そうして、わたしが教室をでたのは随分あとになった。
クラスのみんなに応援されてしまったのは正直はずかしいけど・・・・でも、勇気をもらったから大丈夫、がんばれる。
そう言い聞かせて、早歩きぎみにあるく。

そうして、ようやく階段がみえかけ・・・廊下のひとも減ったころ、それはおこった

名前をよばれた気がして振り向けば、そこには息を弾ませた仁王くんがたっていた。どうやら追いかけてきたらしい。



「どうしたの」
「忘れもんじゃ」



仁王くんはなんだか神妙な顔つきでそういうけれど、その手にはなにも握られていないし、わたし自身"忘れ物"にぴんとこなくて疑問符をうかべる。

すると、仁王くんはなんだか落ち着かない様子で視線を揺らし・・・・そして腰を屈めたとおもえば、わたしのおでこにキスをした。



「・・・・に、おう、くん・・・!?な、に、して・・・・っ」
「なまえがうまくいくように、おまじないじゃ」



ほんの一瞬だったのに、まだ感触がのこってる。混乱しながらも仁王くんをみると、彼は・・・・・・ひどいかおをしていて、心臓をぎゅう、とつかまれたような心地になった。

仁王くんは弱々しく、それでも精一杯の笑顔をみせる。
だからわたしは謝ろうとしてのみこんで、かわりに



「・・・ありがとう」



ぽつりとそういった。

一筋、ぽたりと涙を流したわたしを仁王くんは困ったかおでみている。泣きたいのは仁王くんなのに、そんな仁王くんをみてなくのは卑怯なんだろうか。


だけど、
何度も助けてくれたその手のあたたかさの理由を、わたしはしらずにいたんだ

仁王くんはどんな気持ちでわたしを見送ったんだろう。どんな気持ちで、生徒手帳を彼に渡したんだろう。

仁王くんはわたしへ伸ばしかけた手をはたりととめて、それをポケットのなかへと無造作にしまう。その動作はわたしの涙腺を崩壊させるのには十分すぎたけど、わたしはもう、泣かなかった。



「引きとめたりして悪かったの、じゃあ、がんばりんしゃい」
「・・・・に、仁王くん、」
「・・・・・真田が、待っとる」
「・・・・・仁王くん、わたし」



なにか言わないと、そうは思って名前を呼んだけど、言葉はでてこなかった。しってるからだ。気休めになるようなことをいっても、傷つけることを。



「ずっと、なまえの気持ちを最初から聞いて、応援してたんじゃ」
「うん」
「その・・・・気持ちに、偽りはなかったんじゃ」



しってる、しってるよ



「でも、いつからか好きになってた」



わたしが仁王くんの気持ちを、しらなかった。気付けなかっただけだ。
仁王くんはわたしを、いつも応援してくれてた。告白をするまえに、弱音ばかりはくわたしを叱ったのだって、仁王くんだった。


いわなきゃ後悔、するんじゃろ

あのひそういった仁王くんに勇気付けられたんだよ。



「今まで散々真田を想うなまえをみてきたんじゃ、大丈夫じゃき、泣かんで」
「・・・・・・・・うん」
「なまえは泣き虫じゃのー」



ないてないよ、そういいたかったのに、声は掠れてでてこなかった。滲む視界のなか、戸惑いがちにのばされた腕はわたしの髪をわしゃわしゃとかきみだす。



「なまえは俺の大事な友達でいてほしいナリ」
「・・・・・・うん、ありがとう、わたしも、仁王くんのこと、大事だよ、」
「はやくいきんしゃい」



髪からはなれた手は肩におかれ、そのままわたしはくるりと方向転換。そうして、かるい衝撃とともに前におしだされて、自然と足がまえへでる。
振り向こうとしたら、制されて、


「振り向くんじゃなかよ」



そういった、仁王くんの声は掠れていた。



わたしは、声をあげて泣きたくなる衝動を必死に抑え込みながらまえへすすんだ。一歩、また一歩と、仁王くんから、はなれた。








仁王くんのいまにも泣き出しそうな、弱々しい笑顔はあたまにやきついて、はなれない

20130422


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