燿夏と奏夢の2人は、2階から3階、さらに屋上へと階段を登った。しかし屋上への扉は鍵がかかっており、固く閉ざされていた。
「鍵がかかっているということは、いるかもしれないことも考えなければいけないね」
「外側に鍵あったっけ」
「確かあったよ、僕は確かに見たことがある」
今は鍵が手元にない。すんなりと諦め、2人はとりあえず3年の教室も探そうとまた階段を降りた。その時だ。
2人は互いを見るが何も言わない。だが確かに2人は確信していた。"背後に何かがいる"ことを。
無言を貫いたまま階段を降り、早歩きで近くの教室に逃げ込み、鍵を閉めた。"それ"はどうやら自分たちを探しているようで、音はしないが、嫌な気配で察した。バクバクとなる心臓、出来るだけ息を潜めて2人は"それ"がどこかへ行くのを待った。

「……行った? 」
「そうみたいだね」
嫌な気配が消え、鳥肌も冷や汗も治まっていく。ため息をついた2人は教室を見渡した。
「一火たちの教室ではないようだ」
「分かるんだ? 」
「何度か遊びには行ってるよ」
奏夢はすぐに立ち上がる。燿夏もそれに続いた。
「一火と優依さんを探すことと学校から帰ることが目的だからね」
「そういやさ、奏夢」
「なんだい?燿夏」
「今、時計が4時を指してる」
「えっ? 」
奏夢は燿夏に言われ、彼が見つめる先にある時計を見る。確かに時計は4時44分を指していた。それが朝なのか夕方なのかは不明だが。ハッと思い出したように奏夢は自分のスマホを取り出し、スマホの時計を見るとスマホは8時と表示されていた。
「……あれ」
「俺のも8時だった」
燿夏の見せたスマホも奏夢も同じ時間を指している。
「そういえば奏夢、腕時計は? 」
「今日は僕としたことが忘れたんだ……」
「えっ、珍しいね」
そういえば彼がいつも身につけているはずの黒いスポーツウォッチが今日は左手首にはなかった。
「スマホがあるだけまだマシだよ。電波は立ってるし」
「そういえば隼人さんと優依さんのメアドとかLimeとか知らねぇの? 」
「まだしてなかった。燿夏、今日は冴えてるね」
「お前今日はポンコツだよな、どうしたんだよ……」
奏夢は笑顔で燿夏の尻を蹴った。
一火と優依に対し、奏夢がLimeでメッセージを送る。しばらくしても返事がなかった為、廊下に出て、慎重に3階を散策した。



一方、守羅と雷鳥は柊らしき化け物がいないことを確認し、玄関を調べた。鍵はかかっていないはずなのに扉は固く閉ざされていた。不可解な現象に首を傾げた。次に保健室へ向かった。引っかき傷は既に乾いていたが、本人曰く痛む為、包帯で保護をした。
「おおきにな」
「別に……」
「それにしても守羅っち、処置上手いな。奏夢と同じで」
雷鳥の口から奏夢の名が出た瞬間、守羅の眉間のシワはさらに深くなる。それを見た雷鳥は面白そうに吹き出した。
「どんだけアイツのこと嫌いやねん! 」
「嫌いつか、ムカつくから……」
「ちっさい頃からあんな感じやったからしゃあないわ。医者ん息子で、生まれつき記憶力がずば抜けていい。10人が10人、あいつを凄いと思うことはないと思うしな」
「嫌悪する人間もいる……」
「そうそう、でもうちら3人……正しくは4人か。奏夢の味方やって思ってる。いなくなった、あいつも……ずっと」
「? 」
雷鳥が"あいつ"という単語を出した瞬間、どこか懐かしむような、悲しげな笑みを浮かべていた。守羅は何となく察してあえて詳しくは聞かなかった。今は過去を聞くことよりも先にすることがあるからだ。
「一度、下駄箱まで行ってみ、ませ、んか? 」
「なんや、いきなり敬語なんて。タメでええんねん。硬っ苦しいのは嫌いやから。せやな、その化け物っちゅうもんでも見てみたいしな」
雷鳥の返答に守羅はポカンとするが、「すごいおおらかな人だな」と思った。
2人は休憩と処置を兼ねた時間にキリをつけて、保健室から出ようと扉に手をかけた。

ガタッ、ガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタ!

まるで震度7のように、あるいは外から何者かが小刻みに揺らしているかのように。守羅と雷鳥は扉から距離を置く。小刻みな揺れはドアを思い切り殴るような音に変化する。
「ベッドの下に隠れるしかないで! 」
雷鳥は小声で守羅にそう言う。ベッドの下以外に隠れる場所が見当たらないのだ。2人は急いで各々ベッドの下に隠れた。
激しく開かれた扉からは嫌な気配がした。確かめる勇気はないが、人間ではない何かであることに変わりはない。そっと息を潜めて出ていくことを待つ。

ぴちゃ…ぴちゃ…ずるっ…ずるっ

雨に濡れ雫の滴る音と、何かを引きずるような音が聞こえる。それは一時止まると、また動き出す。それを繰り返していた。しばらくすればその音は遠のいていき、保健室から出ていったようだった。
守羅と雷鳥はベッドの下から抜け出した。
「なんなんや、あれは……! 」
「あれは……」
2人は確かに侵入者を見てしまった。それは黒い何かを引きずる化け物の姿だった。
黒い何かとは。白いものが見えた。それと目があった。ギョロりと向いた白い目と。
緊迫した空気の中突然雷鳥のスマホに通知が入る。それは奏夢からのものだった。

―優依さんが生徒会室にいる―

と。topnext→