付き合うって決まった頃から真田くんのテニスには関わらないって、決めてた。それも、真田くんに言われたとかじゃなくって、わたしの独断。
テニス部のファンの子たちのなかには、練習をみにいったり、大会を応援しにいったり・・・・もっとすごい子は話しかけたり、なにか差し入れをしたりだとか、積極的な子たちがいたのをたくさんみてきた。

 だけどわたしは、テニスに一生懸命な真田くんが好きだったからこそ、立ち入れなかった。
勇気がないだけ。だから、臆病者だって言われるかもしれない。
積極的な子をみてすごいなって気持ちも、すこし・・・羨ましいって気持ちもあったけど・・・・・テニスに立ち入る勇気がないのは、彼女になれた今もずっと変わらなかった。だって、真田くんは、真田くんたちは・・・・・生半可な気持ちでラケットを握っていない。わたしなんかじゃわかってあげられない。


 付き合ってるのに、一方的に遠慮しちゃいけないとはおもうけど、わたしはこれでうまくいくならこのままで・・・って、そう思ってた。



「やっぱり来ねーの?」
「いかない」
「幸村くんもおいでっていってたし・・・」
「いかないってば」
「・・・・がっかりするだろーなー」
「ごめんなさいって伝えといて!」
「本当の本当にいいのか?」
「いかない!」



 こんなやりとりをしたのは何度めだろうか。丸井くんの探るような視線から目をそらす。

幸村くんは、あれからも度々わたしを練習の見学に誘ってくれていた。ありがたいけど、わたしはそれを全て断っている。真田くんももしかするとその事実を知っているかもしれない。・・・・なのになにもいわないでいる理由を、わたしは聞くことすらできずにいた。



「でも、なんで行かないんだ?」
「なんでって・・・・」
「理由ぐらい聞かせろって」
「・・・・・大会なら真田くんがきてほしいって、いってくれたら応援しにいきたいけど・・・練習は別」



 丸井くんも、簡単には引き下がってくれないんだから・・・・。わたしがぴしゃりとそう言うと、なんだか丸井くんは呆れているようにみえた。いつもは深く立ち入ってこない彼だからこそ、すこし身構えてしまう。



「・・・・なんでそう受け身なわけ?」
「そんなことない」
「いや大有りだ!真田に嫌われるのがそんなに・・・」
「丸井くんには関係ない!」
「なっ・・・・・お前なあ、関係なくねーし!どうせ迷惑だとか邪魔だとか考えてるんだろい」
「・・・・・・・・・ちがわないけど」



 丸井くんとこんな風に口論をしたことは前にも一度だけあった。あのときはたしか、真田くんを諦める・・・・って、あんまり知らない先輩からの誘いを
うけようとしたときだっけ。いまは放課後で静かだけど・・・・ちょうどまわりにはたくさん人がいたのに、それをまったく気にせずに怒鳴ってくれたんだよね

 あれは本当にうれしかった。わたしもばかだったから、たくさんたくさん言い合って・・・・とめたのは、仁王くんだった
それがあるから今こうしていられるんだ。思い出すとなつかしくなると同時にどうしてもうれしくて・・・・こんな状況なのに、頬がゆるんでしまう。
 でも、目の前の丸井くんもわたしと同じようにわらってて・・・・ぽつりと思い出すな、って呟いた。やっぱり丸井くんも思い出したんだ



「お前ってさ、変なとこで消極的だよなー、ほんと」
「・・・・練習、見たくない訳じゃないけど見たくないの!以上!この話は終わり」


 まだなにか言いたげな丸井くんだけど・・・わたしの様子を察してか、ようやく口をつぐむ。
が、それだけでは終わらないみたい。視界にひょっこり入る鮮やかな銀をみてそう思った。



「真田、喜ぶと思うんじゃがのー」
「・・・・・仁王くん」
「幸村がよんでこいってうるさいから来たんじゃ」


 ・・・・仁王くんまで。わたしはいかないっていってるのに。
大体、どうしてそんなに拘るんだろう。
みたいよ、みたいけど・・・・・・・みちゃったら、部外者でいれなくなる。

外部からわかったような事は言いたくないし、それで嫌われたくない。重荷にだってなりたくないのに・・・・。
・・・・・・・・・・・・・ぜんぶ、わたし一人の問題なのに、みんなを巻き込んでるみたい
今さらだけど、そう思った。すると、急に罪悪感やら自己嫌悪でいっぱいになる。

 ・・・・・なんか、だめだ。こんなの、本当に付き合ってるだなんて、いえないよ



「・・・・帰る」
「まじ?もう帰んの?」
「ここにいる意味ないし」
「ん、またのー」
「止めないのかよ!」
「ごめんね、また明日」
「いつでもきいちゃるき」
「俺も俺も!頼れよな!」



 二人の言葉はいつもあったかくわたしを包んでくれる。いまだって、振り返りざまにみた優しげな笑顔が脳裏からはなれない。
 わたしは震える声をなんとかごまかしながら、二人に別れを告げた。


 それから、部屋で一人、ベッドに横になって・・・・いろんなことを考えた。だけど、答えはでることなんてなく、もっと深くきにする一方。そんな負の連鎖をとめたのは、とある着信だった。
放り出していた携帯を拾い上げて・・・、ディスプレイに表示された名前をみてぎょっとしたのはいうまでもない。



「・・・・真田くん?」



 突然の着信に驚いたけど・・・・・それだけじゃなかった。もっと信じられないのはその用件の方、で。

 電話を終えてすぐ、わたしは家をでることになった。真田くんが、話があるって。・・・・直接いいたい、って。
一体なんなんだろう。気にはなるけど・・・・・ひとまずは指定された公園に急がないと。
正直すごくこわいのに。



 できる限り考えてはみたものの、心当たりがない以上、特定することはできなかった。・・・・・ひとまず、どんなことも受け入れられるように、最悪の事態を予想しておかないと。

 カーディガンを羽織ってはいるものの、やはりまだ肌寒い。身を縮こませながら歩いて・・・・目的の公園に見知った姿をみつけてより一層肩を震わせることになった。真田くんはわたしに気付いたらしく、帽子をなおすしぐさをみせた。緊張しているときの癖だ。


「・・・その、急にすまない」
「ううん、えっと・・・どうしたの?」
「今日は、大事な話があるのだ」
「・・・・・・大事な、話」



 なんだろう、予想していたからだろうか。それほど驚きはしなかったけど・・・・平常心でいられる自信は、ない。
 むしろ緊張のせいか、からだが浮遊感に包まれる。ふわふわして、きちんとたっているかどうかすらわからない。こんな感覚はいつぶりだっけ。
もうわたしはそこに立って真田くんをみつめるだけで精一杯だった

 どれくらい時間がたっただろうか。そんなにたっていないはずなのに、長い長い時間を過ごしたようなきがした。ついに、真田くんがゆっくりと口をひらく。


「・・・・・・お前は、もう進路は・・・決めているのか?」
「・・・・・・・・・・・うん、わたしはこのまま高等部にすすむつもり」
「そうか・・・・」


 しん、ろ
そういえば、今まで話したこと・・・なかったっけ。だって、わたしのまわりの友達はそのまますすむこばかりで、外部にいくこもいないわけじゃないけど少ない。
だから、当然真田くんもそのままだって思い込んでた。だからこんな話にはならなかったんだ

 じゃあどうして?大事なはなしって、・・・・・もしかして、真田くんは・・・・高等部にいかないつもり・・・・なの・・・・・?
テニスの推薦で、とか・・・・あのテニス部だもんね、そんな可能性がないわけじゃ、ない・・・んだ

 そう思った瞬間、じわりと涙が滲んだのが自分でもわかった。



「なまえ!?な、なぜ泣くのだ!どこか痛いのか!?それとも・・・」
「ち、が・・・」
「やはり・・・なにかあったのだな」



 なにかあったって、やっぱりって、どういうこと?
そう言いたいのに、嗚咽が溢れてうまく言葉にできそうにない。真田くんは拳を握りしめると、震える声でこう続ける。



「俺は、お前の・・・その、こ、恋人、なのだ・・・っ、力になりたいと思っている」
「・・・・うん」
「だから、一人で悩むな、抱えるな」
「それは、うれしいよ・・・・・・・でも、真田くん、遠くへいっちゃうの・・・・?」
「・・・・・・・・・・・む?俺が、か?」


 真田くんがいってくれた言葉はすごく、すごくうれしかった。だけど、わたしの喉をついてでた言葉はお礼よりなにより、真田くんの進路に関すること。
・・・・・・だけど、真田くんの様子が一点したことに気付かないわけもなく。勿論、わたしも焦りをみせる。


「え、え、だ、だって、真田くんがなんか、意味深にそうかって、いうから!」
「あ、あれは違う!俺もお前と同じだ!」
「おなじって、」
「高等部だ、ただ・・・・・これまでと同じくテニス部には入ろうと思っている」
「うん」



 よかった、そう絞り出した声はずいぶんと情けないものだった。そんなわたしをみて、真田くんは一瞬頬を緩ませてはいたけれど、またすぐに咳払いをし、改めて向き直った。
どうやら本題はここかららしい。そう感じ取ったわたしはゆっくり息をのんだ。・・・・でも、なんだろう。最悪の事態はもう思い付かないから随分と気分が楽になった。
 が、逆に真田くんはいまだに緊張をしていて・・・・わたしは疑問符をうかべる。陽も沈み、西日がわたしたちを照らす。その眩しさに目を細めながらも、真田くんは小さく息を吐いて・・・・そうして、


「・・・・・お前に・・・出来れば、マネージャーに、なってもらいたいのだ・・・」
「・・・・・・・わたし、に?」
「出来れば、だ!無理を言っているのは承知している。なにも強要したりはしない!ただ、お前に・・・俺の傍にいて欲しい、支えて欲しいのだ」


 マネージャーに、わたしが?
それにいま、真田くん、わたしに支えてほしい、って。こんな、わたしに。


「まだ、交際を始めて日は浅いが・・・・・俺はずっと、お前をみていた。・・・・・これからも共に歩んでいきたい」
「・・・・・・・さな、だく・・・・」
「だ、だからなぜ泣いて・・・っ!」
「こ、これは嬉し泣きだから!・・・まって、ちょっとまって」



 こんな日がくるだなんて、思ってもみなかった。ましてや待っていたわけでもなかったし、わたしはただ、今を過ごすことに精一杯で、なんにも考えられてなかったんだ。
 真田くんはちがう。いつだって、いつだってわたしのことを考えて、導いてくれる。
あのひみた背中だってそうだった。だからわたしは彼を、真田くんを好きになったんだ

 真田くんは、ただただ涙を流すわたしを不器用にだきよせてくれた。・・・・・その大きな手も体も小さく震えていて、おまけに顔は真っ赤に染まってる。


「・・・いまの・・・うれしかったの、すごく・・・嬉しかった」
「・・・・っならば」
「うん、やっても・・・・いいかな?真田くんの、隣で・・・マネージャー」
「・・・・こちらこそ、よ、よろしく頼む」


どこか安心したような、そんな表情をみせる真田くんにつられてわたしもわらう。そうして、真田くんは恥ずかしそうに目をふせて、わたしの体を開放した。



「・・・・それと、もう一つ」
「もう一つ?」
「遠慮せずに、ぶつかってきて欲しい・・・というのは我儘だろうか?」
「っそれは・・・・・・努力、します」
「例えばどう努力するのだ」
「・・・もっと頼るし、あ、甘える」
「甘えるのを努力するというのもおかしな話だが・・・まあ、いいだろう」










「あと、もう一つ・・・あるのだが」
「今日の真田くん、欲張りだね」
「む・・・すまん・・・」
「きくよ、きくから・・・・話して」
「その・・・・・・・目を、閉じてほしい」



 みつめあって、どちらかともなく顔を寄せ合って・・・鼻先が軽くぶつかる。恥ずかしいやらくすぐったいやらで、きっと笑えば真田くんも笑ってくれるって、そうおもった。けど、そうじゃなくて。かわりに唇に柔らかい感触。ついに、しちゃったんだ。真田くんと、キス・・!
真田くんはわたしの腕を引き寄せると、より深く口付けるのだから堪らずに目をぎゅう、と瞑る。真田くんらしくない、まるで余裕のない、噛み付くようなキス。だけど、わたしの胸はいろんな気持ちでいっぱいいっぱいで。それを振り払うように、真田くんにしがみつくのだ



end.


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