるのはわかってたし、無謀だってわかってたけど・・・もっとこう、あるんじゃないの。がんばったな、とか、つらかったな、とか!そういうの!

・・・・なんていう元気もなく、必死に鼻水をすすると、仁王くんがポケットティッシュを差し出してくれて、余計に涙が溢れたのはいうまでもない。こういうときの優しさには、どうしても弱いみたいだ



「・・・・・・真田はやめろって、いったじゃろ?」
「べ、つに、後悔してるわけじゃ」
「じゃーなんで泣いてるんじゃ」
「鼻水だし」
「ばかなまえ」
「手がかかるのう」



わかってる

わかってるよ
でもね、すきだったの

伝えなきゃもっと後悔してた。


ちゃんとできてたら、もっと、よかった



「だって、だってー・・・っひ、わ、たしは、さな、だくんのこと、ぜんぶ、す、っきで、」
「しっとるよ」
「むりだって、わかっ・・・、け、ど・・・っ、・・・・ふた、りとも、おう、えんして、・・・たのに、・・・わた、・・・・・・・・・・」



ぶわ、と涙が溢れたのをさいごに、わたしは顔をうずめたまま膝をかかえて、声をおし殺してないた。

すこし泣いたらすっきりして、卒業に向けて明るく過ごすはずだったのに。こうまで予定がちがうとなんだか悔しくもある。

それに、きっと二人とも呆れてるのに、こうしてちゃんと聞いてくれてる。それだけでもありがたいのに、
背中をさすってくれる手があたたかいから余計に涙腺を刺激するんだ。
こころのなかでそんな悪態をつきながらも、わたしはずっと泣きつづけた



・・・



それから、
どれだけたったのかわからないけど・・・・・すっかり涙をすった一枚のポケットティッシュが時間を物語っているきがした

目をはなして、呼吸を整えながら膝から顔をあげたわたしは眩しさに驚いて何度かまばたきを繰り返す。・・・・そういえばここ、屋上だった。


あったかい日差しを堪能しながらもう一度顔をあげて、
そこで待ち受けていたものにまだ滲んでいた涙も引っ込むこととなるのはいうまでもなく。



「・・・・・・あ、れ」



うそ、
そう思いたかったけどこれはたしかに現実で、
もうひとついえば、いるはずの二人の姿はなくて・・・・・

かわりにわたしの傍らに座っていたのは、



「・・・・・混乱、しているようだな」



真田くんだった



「実は最初からいたのだが・・・・、二人が帰ってからここに、な」



言いながら、真田くんは屋上庭園の方を指差す。
が、わたしはその指を追いかけながらもあたまのなかはショート寸前だ。

最初からいたって、ここにいたって、
つまり、真田くんはずっとむこうでわたしのはなしをきいていて、わたしが泣きわめいてる間に仁王くん丸井くんと場所をバトンタッチしてい、た?

つまり、犯人は二人しかいない
わなわなと込み上げる様々な感情をなんとかおさえながらも、まずは恥ずかしさで死んでしまいそうだった。
い、いろんな事が一気にはずかしい。

目をあわせられないまま、視界のすみにみえる真田くんがくちをひらく。わたしは自然と身構えた



「・・・すこし、いいか」



よくない、よくないけど、そうはいえずにこくりと、頷いてみせる。そんな微弱な反応をみせるのがいまのわたしには精一杯だった

が、
真田くんがいきなりがば、と土下座をしはじめるからわたしはあたらしい反応をとらざるを得なくなる。



「その・・・先程はすまなかった」
「え、あ、あの、まっ・・・あたま、あげて」
「いや、こうでもしなくては気がすまんのだ・・・」
「・・・さ、なだくん・・・」



屋上で、土下座をする真田くんと、わたし。なんともいえない光景だ

と、とりあえず、あたまをあげてもらわないと



「本当にもういいから、わたしの方こそあんなこと、ごめんなさい」
「なぜ謝るのだ、悪いのは俺なのだから」
「じゃあ、とりあえずあたまあげて」
「・・・すまない」



真田くんが黙り込んでしまうから、わたしまでなにも言えなくなってしまい・・・きまずい空気がながれる。
最後までこのひとを困らせることしかできない、そう思ったとき。視界がじわりと滲んだ。
泣いてしまっては余計にだめだ、そう言い聞かせるけど、涙はとまりそうにもなく、ただただ浮かぶ。
そんなわたしを、真田くんはぎょっとしてみていた。



「・・・・な、なぜ泣く」
「だっ、て、」
「あのときの男気はどうした」
「あ、あれは・・・やけくそで、」



ぐすぐすと鼻をならすわたしをみて、真田くんが眉根をさげる。それが申し訳なくて、下唇をぎゅう、とかみしめた。

それからはまたしばらく沈黙がつづく。・・・・・なにしにきたの真田くん、そう言いたくもなるけど、我慢。



「もう、大丈夫だから、やさしくしないで」
「なぜだ」
「だ、だって、つらくなるだけだし、」
「・・・・そうか」
「・・・・・」
「・・・・・」
「は、はずかしいから、もう・・・っかえってください」
「しかし、・・・いや、すまなかった」



無言の重圧に耐えきれず、そうはいってみたものの、真田くんは厳しい表情のまま、かえろうとはしなかった。
わたしはわたしでそんな真田くんのことをみれそうにないし、どうしよう。そうおもったときだった。



「みょうじ」
「・・・・な、に」
「・・・・・・・胸の内を、きくことはしてやれるぞ」



喉の奥が、ぎゅう、とあつくなる
どうしてこんなに優しくしてくれるんだろうか。そう考えかけたけど、やめた。その答えはあまりにも明快で、それでいて、残酷だ。


ごめんなさい

いまだけ

いまだけだから、
甘えさせてください



「・・・・・・真田くん」
「・・・ああ」
「すき、ほんとに、すきだったの」
「・・・・・ああ」



わたしは淡々と吐き出すようにくちをひらいて、
真田くんはただただとなりにいて、相づちをうってくれる。ただそれだけなのに、ひどく落ち着いた

不思議ともう、なみだはながれなくて、
仁王くんがのこしてくれたポケットティッシュを握り締めた



わたしのながいながい片思いが、おわりをつげた
そんなはなし



20130408


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