真田くんと記念日をすごした。まだ一ヶ月だけど、わたしにとってはかけがえのない毎日で、お祝いできたことだって・・・すごくうれしかった。
そんな真田くんから預かっていた、とお手紙をもらったのがついさっき。二人の前でよむのは恥ずかしいから、と、わたしがそれをひらいたのは正面玄関。
そこには、真田くんらしい字でわたしへの気持ちがまっすぐ綴られていた。わたしはそれを読んで、胸がぎゅう、と押さえつけられた。それも息もできないぐらい、だ
真田くんの気持ち、しらなかった気持ちぜんぶを受け止めて・・・・・わたしの足は、自然とテニスコートへむけて走り出していた。
確認はとっていないけど、そこにいるはずなのだ。
コートがみえてくる。真田くんの姿をさがすと、意外にもすぐにみつかった。
・・・・・大丈夫、まだ部活ははじまってないみたい。ほっと肩をなでおろしながらも真田くんのおおきな声をたよりにフェンス越しに歩いていく。
そうして姿をみつけてすぐ、恥ずかしさもなにも考えないままに彼のなまえを叫んでいた。
「真田くん!!」
「みょうじ?」
真田くんはひどく驚いていたようにみえた。
近くにいた幸村くんがなんだかたのしそうに口の端をあげたのがわかる。あちこちから突き刺さる視線に、挨拶ぐらいは、とはおもえども・・・どこに会釈すればいいかわからず、とりあえず幸村くんにむかってぺこりと一礼。
フェンスの外にいるわたしへと真田くんが近付いてきてくれたのはそれからだった。
「ご、ごめん、邪魔かもしれないけどその、・・・いま、つたえたくて」
ユニフォームをきた真田くんを生で、しかもこんなちかくでみたのははじめてなような気がした。不思議なはなしだけれど、それほどわたしが彼らのテニスに関わっていない事実にすこし寂しく感じたりもした。
・・・それも仕方ないんだけれども。
とりあえずいまは真田くんに集中したい。ユニフォーム姿にときめいてる場合じゃない・・・!
「あのね!手紙、読んだの!いま!」
「・・・・っそ、そうか」
「それで、その、・・・うれしかった!あと、ありがとう!」
恥ずかしさからか、語尾が途切れ途切れになる。
視線をはずすくらいは精一杯なんだから、許してほしい。
こんな風になるのはわかってたのに、やめなかったのは、足をとめなかったのは・・・真田くんに伝えたかったからだ。
悔やむ気持ちはもちろんあるけれど・・・そんなの後回し。
だから!
「それから、わたしも!真田くんのことすごくすき!」
これは勇気をだしてかおをあげて、まっすぐ真田くんをみて言った。
力みすぎたせいでおもったよりも声が大きかったみたいで、余計に視線が集まったらしく。真田くん越しにテニス部のみなさんとばっちりめがあって、達成感とともに沸き上がる羞恥心に消えちゃいたいっておもっちゃったりもしたけれど、目の前でかたまったまま、かおを耳まで真っ赤にした愛しいひとの姿をみてそれも吹き飛んだ。
そんなわたしたちに最初に声をかけたのは、部室からひょっこりかおをだした丸井くんだ。いつのまにか教室から移動したらしい。(部活だから当たり前なんだけど・・・!)
「なーにいちゃついてるんだよい」
「っま、丸井く・・これは、ちが、」
「ちがわねーし」
「違わないけど!その・・・!」
「なんでもいいけど、練習はみていかねーの?」
「え、」
しかも、意外なお誘いまで!
真田くんのテニス。正直いってみたい。すごくみたいとてもみたい。反射的にかおいろを伺った真田くんはいまだに放心していて、ほっとしたけれど・・・・だけど、
「いい、大丈夫!」
「はあ?遠慮すんなよい」
やっぱり、お邪魔するわけにはいかない。それに、か、彼女とはいえ・・・わたしが出入りしてたら嫌な気分になるひとだっているかもしれない。ましてや、みんな本気でテニスしたいから練習してるのに・・・邪魔なんかできない。だからわたしの答えはきまってる。
でも、風紀を乱しちゃうから、っていっても丸井くんはわけがわからないと言う風に押しきって誘いにくるんだから困った。わけもなにもこれはきっと重要なことなのに!
しかも、そのやりとりは続き・・・最終的には。
「まあそう言わずに、寄っていきなよ」
「そうじゃよ、幸村も折角こう言っとるんじゃから」
「おもしろいデータもとれそうだ、俺は賛成だぞ」
「な、なんだ、一体なんの話をしているのだ!」
みんながおもしろがってはいってきて・・・そうして、ようやく我にかえった真田くんの改めての参入。ちなみにわたしは最早なんていうべきかわからずに、真田くんに委ねることにした。
しかし、真田くんはまだ赤い頬のまま、みんなをぐるりとみて、わたしをみて・・・・またさらに真っ赤になった顔を背けてしまう。
「面白がるとはけしからんぞ蓮二!それに、なまえの言う通りだろう!」
「恥ずかしいんじゃな」
「恥ずかしいんだね」
「な、なにを!俺は別に、」
「その割には顔が真っ赤になっているな・・・・・これではいつも通りのテニスをするのは不可能だとみたが」
「・・・・れ、蓮二!」
「で、どうするんだい?」
まさかわたしにふられるとは思わず、ぎくりとした。
答えは決まっているのに、ゆるぎないはずなのに、みんなに見られているせいでうまく言葉がまとまらない。
ゆっくりと口をひらいて、小さく息をはいて、それから。
「す、すみません、折角だけど・・・遠慮します!し、失礼しました!」
「そうか・・・・・気をつけるのだぞ」
「うん、・・・・あ、えっと!ユニフォーム、すごい似合ってる!じゃあ!」
それだけ告げると、一目散に駆け出した。恥ずかしい。それも、あんなみんなのまえで!
結局わたしはテニスコートがみえなくなるまで走って、校門の前で息をととのえた。まだ、頭のなかからは先ほどの情景がはなれなかった。
20130617
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