生徒手帳がない

その事実に気付いたのは、お昼休憩にはいってすぐだった。

昨日はちゃんとかばんの内ポケットにはいってるのをみたのに、ない、ない・・・・やっぱりない。



「に、仁王くんでしょ」
「なんじゃ、やぶからぼうに」
「わたしの生徒手帳、仁王くんがかくしたでしょ!」



詰め寄るわたしを、仁王くんが見上げる。おもったよりも切羽詰まったこえがでて、われながら驚いたけれど・・・・仁王くんは平然と、なにを言っているのかわからない、というふうな顔をみせた。
・・・・それは、わたしが普段あまりみることのなかった仁王くんの"詐欺師"の顔。



「なんの話だかわからんのう」
「うそ!昨日わたしのかばんあさったの仁王くんだけだもん!」
「なまえが自分でとれっていったんじゃろー」



そう、昨日飴をほしがった仁王くんにかばんにあるから勝手にとってっていったのは他でもない、わたしだ。
だけど!まさかこんなことになるとは思わなかったんだから今さら悔いても仕方がないけど・・・それとこれとははなしがべつだ。

そもそも、それが生徒手帳ではない、ほかのなにかだったならわたしだってこんなも焦ったりはしない。仁王くんは詐欺師だって呼ばれているけどそんな人じゃないって、わかってるもん。
でも、あれだけは・・・



「生徒手帳なんかなくても困らないだろい」
「こ、困るの!!」
「なんか見られて困るもんでもあんの?」



ひょい、と首をつっこんだとおもえば丸井くんはそんなことをいってのけた。
見られて困るもの、あるにきまってる。むしろ大有りだ。



「・・・・・・写真、二年以上前のだし」
「なんだそんなことか」
「そんなことじゃないし!!」



だって、二年も前の写真だよ?いまだって大人びているなんてほど遠いのに、あの写真は・・・・・だめ、だ。



「い、印刷とかして弱味をにぎるつもりなんだ・・・!」
「まったまった、なんで俺が犯人ではなしがすすんでるんじゃ!」
「だって、だって仁王くんってことにしないと落としたとかならわたし死んじゃう」
「それに、写真のなまえちゃんなら幼くて可愛かったぜよ」
「、やっぱり!」
「ピヨ」



昨日の仁王くんはどこか元気がない・・・・というよりなにかを考え込んでた。
気遣ってきいてみたってなにもない、の一点張りで、わたしなりに心配したし、たよりにならないかなって、気にしてたのに・・・・。
そのあと、飴をほしがる仁王くんがいつもどおりだったから安心したのに・・・・・・!



「ちょっと、丸井くんもなんとか言っ・・・・」
「あ、幸村くんじゃん」



きゃあ、と教室に黄色い歓声がまきおこる。わたしも反射的にかおをあげると・・・・そこには、幸村精市がたっていた
本物をこんなにちかくでみたのははじめてで、みとれてしまう。

しかも、こころなしか幸村くんもこっちをみて・・・・・・る、よう、な・・・・あ、

ああ、丸井くんたちがそばにいるからか。すぐさま自己解決するものの、やっぱりしげしげとみつめてしまうのは許してほしい。
ほんと、綺麗な顔・・・・・・



「ねえ、みょうじさんっているかな?」
「みょうじ?みょうじは・・・」
「こいつじゃよ」



・・・・・いま、よばれた?っていうか、仁王くんもわたしをゆび・・さしてる?

幸村くんが近付いてきて、わたしの目の前であしをとめる
わたしでさえもなにが起こっているかわからず、ただただぼんやりとと彼をみつめるばかりで。なにも考えられないあたまで、とりあえずクラス全員の視線がわたしに向けられていることだけは理解した。



「君がみょうじさん?」
「え、は、はい・・・」
「よかった、会えた」
「えっと、あの・・・・一体なんの用で・・・・」
「それが、実はみょうじさんの生徒手帳を拾ったんだ」



生徒手帳?
おもわずうしろにいる仁王くんへと振り返るけど、やつは目を泳がせている。

・・・・仁王くんから幸村くんへとわたしの生徒手帳が循環している?なにが、どうなって?
推理しようにもわからない要素がおおすぎて、どうにもならないわたしはさらに大きな衝撃をうけることになる。



「仁王や丸井の知り合いだって知らなかったから、生徒指導室に届けちゃったんだ」



生徒指導、室
小さな声でそう呟いて、すぐにわれにかえった。

そうして、今度はとなりにたたずむ丸井くんをみるけど、丸井くんはわたしから流れるように目をそらしてガムをふくらませる。

・・・・・・これは、間違いなく罠だ



「じゃあ、そういうことだから、真田によろしく」



にっこりわらってくるりと踵をかえす幸村くんは天使のようで、もちろん再びクラスに歓声が沸き上がるけど、わたしにはその背中に悪魔の羽がみえたようなきがした。真田によろしくって、なに

大体、わたしのかばんから仁王くんが取り出した生徒手帳がなんのために真田くんの手にわたる必要があるの



「・・・まあそういうわけだから・・・がんばれよ、な?」
「・・・・・・・・・・・も、・・・い」
「なんじゃ」
「・・・・・もう、生徒手帳いらない、再発行する・・・」
「写真はどうするんじゃ、みられとうないんじゃろ?」
「ま、丸井くん、おねが」
「いってこいよ、なまえ」



わたしの唯一の頼みの綱が、無惨にも打ち砕かれる。仁王くんはだめかもしれないけど、丸井くんならわたしのかわりに取りにいってくれるかもしれないって、思ったのに。

写真はたしかにみられたくない、それも、真田くんにみられたなんておもうときえたくなる
でも、のこのこと真田くんのまえに姿を現す方が・・・・いやだ。

わたしと真田くんを引き合わせてどうするの。もう、いいのに。わすれたいのに。わすれるためにがんばったのに、どうして

なんだか泣きたくなるけど、混乱の方が大きくて、涙は溢れてはこなかった



「なにもないかもしれんじゃろ、軽い気持ちでいけばいいんじゃ」
「それでもわたしは、」
「真田は、おまえに会いたがってる」
「・・・・・な、」
「俺達が保障する」



気が付けば、うしろには仁王くんがたっていて、わたしの頭を撫でた。
いつだってわたしを助けてくれた、わたしの背中を押してくれた、やさしい手



「・・・大丈夫、大丈夫じゃ」



それから仁王くんは、やさしい声色でただそれだけいって・・・ふにゃりとわらう。

大丈夫なんかじゃ、ない
そう言おうとしたわたしの声は涙に混じり、そのまま嗚咽とともに飲み込む。また、泣くのか、わたしは。そうおもうと情けなくて、拭う手がつよくなる。


ようやく視界もはれたころ、気が付けば、わたしを撫でる手はひとりからふたり、ふたりからさんにんへと、増えていっていた。
びっくりしてかおをあげると、そこには友達たちの姿があって。



「真田くん、まってるんじゃないの?」
「一回ふられたからって諦めちゃだめだよ」
「なまえあんなに真田くんのこと好きだったじゃん」
「そうだよ!ねえ、丸井くん、仁王くん」



よばれて、わたしのまえにたったのは、ずっとそばで応援してくれてたふたり。



「がんばれ、なまえ」
「いってこい」





ほんとに、余計なことばっかり

その言葉をさいごに、わたしは友達のむねのなかでわんわん泣いた。

なんで泣いたのか、自分でもよくわからなかったけど、
期待だって、もうしたくなかったけど、
諦めたなんてうそ、忘れられたなんてうそだ。必死にうそをついて、真田くんへの気持ちをまるごととじこめてた。それで、前へすすもうとしてた
真田くん、わたし、わたしは





むねのなかで膝をかかえたままだったわたしはようやくみんなの腕にしがみついて立ち上がった

20130419



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