入学式及び新学期から2週間経ったある日の昼休み。屋上で昼ごはんを食べる燿夏、奏夢、守羅、そして柊。この4人はいつの間にかこのグループで固まるようになっていた。
燿夏と柊は桜花市にある北桜中学校からの友人である。奏夢は反対の南桜中学校の出身であるが、燿夏と奏夢は元野球部でお互いライバル意識にあった。故に柊と奏夢は燿夏を通して仲良くなった。
守羅は主に燿夏に心を開いている。しかし、奏夢にだけは苦手意識があるようだ。
「そういや佐竹はどこ中だったんだ? 」
「……東山だが」
「へぇ、隣町の? 」
守羅は素直に頷く。彼は桜花市の隣にある東山市出身のようだ。柊はさらに問う。
「なんでまた2年で編入? 」
「うちの親父がここ出身で、まあ仕事の関係上でもあるな」
燿夏と奏夢は互いをちらっと見た。先日招かれた彼の実家であるカフェ。あそこにいたマスターがここの出身であり、二人の父親を知っていることにやっと納得したのだ。
「仕事は何をしているんだ? 」
「あ? あぁ、カフェのマスターを……」
その時だ。女の子の叫び声とどこからか人を殴るような音が聞こえる。背後にあるフェンス越しに下を見下ろすと、そこには男女を囲む数人の男達がおり、どうやらケンカをしているようだ。奏夢はそれを見るなり舌打ちすれば駆け足で屋上から出ていった。
「あれは!」
「隼人一火(はやと いちび)! 」
「ハヤト……? 」
「あぁ、お前は知らねぇか。うちの学校のケンカトップ。基本的に一匹狼で、あぁいうやつらにケンカ売られることがよくあるってさ」
「あれ?桑原じゃねぇか? 」
「奏夢相変わらず速いな……ここ4階だよ。もう中庭に行ってるし……」
「よし!俺らも行くぞ! 」
柊に無理やり引き連れられ中庭まで行く3人。木の影からこっそり様子を覗き見る。
「あんちゃん達何しとんの? 」
「!!? 」
突然背後から話しかけられ、一同はビクッと跳ね上がり、背後を見る。そこには茶髪の男がいた。
「あ、南原…さん? 」
「せやで、南原雷鳥(なんばら らいと) お、もしかして一火やっとるか? 」
南原雷鳥は3人と同様に木の影からこっそりと様子を見ていた。まるでイタズラした子供のようにニシシと笑いながら。
「あ、奏夢おるやん。また説教しに来たんか」
「南原さん、桑原と知り合いなんですか? 」
「そうそう、ウチと奏夢と、一火と優依(ゆうい)ちゃんは幼馴染やからな」
「えっ」
衝撃の事実に柊は固まる。燿夏は何だか納得したような表情、守羅は相変わらず首を傾げていた。
屍状態のケンカを売ってきた男達を他所目に隼人と奏夢はコチラに気付いていたのか、「金とるよ」などと冗談を発した。
「堪忍してな、今金もっとらんで」
「冗談。な、一火」
「そこの見知らぬ軍団は何だ。雷鳥」
「あぁ、奏夢の友達やて」
な?と雷鳥に背中を押されて、前に出された3人。暗い金髪に染めた紫のヘアターバンを前髪の下に巻いた目つきの細く鋭い男――隼人一火に睨みつけられる。その眼光に燿夏と柊は怖気づいた。それに対し、負けじと睨むは守羅だった。
「見ない顔だな」
「転入生、佐竹守羅。僕は好きじゃないやつだよ」
奏夢の言葉に隼人は興味を示さないのか、ふーんで終わらせた。隼人の背後から小さな影がひょっこりと現れた。身長が高い燿夏たちにとってそれは小さく見えた。赤髪の可愛らしい女の子。燿夏は彼女に見覚えがあった。
「あ、」
「一火!奏夢くん大丈夫? ごめんね……」
「大丈夫、一火も」
「俺は慣れてる」
「ありがとう、二人とも」
彼女が笑うとまさに花が舞う。可愛らしい笑顔に他の4人も惚れてしまうだろう。だが、その笑顔を咄嗟に隠す人物がいた。それが隼人だった。キッと睨みつける姿は威嚇をする狼のよう。
「……」
「一火ぃ、あんま威嚇すっと、後輩ちゃん達に嫌われんで[D:12316]」
「……優依をあんま見るな」
「一火、どうしたの? 」
背の高い一火の背後からぴょんぴょんと跳ねる小さい身体。まるで兄と妹のようで何だか微笑ましい。隼人の威嚇さえなければ。
「もしかして恋人同士か? 」
「せやで」
こっそりと問う守羅に雷鳥は同じくこっそり告げた。守羅のタメ口に一切何も言わない雷鳥に守羅は少し驚くも安心したようだ。
「ねぇ、雷鳥くん。その子は誰? 」
「あ、うちも名前は知らへん」
「佐竹 守羅。僕らのクラスの編入生。こっちが前から言っていた桜苑 燿夏、こっちが情報屋こと柊 蘭」
「ういっす」
「ど、どうも……」
「燿夏くん?もしかして奏夢くんと野球で対決した? 」
「え、あ、まぁ……」
「私ね、野球部のマネージャーしてたの。奏夢くんがよく燿夏は、燿夏はって話すから、気になっていたんだけど、わぁ!初めまして!私東条 優依(とうじょう ゆうい)っていうの。宜しくね! 」
「えっ、あっ、どうも……? 」
優依に手を握られドキマギするもすぐに一火からの嫉妬の冷ややかな目線を察するとすぐに顔を真っ青にする。だが振りほどくことは出来ず、胃を痛めながら彼女から手を離してくれることをただただ願った。
「奏夢にも親友おったんやなぁ」
「あまりからかうことはしないでくれるかな」
「燿夏くん、ようちゃんって呼んでええか? 」
「え」
「あ、それいい!ようちゃんって私も呼ぶね! 」
「あ、ど、どうぞ……? 」
雷鳥も優依に挟まれては精神的に揉みくちゃにされた燿夏は困惑しており、奏夢、柊、守羅に助けを求めるが誰も止めようとはしなかった。が、一火による一言で皆ハッとなる。
「もうすぐチャイム鳴るぞ」
「え、そんな時間!? 」
「つか俺ら弁当屋上に忘れてきてる! 」
「よし、燿夏行くぞ」
「待てよ奏夢! 」
慌ただしく去っていく一同。だが、守羅はふと振り返った。
「……おい編入生、遅れるぞ」
「あ、いや……あぁ」
一火は足を止め、守羅に声をかける。だが何となく気になる様子の守羅に歩み寄った。
「……なんかあったか? 」
「気のせいならいいんだが……変な蝶が飛んでいた」
「……は? 」
「いや、気にするな。俺の気のせいだ」
気にするなと言われれば何となく気にはなってしまう。だが今気にするべきことは授業に間に合うか、だった。

中庭の木陰の中をヒラヒラと飛ぶ青黒い蝶は守羅以外の者に気づかれることはなかった。topnext→