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Category:蒼国マスカレイド


*ルーイヒとフレドリック
*過去話


「おお……これは、画力も題材も素晴らしい。最高神ソールヴェネドの像を描かれたのですね、フレドリック殿下。石膏像の陰影や肌の質感を、鉛筆だけでよくぞここまで見事に表現なされましたな」
 王室教師の一人宮廷画家ミュラー伯爵は、御世辞ではなく心より褒め称える。
 第一王子フレドリック・ラ・ユースタシュは、学術、芸術、武術、全てにおいて優秀であった。頭の回転は早く、周囲の空気を読むことに長け、大人の手を煩わせない。良い子だと誰からも誉められるそんな子どもだった。
 対して一つ年上のルーイヒ・ラ・ユースタシュは、芸術や勉学に興味はなく、周りの大人たちを振り回し、我が儘し放題で手が掛かる。「フレドリック殿下に比べ、ルーイヒ殿下は……」と、王室教師陣はよくそう言って嘆いていた。
 ルーイヒの画用紙を覗き込んだミュラー伯爵は、顎に手を添え暫く考え込む。
 年相応といえぱ年相応なのだが、上手下手以前に、何を描いているのかさえ全く分からない。飼い猫を見ながら描いていたことから推理するに、恐らく猫を描いたのだと考えられる。とはいえ、分かりやすいフレドリックと違い、ルーイヒはいつでも予想斜め上を突っ走るのだ。予想を外して地雷を踏むのだけは、避けたいところ。
「ルーイヒ殿下は、画力よりも技法が素晴らしいようですな……。その御歳で抽象的な無対象絵画を描かれるとは……御見逸れ致しました」
 ミュラー伯爵は、王女の御機嫌を取るべく、核心を外しつつそれらしき言葉を用いて渾身の御世辞を並べる。宮廷必須の処世術であった。
「ほんと? ウソじゃない?」
 子ども特有の無邪気な表情で、ルーイヒは何度も聞き返す。
「ええ、ええ、勿論ですとも。宮廷画家たる私が言うのですから間違いございません」
「だったら、せんせーにあげる! 金のがくに入れるから、ちゃんとかざってね」
「あ……有り難き幸せ。我が伯爵家の家宝に致します……」
(ボクならいらない……あんなのかざりたくない)
 後に引けなくなり自分の首を絞める王室教師を、フレドリックは幼心に気の毒だと思いながら静かに見つめた。


ミュラー伯爵家の家宝
(ブログより再録)


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