漫画やドラマでみる恋はもっとあまくて、ふわふわしてた。だけど、実際はそんなんじゃなくて。

この二年間は勝手にわたしが一人で盛り上がって……ふわふわしてたようなものだったけれど、それからはちがう。
文字通り、あまくみていた、とでもいうべきだろうか。

………でも、立ち直らないわけにはいかない。わたしは、まえへすすむのだ。あれは昨日でおしまい。また今日からは、平和な日常にもどる
…………そう、思っていたわたしは、朝一番、校門の前にたつ影をみるなりそんなものは幻想だと知る

風紀委員の腕章をつけてあそこにいるのは、まぎれもなく真田くんだ。
登校する生徒の小規模な波のなか、わたしははたりと立ち止まった。どうしよう。今日が定期検査の日だなんてしらなかった。昨日の今日であわせる顔なんてないよ……!
幸い距離はまだある。わたしの姿は、ばれてない。



混乱したあたまでは逃げ出す以外の選択肢は浮かばなかった。風紀委員はたしか、予鈴がなるまえに撤収するはずだから、それまでどこかに身を潜めていれば平気だ。そんなことをあれこれと考えていたとき、呆然と立ち止まったままのわたしの肩をたたいたのは、



「よ」
「ま、まるいくん」



丸井くんだった。見知った顔を一目みて、安心のあまりなんだか泣きそうになる。そんなわたしをみて、丸井くんはすこし眉をさげてわらった。どうやらわたしの心情なんてお見通しらしい。



「がんばれ、な?」
「が、がんばれない」
「気負う必要ないだろい」
「ある!」
「なまえ」
「だって、」



なんだろう。さすがにこういうときの丸井くんはつよい。さすがはお兄ちゃんなんだなあ、と思い出させるほど優しい声色で、頭を撫でる手だって、いいかたはわるいけどやさしくって妙に慣れてると、おもう。………丸井くんの存在だけでも十分に癒されたわけだけど、だからってこのばを切り抜けられるというわけでもなく。わたしの足は依然としてとまったままだ。

わたしだってこんなの、わがままだってわかってる。わかってるけど、
本当にまだ真田くんと顔を合わせたくはなかった。



「ん」
「……これ、マフラー?」
「貸してやるから、顔埋めとけよ」
「え、い、いいよ」
「あと、ほら」
「え?な、なにその手」
「いいから」
「・・・・・」
「・・・・・」



こんなふうに強引に引っ張るんだから、ずるい。
丸井くんが強制的にまいてくれたマフラーはあったかくて、それでもって自分とはちがうにおいがして、なんだか安心できた。
・・・それに、不器用につかまれた手首からつたわる熱もあったかい。

手をつないでいるわけじゃないのに、妙に恥ずかしくなってうつむくと、マフラーが存在感を示して・・・・どうにもならない。
ななめ前を歩く丸井くんの背中を追いかけながらも、わたしの心拍数は最高潮に達していた

真田くんまで、あともうすこし




「丸井」
「おっす」
「・・・・に、みょうじ、か」



目を丸くしながらそういった真田くん。わたしは咄嗟に目を伏せた。

同時に、手首を握る丸井くんの力がつよくなる。まるでそれが大丈夫、とでもいうようだと、おもった。



「じゃ、また部活で」
「あっああ・・」



ほんの一瞬のはずなのに、随分とながい時間に感じた。真田くんの歯切れのわるい返事を背中にきいて、そこでようやく顔をあげる。
わたしを気遣って振り返った丸井くんは、困ったようにわらった。その笑顔でさえ、わたしにとってはすごく安心できて、また泣きそうになる。
わたしは、いまここにいない仁王くんをふくめて、二人に助けられてばかりだ



「真田、焦ってたな」
「み、みてないし、それに!手!もう大丈夫だから」
「ん」
「・・・ありがと」
「ギリ泣かなかったみたいだな」
「・・・・うん」



どことなくぎこちない雰囲気のまま、手をはなして、またあるきだす。
そこでわたしは気まずさをなくすためにも、とある話題をだした



「丸井くん」
「ん」
「気付いたら二人が真田くんにすりかわってた件についてなんだけど」
「・・・・余計なことだったか?」



昨日のことはやっぱり二人が犯人だったらしい。ほんとうにばつがわるそうにして、そういう丸井くんを安心させるためにも笑顔をみせる。

たしかにびっくりしたし、すこしは二人を恨んだりもした。だけど、あれはあれでよかったとおもってる。
だって、きっとあれがなければわたしは今日みたいにこれからもずっと真田くんを避けたままだったし、傷ついたままだった。だから、きちんと言いたいことをいえて、少しの間、苦しかったけどあんなふうに話をすることもできたんだ。悔いはない、と言い切ると嘘になるけれど、それもいまだけだって思いたい。

だから、そんなふうになるように協力してくれた二人にお礼をいわないと。
わたしは顔をあげて、もう一度笑顔をつくる。



「ありがとう」
「・・・おう」
「でもびっくりしたんだから」
「ちゃんとはなせたか?」
「うん、すっきりした」
「なんだ、よかった」
「よくはないし」
「どっちだよ」
「わかんない」
「・・・また泣く」
「泣いてない!」



どうにも、あの件以来涙腺が緩くなったとおもう。
そんな自分がなさけなくて、はずかしくて、そうおもうと余計に涙が溢れる。完璧な悪循環。

丸井くんはこんなわたしに呆れずに、しょうがないなってわらう。


「あーもう擦んなって、」
「、ごめん」
「おまえなー・・・ごめん、じゃないだろい」
「・・・・ありがとう」



今日は丸井くんにお礼をいってばかりだ
やっととまってくれた涙を最後にぬぐって、再びわたしたちは教室をめざしてあるきだす。さっきまでとはちがって、丸井くんはわたしのとなりにいる。



「仁王くんは?」
「昼からくるって」
「そっか」



仁王くんにお礼をいうときには泣かないようにしないと
ひっそりと、そう誓った。
そんなときだった



「・・・・新しい恋愛、しろよ」
「・・・・どうして?」
「話、またきいてやるから」
「・・・・・・・うん」



そっか、丸井くんも仁王くんも最初から最後までちゃんときいてくれてたんだ。だから、こんなにやさしくするの?助けてくれるの?

・・・・丸井くんみたいなひとをすきになればよかったのかな、
こればっかりはどうしようもないのに、そんな風におもってしまった。たぶん、本人にいったら笑われる。ううん・・・おこられちゃうかな

まえへ、すすまないと
引き上げてくれた二人にもう大丈夫だよ、って、笑えるようにも





そう思うけれど、いまはまだ、痛む心はみないふりをしておいた

20130410


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