novel

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2017:冬至


ジャンル:単発物
*シリアス / 美形→平凡
※監禁・ヤンデレ注意!



 柚子を一つ。もう一つ。おまけにもう一つ。
 纏めてあと五つ、浴槽に張った湯の中へ落とす。どぽん、と水音が響き水面へ浮かび上がる。大きな波紋は内から外側へと徐々に広がり、水面に映った俺の顔が少し歪む。思いっ切り投げつけてみる。今度は水面の顔がへしゃげるほど醜く歪んだ。
 つん、とした柑橘系の匂いが漸く鼻腔を擽り浴室内に広がっていく。

「柚子風呂、一緒に入ろうか?」
 俺の“太陽”は浴槽を見たまま返事をしない。青褪め怯えた表情で、震えている。
 一糸纏わぬ素肌に巻かれた荒縄が食い込んで痛いのかと思って少し緩めてあげたが、身体の震えはまだ止まらないようだった。どちらかのか分からない汗や白い粘液やらローションやらの、情事の名残りをシャワーで綺麗に洗い流している最中も、ずっと身体を強張らせたまま時折嗚咽を漏らしていた。どのクラスにも一人は居るような十人並みの顔は、泣き腫らした目の所為でむくんでいるように見える。風呂を上がってから、冷やしてあげようと思った。
 今日は冬至。一年で一番日照時間が少ない日。“太陽”と一緒に暮らし始めて一年。
 こんなに寒い日は、太陽に焦がれて焦がれて、暖かさが恋しくなる。恋焦がれて物言わぬマネキンの様に白くなった唇へキスをすると舌を噛まれ、暫くして咥内にほんのり鉄の味が広がった。

 俺は何時も通り大学へ行く為、家を出て鍵を閉めた。念入りに戸締りを確認する。大通りへ出ると、井戸端会議をしていた主婦が居たので、俺は人受けする笑顔を浮かべ礼儀よく頭を下げた。
「おはようございます」
「あら結城君、今から大学? 名門大に受かるなんて凄いわよね、うちの息子にも見習ってほしいわ」
「あそこに居るのは警察のようですが、なにか?」
「去年の失踪事件の聞き取りをまだしているのよ、何をやっているのかしら警察は。あれから丁度一年経ったというのにまだ近所の鈴木さんちの太陽君、見付からないんですって」
「へえ、確か……事件に巻き込まれたのか家出かで、未だ行方不明なのですよね」
「そうよ、物騒ね。あんたなんてまるであの有名アイドルみたいにイケメンなんだから、気を付けなさいよ」
 制服を着た警察官二人とすれ違う際、ゆっくりとお辞儀をする。警察官の方も何も言わず軽く頭を下げ、軒先で落ち葉の掃き掃除をしている別の住人の元へと、聞き取りに向かった。
 駅へ歩を進めながら空を見上げる。
 灰色がかった厚い雲は、今日も太陽を隠していた。



ヤンデレに好かれた太陽君の話。
(END)
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