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2017:クリスマス


ジャンル:連載小説 蒼国マスカレイド
*ギャグ / パラレル仕様
*もし、蒼国にクリスマスがあったら?

 
「ああ、言い忘れていたが、その日は欠席する」
 クリスマスに開催される舞踏会の打ち合わせ最中、王室師団長アレン・ド・フィルドール近衛少将は、話の流れをぶった切りきっぱりと言った。
 その場に集まっていた将官たちは、驚愕した顔で一斉にアレンを見た。王女附き師団長は暗黙の了解で出席だと考えていたため、一同の開いた口が塞がらない。
「その日は休まないよう通達があった筈です。舞踏会には他国からの来賓客も多いというのに、王室師団長がそれでは困りますよ」
 騎士団長エドワード陸軍大佐は、表情を顰めて言った。エドワード自身派手な社交場もダンスも苦手なので出来る事なら欠席したいのが本音ではあったが、生真面目な性格上職務不履行は出来なかった。上から休むなと言われているならば、余程な理由がない限りは出席するべきである。
 隣に座っている副団長も、同意の色を示している。
 斜め向かいの席に座るアレンの兄――空軍第三師団長ローラン・ド・フィルドール空軍中将からも一言言って貰おうと視線を向けたが、ローランは露骨に視線を逸らせた。
「ローラン師団長……まさか、貴方まで」
「――実は、私も休暇申請をしている」
 エドワードは頭を抱えた。
 アレンとローラン、どちらも勤務態度は極めて真面目で、風邪をひいても仕事を休まない。寧ろ休暇申請をしないような仕事人間である。良家生まれの美形で地位もある兄弟たちがモテないわけがないが、結婚をしていなければ恋人もおらず、二十五日は仕事より大事な予定など入りようがなかった。にも関わらず、用事があると言わんばかりに休むというのだ。
「弟と過ごす予定だ」
 二人の声が重なる。
 弟とは、フィルドール家三兄弟の末っ子セシルのことだった。
 恋人や妻と過ごすわけでもなく、賢兄愚弟を地で行く平凡な弟の為に休む。全くもって理解不能である。
「え、という事は……セシルも休むのか」
 エドワードは項垂れ、更に頭を抱えた。そしてとうとう最後の頼みの綱、王国軍最高位である元帥バリーを見た。本当は自分だって舞踏会なんて出たくない、なのに御子息たちだけ休むなんてズルい――出そうになる本音を、エドワードは必死に飲み込む。
 鬼師団長の異名を持つローランの助太刀を望めなくなった今、二人の父であり軍人最強でもあるバリーの判断と言動に掛かっている。その場にいる者は固唾を飲んで、全て剃り上げられているその頭頂部を見詰めた。
「無論、私もセシルも休暇申請をしておる。家族で過ごす故後は頼んだぞ」


 クリスマス当日の舞踏会、フィルドール家の者の姿は一人もなかった。


(END)
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