「太陽に背を押され」


「なあ、今日は仁王がいねぇからみお独り占めだな!」

「……あ、ごめん聞いてなかった」

「みお…?」

私の隣の席にはいつもだったら仁王がいる。でも今日は彼が欠席だから休み時間のたびにブン太が座りにきている。
明るく話しかけてくれるんだけど、私は仁王のことが気になってブン太の話をきちんと聞けないでいた。

私は何をやっているんだろう。仁王に続き、ブン太まで傷付けるつもりなのか。そんなんじゃダメなのはわかっている。だからせめて、今ここにいてくれるブン太のことは大切にしよう。


「大丈夫。なんでもないよ。そんなことより今日のお昼はお弁当作れなかったから一緒に購買でも行かない?」

「…今日仁王がいないのは、やっぱりみおが関係あんのか」


いつもと違う、真剣な表情でブン太がそう呟いた。
今そんなことを察されるようなこと言っただろうか。

「毎日弁当作ってくるお前が今日に限って作れなかったっておかしいだろィ。料理も手につかねぇ何かがあったんだろ?朝メシも買い置きのパンだったし」

ああそうか。ブン太は毎朝私の家にやってきて私の作った朝ごはんを食べて行く。今日はブン太の言う通り、買い置きのパン。その時から私の異変を感じ取っていたんだ。
それに昨日泣いているところも見られたし、ブン太が気付くのもおかしいことではない。

「…私仁王に嫌われちゃったかもしれない」

「は?…そんなん、俺にとっちゃ好都合だな!」

ブン太が明るくそう言う。きっと私を元気付けようとして無理しているんだ。
だって、笑っているつもりなんだろうけど眉が下がりっぱなし。そんな困った顔で笑ったフリなんてしないでよ。


「…私ね、仁王ともブン太とも付き合わないって言ったの」

「……なんで?」

「私には、2人はもったいないからって。今思うとそれってただの都合のいい言葉だよね。自分には責任ないですよって、断る理由までブン太達のせいにして」

ブン太は下を向き何も言わない。私までつられて俯いてしまう。
きっとブン太にも嫌われてしまった。こんな、情けなくてずるい女。


「ごめんねブン太、私こんなだからきっとあなたたちに好きって言ってもらう資格も…」

「みお」

顔を上げると、ブン太が笑いながらこっちを見ていた。今度は偽物じゃない、本当の笑顔。

「なあ、そんくらいで俺が嫌うと思った?諦めると思った?仁王だって嫌ったりなんてしてねーよ。多分ちょっとショックだったくらいで」

「ブン、太…」

「ただ俺も今ちょっと怒りました!なにが私にはもったいないーだよ。人が人に好かれるのにもったいないもなにもあるか!好きって言われて別に悪い気しなかったならそうですか、ってとりあえず受け入れときゃいーの!答えはその後決めればいいんだから!変に謙虚になるな!そんなん自分に対しても相手に対しても不誠実だ!あと資格とかそんな意味わかんねーことも言うな!恋愛に資格などありません!」

フー言い切ったぜーと言うブン太。
彼の言葉は私の胸にグサッと刺さった。なんて真っ直ぐで、正しくて、あたたかい言葉なんだろう。
ブン太は私の目を改めてジッと見つめ、またヘラッと笑った。


「ま、みおもさ。悪い気はしなかったから一旦は俺らのこと考えてくれるって言ったんだろィ?そう言ったからには!もう一回自分とちゃんと向き合って考えてくれよなー俺たちのこと。そうしないと末代まで祟るぞーってな!」

「…ブン太ってホント馬鹿」

「は!?俺の決め台詞に天才だろィってあんの知ってんだろ!馬鹿って言うな!」

「ふふ…でも元気でた!ありがとね」

「ん、気にすんな。あ、それと多分仁王ならあそこにいるんじゃね?ほらあのデケー公園」


昼休みも終わりに近付き、ブン太は私の頭をポンっと撫でながらそう言い残し自分の席に戻っていった。
あのブン太が昼食を食べることよりも私を元気付けることを優先してくれたのが嬉しかった。今自分の席で大きなパンを掻き込んでいるブン太が少し愛おしい。


それにしてもあの大きい公園とはあそこのことだろうか。ブン太がああ言ったってことは、行ってみろってことだろう。
懐かしい。行くのは久々だな。


私はこのまま午後の授業をサボり、仁王を探しに行くことにした。
サボりなんて初めてだ。でも今は学生の本分である勉強より大切なことがある。先生に怒られても、構うもんか。


私は教室の入り口付近の席に座るブン太に行ってきますと伝え、新緑がまぶしい外へと駆け出した。



『太陽に背を押され』

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