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Category:蒼国マスカレイド


*フェルゼンとトーマ
*士官学校時代


 王国中の湖の水をひっくり返したような、そんな土砂降りの雨が全てのものに等しく降り注ぐ。夕暮れの射撃訓練所に百ヤール先の人型の的に。地面の水溜まりに。足元に散らばった沢山の空薬莢へも。

 銃弾を詰め、的に狙いを定め、引き金を絞る。躍り出た弾丸は百メール先の的を掠った。
 銃弾を詰め、的に狙いを定め、引き金を絞る。躍り出た弾丸は百メール先の的を外した。

 氷水のように冷たい雨は身体の体温を奪い、頻りに色素の薄い睫毛を濡らして視界を遮った。瞬きをする度大粒の雨水が滴り落ちる。真新しい軍服まで、ぐっしょりと濡れていた。
 長く息を吐き、呼吸を止める。
 不意に雨が止んだ。止んだと思ったのは、自分の周囲だけだった。
 トーマは左肩を濡らしながら、黒い雨傘を差している。雨傘へと打ち付ける激しい雨音が響いた。
「雨の中練習したところで、必中出来るものか」
「放っておいてくれ」
「放っておけないな」
 強引に腕を掴まれ――引き摺られるようにして、宿舎へと連れていかれる。豪雨の中では傘がないのと同然で、結局2人して濡れ鼠になった。
 部屋に入るなり、乾いたタオルを投げつけられる。濡れたまま何もせず突っ立っていたら、乱暴に頭を拭かれた。
「あーあ、こんなに濡れるまでするかよ。加減ってモン知らないのか。大人しくしてろ、ちゃんと拭けないだろう。飛び級するような何でもできて頭の良い優等生のくせに自分の事を何も出来ないなんて、ほんっと仕方ねえ奴だな」
 嫌味たっぷりの言葉とは裏腹、トーマの声色は穏やかで。指先で睫毛についた雨粒を拭った。びしょ濡れの手袋を外し、冷え切った指先も丁寧に拭っていく。感覚の無かった指先がじんわりと微かに温かくなる。
「……煩いな、男の御喋りは見苦しい」
「お前って黙っていたら綺麗なのに、勿体ないな」


雨曝しのベレッツァ

(title:scald/ブログより再録)


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