オレンジ消ゆる

夕暮れの川辺、私は何をするわけでもなくただそこに座っていた。
川の優しい水音が心地よく耳に響く。暑くも寒くもない丁度良い気温が私の肌をくすぐる。
今飛んでいる鳥たちは巣に戻っている途中なのだろうか。「気をつけて帰ってね」と心の中で呟いてみた。

「おー名前、こんなとこにいたのか」
「あ、シカマル…」

1人でいる穏やかな時間に入り込んできたのは奈良シカマル。アカデミーで同期だった人だ。
彼は私の隣に寝転び、「あの鳥今帰り道かね」なんて私の考えていたことと似たような事を言う。

「…何か用があって来たんじゃないの?」
「あー用っていうか、ただお前に会いたかっただけだ」
「…そっか」

どうしてこんなことをなんでもないような顔で言えるんだろうか。しかも何回も何回も。
彼の告白は以前断ったことがあるというのに。

「相変わらずつれないねぇ。俺のこと嫌いなのか?」
「そんなわけじゃ…」

嫌いなはずがなかった。彼は私達同期の中で誰よりもはやく中忍になった才能溢れる人物だ。それなのに偉ぶることもせず雲の流れを見たり将棋や囲碁をしたりして楽しむ不思議な人。
なぜそんな素敵な人が私のような特に取り柄もない人間を好きになるのかが理解できていないのだ。

「シカマルには私なんかよりもっとお似合いの人がいるよ」
「はぁ…お前それは俺に対する何よりの悪口だっての」
「え、ど、どうして…?」

シカマルは私の目の前にあぐらをかいて座りなおし、面白くなさそうに肘をついてこちらを見た。

「だってお前は俺の運命の相手だから。初めて会った時ピンときたんだよ。それなのにもっとお似合いの人がーなんて、俺の直感に対する侮辱でしかねぇだろ」

またそんなことを恥ずかしげもなく言う。
きっと今私の顔は真っ赤だ。シカマルがそこまで言ってくれるのだ、私も本当の気持ちを伝えてもいいのだろう。

「わ、私もね。本当はずっとシカマルのことが好きだったんだよ…でも自信がなくって…」

そう言葉に出した途端、シカマルが視界から消えた。いや、消えたというのは間違いか。
私はシカマルに抱きしめられ、視界全てが彼の胸元で占領された。それで顔が見えなくなったのだ。

「…ンだよ、だったら早くそう言えよ」
「ごめんなさい…からかわれてるだけならどうしようって思ったの」
「俺がそんな趣味わりーことするように見えるか?はぁ…これから名前には俺のこともっと知っていってもらわねぇとな」
「え、それってどういう…」

シカマルはまたはぁ、と大きなため息をつき私を抱きしめるのをやめた。そして両手で私の肩を掴むと彼は私の目をじっと見つめてきた。

「俺のこと好きなんだろ?じゃあ付き合おうぜ。お前の気持ち知った以上、もう拒否なんてさせねーよ」

シカマルは柄にもなく照れたような顔をしている。どこか頬が染まっているように見えるのは夕日のせいだろうか。

「ありがとうシカマル…その、私でよければお付き合いしてください」
「あーーーようやく叶った…。名前、もし嫌なら俺を突き飛ばしてくれ」
「え、なにシカマ、ル…」

彼は私の顔に自分の顔を近付けた。これはつまり、そういうことなのかな。
私は覚悟を決めた。

「…ここで目瞑るってことは同意とみなすぜ。なぁ名前、もう少し力抜けよ」

シカマルは私の頬を優しく包み込み、そっと唇を重ねてきた。
震えているのがわかる、彼も緊張しているんだ。

「…シカマルも緊張なんてするんだ」
「うるせー…誰だってはじめての事はそうなるだろ」
「え、はじめてなの…?」
「お前はちげーの?俺お前が初恋だから仕方ねぇだろ、あんま茶化すなよ」

ぷいっと不機嫌そうに顔を背けるシカマルが愛おしくてたまらなくなった。
だってそれは私も同じ。

「ふふ、私もシカマルが初恋だよ。こんなことした事もない」
「……まじか、めっちゃ嬉しい」

シカマルはそう言うとまたキスをしてきた。今度はさっきよりも随分長く、貪るようなキス。
それに応えようと私も彼の首に腕を回した。

「…あー…名前わりぃ。俺ちょっとこれ以上しちゃうとやばい。ここ外だし、今日はやめとこうぜ」
「……私一人暮らしだから家誰も居ないけど」
「…っ!お前急に積極的になんのやめろ。心臓もたねぇだろ…」

その発言には自分でも驚いた。でもシカマルのことが好きって気持ちが溢れてどうしようもない。

「…ま、据え膳喰わぬは男の恥ってな。お言葉に甘えて名前ん家行くか」

シカマルはそう言うと私を軽々とお姫様抱っこし私の家の方角へ足を進めた。

下から見上げるシカマルはそれはもうかっこよくて、ドキドキとなり続ける私の心臓に彼が気付かないよう願った。

「そんな見んなって、可愛すぎ」

シカマルはまたキスをしてきた。

気付けば夕日は沈みきっており、かわりに月があたりを照らしている。
お姫様だっこのまま見上げた空には星が浮かんでいる。パッと流れ星が流れるのが見えた。

「シカマルと幸せになれますように」
「? なんだよいきなり」

私が空を指差すと、シカマルも空を見上げた。

「あーなるほど。んじゃ俺も……死ぬときは名前に看取ってもらえますように」
「ふふ、なにそれ。もっと他にあるんじゃないの?」
「何言ってんだ、それが一番幸せなことだろ」

照れたように言うシカマルをぎゅっと抱きしめた。
私の家に着くまであと数分だ。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
麹さんへ贈ります。
一万打記念企画への参加ありがとうございます!
シカマルってとっても愛おしいんですよね。シカマルの夢をリクエストしてくださってとても嬉しかったです。
主人公は内気とのことでしたが、それも最初だけになってしまいました…
少しでも楽しんでくださったなら光栄です!
これからもUp to you!をよろしくお願いいたします*