その日の放課後、柊は新聞部へ行ってしまい、奏夢は生徒会に用があるとのことで、燿夏と守羅は教室で待つことにした。
柊は先に帰っていてもいいと言っていたが、「涼夜(りょうや)が帰ってくるのは遅いから今日は平気」と燿夏は言う。
「涼夜……? 」
「俺の弟。今中3なんだけど、まだ部活してるし」
「何部なんだ? 」
「俺と同じ野球部。そういや守羅の家族って、マスターだけ? 」
燿夏は父親を知っているというカフェのマスターであり、守羅の父親である彼を思いだした。まだマスター以外の家族を見たことがない。
「妹2人と弟がいる、けどこっちには来ていない」
「お母さんは? 」
「母さんも、3人を見ているから向こうだ」
「寂しくない? 」
「……時々会いには行っている」
守羅が返答するまでの合間が気にはなったが、あまり突っ込むのも良くないだろうと燿夏は深入りは止めた。
「そういや、桜苑の……」
「何度も言ってるけど、燿夏でいいんだからな? 」
「柊ならまだしも桑原と同じにはなりたくない」
キッパリと言い切った守羅に燿夏は苦笑する。奏夢の嫌味ったらしい性格が嫌いらしい。
「お前の家族は? 」
「あ、俺? 涼夜だけ」
「両親は」
「……俺が6つの時に殺された」
床と壁まで広がる赤い血、床に倒れる2人の顔は痛みと苦しみで息途絶えたように目を見開いて固まっていた。その事がフラッシュバックしたのか燿夏は頭痛に襲われる。頭を抱えて苦しみだした燿夏に守羅はさすがに心配になったのか背中を摩った。
「嫌なことを思い出させた、悪い。大丈夫か? 」
「……大丈夫」
燿夏は大丈夫と言うが、目に涙を浮かべて冷や汗をかいていた。過呼吸になるのではないかという程息も乱れている。守羅は燿夏に申し訳なさそうに落ち着くまで背中を摩ってあげた。
「ごめん」
「いや、こっちも悪かった」
燿夏が落ち着いたタイミングで、奏夢が帰ってきた。
「遅くなった……燿夏? 」
「ん? 何? 」
「佐竹に泣かされた? 」
「いやオレは……泣かせてないから」
「佐竹、歯ぁ食いしばれ」
にっこりと笑いながら奏夢は拳を力強く握りしめ、掲げた。完全にキレている奏夢の気をそらそうと燿夏は柊が遅いことを話題にした。
「そそそいえば柊遅くないか!? 」
「あ、そうだった。柊、先に帰るって」
「ならもう待つ必要ないな」
燿夏と守羅は奏夢の拳を避けることが出来たことに一安心した。が、
「佐竹、燿夏泣かせたら殺すからな」
怒りはおさまったが、根にはもっているようだ。
2階の教室から階段で1階の玄関付近まで降りる。話をしながら下駄箱近くまで来ると、背を向けて立っている人物がいた。その後ろ姿に3人は見覚えが確かにあった。
「柊……? 」
その後ろ姿は間違いなく、柊だった。奏夢は首を傾げる。先に帰ると言い、確かに下駄箱を過ぎていった彼を覚えている。
仮に柊だとしたら何かを探しているようでも、3人を待っているようでもない気がする。
「柊」
「おい、燿夏! 」
燿夏は柊(?)に近寄り話しかける。肩にポンと手を乗せたその時だ。
ずるり…ぼとっ、びちゃっ
まるで、腐った人間の体が重みで落ちるように、嫌な音をたてて、その右腕は床に落ちた。
燿夏はその場で吐いた。それと同時に柊の後ろ姿をしたものが、崩れかけながら確かに振り向いた。
それは焼け焦げた人間、誰の顔でかすら分からない程に。
燿夏はフリーズしたのかその場から動けなくなっていた。奏夢は持参していたナイフをそれに向かって投げると見事に命中した。それは喉も焼けたのか、声にならない悲鳴をあげ、もがき苦しんでいる。
「とりあえず逃げるぞ! 」
咄嗟に守羅は燿夏を抱えあげて、一行は2階へ逃げた。
2階の曲がり角を曲がると、先を走っていた奏夢は誰かにぶつかった。
「っ!? 」
「大丈夫か!? 」
ぶつかった相手に声をかけられる。その声に2人は確かに聞き覚えがあった。
「ら、雷鳥さん」
「何が起こっとるん……一火と優依ちゃんも見当たらんし……変なもんに襲われかけるし」
雷鳥の抑える右腕に確かに深い引っかき傷があった。出血量は少ないが痛そうだ。奏夢は保健室へ連れて行こうと考えるが、この棟の1階にしかない。つまりあの化け物らしきものに会う確率があるということだ。
「とりあえずどこかに入りましょう。佐竹も疲れてるだろうし」
気絶している燿夏を抱える守羅も疲れた表情を浮かべている。その様子を見て雷鳥は「何があったん!? 」と叫びそうになるのを押し殺し、察した。
「奏夢たちの教室辺りがええんちゃう? うちもあんま2年のクラスとか知らんし……」
それで納得した3人は2年A組の教室に入った。特にここは変わりはないようだ。気絶した燿夏がちょうど目が覚めた。
「そっちは何があったん……」
ボソリと雷鳥は奏夢と守羅に問いかける。奏夢が先程の件について話した。
「でも情報屋くんは確かに帰ったんやろ? 」
「僕が確かに見た。だから柊があそこにいることはおかしいんだ」
「うちの方はなんか大きな犬みたいなやつやった……」
「狼ではない? 」
「狼を生でみたことあるかいな! なんちゅうか、大型犬が結構成長したような感じやったな、噛まれんかっただけマシや……」
「何なんだろうか、こんな変なことが、1度に一気に起こるなんて……」
「ひい、らぎは……」
ぼーっとしていた燿夏がやっと口を開いた。やはり先程のショックがでかかったのだろう。柊の心配をずっとしている。
「燿夏、あれは柊じゃない。柊に化けた化け物だ。だから死んでも傷ついてすらいない、大丈夫……」
「……ん、そうか」
「やっと落ち着いたか? 」
「ごめん、奏夢、守羅……あれ? 雷鳥さん? 」
「ようちゃん大丈夫かいな」
「……まぁ、何とか」
落ち着いた燿夏に気絶している間のことと、雷鳥の話を聞かせた。
「そう言えば一火たちがいないって」
「せやった! あいつらどこ行ったんか分からんと……生徒会室におるって聞いたんやけど……」
「生徒会室には確かに僕も行ったし、優依さんは確かにいた」
奏夢は確かに生徒会室にいる優依を見た。だが、一火の姿は見ていない。
「もしかしたら屋上とかにおったり……」
「優依さんの安否も確認しないといけない。先に帰っていたらいいんだけど……」
「二手に別れて探すか……」
「うちはようちゃんとがええな」
「「えっ」」
雷鳥の燿夏との行動を希望する発言に奏夢と守羅は顔を引き攣らせる。
「なんや、二人とも嫌なん? 」
「おおおお俺は誰とでもいいから、な? 」
「燿夏、僕とでいいよね」
「んじゃ守羅っちよろしゅうな」
「しゅ、しゅらっち……? 」
雷鳥の突然のあだ名に困惑する守羅。だが、先程の組み合わせよりはマシになったのか、燿夏と奏夢、守羅と雷鳥という二手に別れて優依と一火を探すことにした。
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