モトコの言った通り、桜花高校は2度名前が変わっている。1度目は第二次世界大戦後、2度目は1年生生き埋め事件により名前が変わっていた。
奏夢たちが現在いる、教室が中心の校舎。一火たちのいる図書室など特別教室が中心の校舎がある。実はその2つの校舎の北側にもう一つ校舎がある。通称旧校舎。建付けも悪く現在は使われていない。
燿夏が突如行方不明になり、根本的な原因であろう生き埋め事件の被害者、ヨウカの慰霊碑に向かっていた。
*
「一火! 優依ちゃん! 」
「雷鳥、無事だったか」
「怪我はない? 大丈夫? 」
「ピンピンしとるわ。ところでなして旧校舎なん? 」
「実は……」
優依は3人に生き埋め事件のことを話した。
「そんな酷いことあったんか……」
「燿夏もいなくなった、やはりこの事が関係しているのだろうか」
「分かんねぇから確かめに行くんだろ」
5人は渡り廊下を使い、旧校舎に向かう。旧校舎の入口は南京錠で固く閉ざされていた。
「蹴れば壊れるんちゃう? 」
「やってみるか」
雷鳥と一火が息を合わせてドアを蹴り飛ばす。すると2人の男の蹴る力に耐えきれなかったのか、錆びていた南京錠と鎖、朽ちていた扉も吹き飛んでいった。
「さすが空手と柔道やっているだけあるな……」
「奏夢もやっとるやん」
「まだ赤帯だけどね」
赤帯でも十分じゃねぇか……と守羅は内心ぼやいた。
旧校舎の中は手が届いていないのか、ホコリとカビ臭かった。また歩く度に軋む音が響く。所々床が抜けるのではないのかというくらい脆いところもあった。
新校舎からの入口は非常口だったのか、すぐに教室が並んでいた。まっすぐ抜けると、再び扉が現れる。そこは近づいて見なければ分からないのだが、扉の取っ手がなかった。
「あ? なんで扉なのに取っ手がねぇんだ? 」
「いやいや、えっ、これ扉なん? 」
「扉じゃないなら壁じゃないか? 」
「というか、そもそも扉なの? 」
ふと上を見ると光ってはいないが、非常口の照明があった。つまり、恐らく近くに扉があるということになる。
「ダミーって可能性は? 」
「なんでそんなことする必要があんだ」
「これってさ、"引く"んじゃなくて、"押す"とかじゃないかな? 」
優依が前に出て、扉を押した。すると重みがあるのかなかなか開かないが、僅かに動いた気配がある。
「よし、押すぞ」
男4人で力づくで押せばギィィと音を立てて扉は開いた。
扉の向こうはひんやりとした空気が流れる中庭だった。フェンスの向こうには竹林が広がっており、不気味な雰囲気を作り出している。守羅は暗く見えにくい中でとあるものを見つけた。
「なぁ、あれ……」
指した先にあったものは大きな塊。それに近付くと慰霊碑ということがわかった。だが、それは何者かによって一部がバラバラに壊されていた。
「酷い……」
「誰がこんなことを……」
「ここに、ヨウカはいるはずだが……」
辺りを見渡すが人っ子一人いる気配すらない。その時だ、ヒラヒラと舞う1匹の青い蝶が目の前に現れる。それがゆっくりと下へ降りると、青い光を放ち人間に変わった。
それは髪の長い女だった。服は五分袖の真っ白なワンピース。両手足は縄のようなもので縛られている。左目は前髪が長く見えない。右目は薄く開く。その目は闇のように真っ黒い眼(まなこ)だった。ふわりと浮く足元には黒い百合が咲いている。
「お前が……ヨウカ……」
「燿夏はどこだ! 」
燿夏の名を口にした瞬間、ヨウカの目がわずかにさらに見開かれる。
『ヨウカ……ヨウカはワタシ……』
「そうじゃない、お前が捕まえた男だ」
『アレは……トウヤ……センパイ……』
「トウヤ……? 」
「桜苑 柊夜は死んだ!」
奏夢が叫んだ。
『しんだ……? 』
「桜苑 柊夜は11年前に奥さんと共に殺された」
『シンデ、ナい……あの人は、死んでない!!! 』
ヨウカが叫ぶと黒百合から黒いオーラが爆発した。これは危険だ、と察した全員が引き返そうとする。だが、扉は一方通行なのか、固く閉ざされていた。
「嘘だろ!? 」
「とりあえず、燿夏を救い出さねぇと! 」
「大丈夫ですよ」
ふと聞こえた知らぬ男の声に全員がそちらを向いた。その脇には背の高い黒く裾の長いコートを羽織り、黒いボルサリーノを深く被った男と、黒く綺麗な髪に赤いリボンを付けた猫目の少女が立っていた。
「彷徨える魂の回収は我々に」
「だ、誰だよ……! 」
「人間、この化け物を自分たちで退治出来ると思っているのか? 」
少女の言葉に言い返すことが出来なかった。男はゆっくりとヨウカに歩み寄る。
「……妖花、貴方はもう一度生きるべき存在です。我が主から許可は得ました。さぁ、彼を解放してください」
男はヨウカに近づきそっと頬を撫でた。すると、先程までの暴走は収まり、ボロボロの体ではなく、美少女へと変化していた。その小さな唇は何かを言おうとしていたが、光に包まれ、消えていった。
そして光が消えると同時に地面に倒れている燿夏と、見知らぬ女がいた。
「燿夏! 」
奏夢と守羅は燿夏に駆け寄る。優依は女の方に近寄り、肩を揺する。
「赤髪の子、そいつにそいつの名前を聞かれたら、ヨウカと答えるな」
「え? 」
「そいつはもう"妖花"ではないのだからな」
「では、これにて失礼します」
「おい! アンタらは結局何者なんだよ! 」
背を向けた男と少女に守羅は問いかける。するとゆっくりと振り向き、男はこう答えた。
「黒田と申します。以後お会いすることがありましたら、その時はよろしくお願いしますね」
それだけ言い残して2人は消えた。それと同時に見知らぬ女は目を覚ました。
「ここは……」
「あなたは誰? 」
「わ、たし……は……」
「ひめ、か」
ボソリと聞こえた声の主は燿夏だった。
「そう、姫夏ちゃん」
「ひめか……そう、私は姫夏」
燿夏の言葉により彼女の名前は姫夏になった。見た感じでは、あの妖花と同じ容姿だった。
「燿夏、大丈夫か? 」
月明かりに照らされ、ハッキリと見えた燿夏の目からは涙が流れ、頬に筋を作っていた。
「……何でも、ない……」
まるで記憶喪失のようにぼーっとしている姫夏。優依が優しく声をかけて気にかけてくれている。気になることは2つ。今の時間と、学校から出れるか、だ。
「ところで今何時なんだ」
「どうやら8時だ」
「どうやって出る? 」
「抜け道がないか探し出すか」
奏夢の提案で抜け道を探し出すことに成功した彼らはやっと学校から出られる。荷物を取りに行くと、先程まで怪異が漂っていた校舎の廊下はシーンと静まり返っていた。
「あ、10円玉使わねぇと」
「公衆電話で俺が涼夜に電話するから貸して」
「親父にぶん殴られそうだな……」
「私が弁解するから大丈夫だよ」
「ウチは締め出されてそうやな……ばあちゃんに」
「……なぁ、燿夏」
「ん?」
各々家族に心配をかけたことを申し訳なさそうにしている中、守羅は燿夏に話しかける。
「なんで、姫夏って名前を付けたんだ? 」
「……女の子だからってのもあるけど、なんかふって降りてきたんだ。女の子の姫に、俺と同じ夏」
「まぁ、妖花よりはいいんじゃないか? 」
門を潜る彼らを窓から見送る黒く柔らかそうな軟体生物。燿夏は何となくその視線に気が付いたが、振り向くとそれは夜の学校の中へと消えていった。
「きゅっ」
―― 妖花の怪異 ・了 ――
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