▽02

「(え〜〜!?ちょ、え〜〜!?めちゃくちゃ気になる話してるじゃん!?)」

テマリの部屋の前で1人悶える影、それはカンクロウだった。

眠っていると思われていた彼だが、実際は起きていたのだ。

今回の任務の報告を砂の里にするためテマリと事実の擦り合わせをしようと部屋まで来たところ、思わぬ会話が聞こえてきた。

我愛羅が、フタバを好きだという。

「(俺も話に混ざりて〜!でも不自然じゃんこんな状況で部屋に入っていくなんて!)」

悩んでいたカンクロウだが、あっけない形で入室することとなる。

「カンクロウ、さっきから気配がダダ漏れだ」
「あ」

我愛羅が扉を開けたのだ。

「が、我愛羅悪い、別に盗み聞きするつもりは……」
「別に構わない」
「……入ってもいい?」

無言で扉の前から退けた弟を見て、カンクロウはホッと胸を撫で下ろした。
どうやら入室しても問題ないらしい。

「おじゃましまーす……」

自分の部屋と少しだけ違う造りになっているんだなとキョロキョロしていたカンクロウの目に、いささか興奮した様子のテマリがうつった。

「起きてたんだね。何か用だった?」
「俺の用事はもはやどうでもいいじゃん。テマリ、我愛羅、めちゃくちゃ重要な話してたな?」
「うん、そうだね。重要な話だった」
「やめろ、からかうな」
「いや、からかってないって!」

カンクロウは無表情ながら内心ムッとしていそうな我愛羅を前に、真剣な顔で正座して見せた。

「あのさ、俺いいと思うじゃん」
「……は?」
「フタバを好きってこと、いいと思う!だって俺もフタバのこと好きだし」
「ストップストップ!!!」

突然の告白に、テマリは冷や汗をかきながらカンクロウの口を抑えた。

「あんた、急に何言ってんの!?」

我愛羅も驚いたのか、ジッとカンクロウを見つめている。

「あ、いやそうじゃなくて。俺はアイツのこと人として好きってこと」
「ああ、そういう……。ったく、紛らわしい言い方するんじゃないよ」
「悪かったよ。でさ、我愛羅。自分の気持ちに気付いたならガンガンいったほうがいいと思う」
「ガンガン?」
「そ!フタバに、我愛羅のこと意識させようぜ!」

カンクロウはまるで新しいおもちゃをもらった子どものように、目を輝かせながらそう言った。


* * *


「フタバ、今日はなにをしたい?」
「んーーどうしようかなあ」

翌日、フタバはアスマと共に川辺に来ていた。いつものように、修行をするつもりだ。

今日はよく晴れており、風も程よく吹いていて気持ちがいい。
胡座をかいているアスマは、油断すると居眠りしてしまいそうだと考えていたほどだ。

フタバも同じように思っているのか、準備体操や足踏みをするなど、あえて常に身体を動かしていた。

「ま、火影の要請で転移をしに行く可能性も高いし、軽めの内容にしとくか」
「そうですね。最近任務が立て込んでいるようですから、忍たちの疲弊もひどいみたいで……アスマ先生もそんな状況の中私に付き合ってくださってありがたい限りです」
「お前の護衛も俺の任務の一つなんだから、気にするなって言ってんだろ。里の状況に関しては、木ノ葉崩しが尾を引いてんだろうな。フタバのおかげで助かってる部分も多いし、お前も立派な里の忍だ」
「へへ、少しでも力になれているなら嬉しいです」
「お前特別上忍なんだぞ。少しでもなんて謙遜してないで、胸を張れ」

自信たっぷりな女は魅力的だと思わないか?なんて軽口を言うアスマに、フタバは思わず笑ってしまった。
彼とこうしている間は、忙しい毎日を忘れることができる。

自立した立派な忍に早くなりたいと思う反面、先生と呼べる相手がいることは嬉しかった。

「さて、転移と吸収の力はある程度問題なく扱えるようになっていることだし、忍術のほうに力入れてみるかね」
「はい!お願いします!」
「そんじゃ、精度を確かめるためにも一度簡単な忍術を……ん?」
「アスマ先生?」

フタバの背後を見て少し眉を動かしたアスマ。
吸っていたタバコを手に持ち、よっこらせと立ち上がる。

誰かが来たのだと気付いたフタバは、アスマの視線を追うように振り向いてみた。

「わ!我愛羅、テマリさん、カンクロウさん!」

そこにいたのは、砂の3人だった。

「どうしたんですか?こんなところで。お散歩?」
「ま、そんな感じじゃん。フタバは修行中か?」
「はい、今から始めるところでした!私、しょっちゅうアスマ先生に指導してもらっているんですよ」

フタバはアスマを3人に紹介しようとして、ハッとした。
アスマは3代目火影である自分の父を木ノ葉崩しで亡くしている。
砂の3人は利用されていたとはいえ、敵陣営のメンバーとして動いていた。

悲しいことではあるが、アスマにとって彼らの存在は、不愉快かもしれない……

そんな考えを抱いていたフタバを見て、アスマ本人はあっけらかんとした様子でこう言った。

「よ!砂のガキ共だな?シカマルたちが世話になったみてーで、助かったぜ」

我愛羅たち自身、その言葉に驚いていた。
アスマという男が3代目火影の息子だということはなんとなく知っていた。
だからこそ、フタバの指導者であるこの人物がアスマだと聞いて、正直胸が苦しくなっていたのだ。

「あの、私たち……」
「あー、やめろやめろ!」

テマリが謝罪の言葉を口にしようとした時、アスマがそれを大袈裟に止める。

「前にフタバやシカマルにも思ったが、最近のガキは気を遣いすぎなんだよ。一度や二度間違うのは必要な経験だ。そっから何を学ぶかが大事なんだぜ?大人が尻拭いするのが当然なんだから、そんな顔すんな」

フタバは3代目の死後、アスマから同じようなことを言われた時のことを思い出していた。

そして、やはり自分はアスマのことが好きだと強く思った。

「アスマ先生、彼らは私の友人なんです。今回シカマルたちを救ってくれて、まるでヒーローですよね!」
「おお、そうだな」
「……ありがとう」

テマリは、気付けばそう呟いていた。
フタバの指導者なだけあって、アスマまでもが太陽のようにあたたかいと思ったから。
しかしそう思われたくはないとでも言うような彼の素っ気なさに、余計に感謝の気持ちが溢れ出てくる。

「あ、そろそろお散歩再開しますか?」

フタバにそう言われ、カンクロウとテマリは自分達がここに来た理由をようやく思い出した。

我愛羅を意識してもらうためフタバに近付いたんだった!と。

その目的を達成するには、このまま散歩に行きますと退散するわけにはいかない。

「えーっと……」

カンクロウが次の言葉を模索している。
しかし答えを出す前に、我愛羅がはっきりとこう言ったのだ。

「フタバ、お前の手助けをしたい。俺たちでよければ、修行を共に行おう」

テマリとカンクロウは弟の言葉に乗っかるように、ウンウン!と力強く頷いた。

「本当!?とっても嬉しい!アスマ先生、いいですか?」
「そんな顔されたら、ダメって言えないだろ」

アスマは笑いながらフタバの頭をぐしゃぐしゃっと撫でた。

こうして、フタバとアスマ、砂の3人という変わったメンバーで修行を行うことに。

さっそくテマリとカンクロウがフタバの変化の術を見てああだこうだと言い始め、その隙にアスマはこっそり我愛羅に近付いていく。

「……なんだ?」
「我愛羅、だっけか?お前、随分と優しい目でフタバのこと見るんだなー」
「……!?」
「わはは!動揺しやがった!いいねえ、わかりやすい奴ってのは嫌いじゃねーよ」

ヘラヘラと笑うアスマだったが、我愛羅は反論する気はなさそうだ。

「ま、どんな思惑があったとしても、アイツの力になってくれるならありがたい限りだ。これからもアイツと仲良くしてやってくれ」
「……ああ」

姉兄に、そしてフタバに呼ばれた我愛羅は、ほんの少しだけ表情を緩めて輪の中に入っていった。

そんな4人を見ながら、アスマは思う。

「(フタバが楽しそうでなによりなはずなのに、なんで俺ってやつは若干の寂しさを感じているんだか)」

それが親心とも呼べる感情だということを、アスマはまだ気付いていない。


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