コンニャクと共に3階を探索する燿夏と奏夢と一火の3人組は次なる怪異に出くわしていた。それは1番奥の空き教室にいる九尾の狐だった。狐の傍らにある机の上には紙と10円玉が置かれていた。誰かがここでコックリさんでもやったのだろう。教室に一歩踏み入れば、ピリッと張り詰めた空気に触れ、ぞわりと背筋が凍る。狐はこちらを見つめるが何も言わない。いや、無言の威圧をかけている。コンニャクですら、ビクビクと怯えている。奏夢が最初に口を開いた。
「聞きたいことがある。この怪異を起こしたのはお前か」
しばらくすると低い男の声が反響して聞こえた。
『逆に問う。我を呼び出したのは貴様らか』
「呼び出す理由が僕らにはない」
『ならば我を呼び出しておいて逃げるなど、阿呆のする真似を……』
「つまり、怪異を引き起こしているのはアンタじゃない、ってことですか? 」
『怪異……』
狐は首を傾げた。どうやら本当に彼の仕業ではないようだ。
『ならば我に問えばいい』
「あ? だから聞いて……」
「違う、"コックリさん"にだよ」
3人は中途半端に置かれた紙の周りを囲み、10円玉に指をおいた。そして、鳥居へ戻し、燿夏は問いかけた。
「コックリさん、コックリさん、どうかおいでくださいませ」
すると、スススと10円玉は、『はい』へ動いた。信憑性がなかったのか、3人は互いを見た。燿夏は続ける。
「コックリさん、コックリさん、この怪異を起こしている原因は誰ですか」
しばらく間があったが、ゆっくりと動き出した。
―― こ ろ さ れ た し よ う じ よ ――
「殺された少女? 」
「コックリさん、コックリさん、それはどこにいますか」
燿夏が問いかけてもそれは動かない。
「コックリさん、コックリさん、どうかお帰りください」
するとすぅっと真っ直ぐに鳥居へ帰っていった。それと同時に先程まで張り詰めていた空気は一気に開放された。
「なんか、肩の重みがとれた……」
「無事帰ってくれたからよかった」
はぁと安堵のため息をつくと、先程コックリさんの答えた、殺された少女についての話題が出る。
「そういうのは図書室か校長室にあるんじゃないか? 」
「とりあえず1階に行けるか、試すか……って、あれ? コンニャクは? 」
一緒に着いてきたはずのコンニャクの姿はどこにも見当たらなかった。
「そういえば、Lime来てないか? 」
「そういえば……」
3人は一斉にスマホを開く。一火は声を上げた。
「守羅くんと保健室にいるからね……? はぁ!? 」
「佐竹にそんな度胸ねぇから」
「いやいや何ですぐそんな思考になるんですか!? 」
「アイツ手ぇ出したらぶっ殺す」
「隼人さん!! 」
優依が心配で仕方ない一火は光の速さで走っていってしまった。後輩2人の脚力ではとても追いつきそうになかった。しかし、無事に無限ループからは解放されていた、ということは後々気付くだろう。
鬼の形相で一火は乱雑に扉を開いたと同時にハサミが目の前から飛んできた。目の前には青ざめた顔の守羅。その背後には怨霊のごとく目を光らせ、怒りに満ちた保健室の眠り姫が佇んでいた。
『うるさい……うるさい、うるさいうるさいうるさぁぁぁぁい!! 』
「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁ!! 」
桜花高校一、ケンカの強い隼人でさえ怪異には勝てなかったようだ。



「つまり、今雷鳥が?」
「優依サンが目を覚まさねえと……」
 ぼっこぼこにやられた一火と、燿夏と奏夢は守羅から話を聞いていた。そして燿夏たちも3階で起きたことを話した。
 現在一人で行動している雷鳥が心配だ。早めに行動したい一火はそっと優依を起こす。
「優依」
「ううん……」
 彼女は簡単に眠りから覚めた。安心した一火は優しく優依を抱きしめた。「一火?」やっと恋人と再会できた2人をそっとしておいた。

「僕らが雷鳥さんを探して、一火たちに図書室を探してもらおう」
「まあ優依サンいるしな」
「オオカミと戦うにしてのもあまりにも無防備じゃないか?」
「燿夏のさっきのモップはどこにやった」
「え、掃除用具入れに入れてきた」
 思わずなんでや!とつっこんだのは言うまでもない。
 一火と優依にその旨を話した燿夏たちは早速2かい階に向かった。



 2階からは先ほどまで感じなかったはずの血生臭い臭いが漂っていた。薄暗くて分かりにくいが、壁や廊下に所々血の跡がついていた。最悪の事態を想像してしまう。燿夏は血の臭いに吐きそうになるのを堪えた。奏夢も顔をしかめていた。守羅は慣れているような顔だった。
 階段から右手に進むと、血の匂いは先ほどよりも強くなっていた。一つ一つ扉を開いていく。奥から2番目の教室の扉に手をかけたその時だ。

 ―――おおおおおおおおおおん―――

 獣の雄たけびが鼓膜が破れそうなほど響いた。雄たけびは超音波となり、窓ガラスがひび割れるほどの威力があった。
「雷鳥!」
 奏夢は思い切り扉を開いた。すると目の前には驚くべき光景が広がっていた。
 白目を剥いて横たわるオオカミの前に佇んでいたのは、血にまみれた雷鳥が確かにいた。
「雷鳥……?」
「雷鳥さん……」
 震える声で雷鳥の名を呼ぶ。雷鳥はゆっくりと振り向いた。それは間違いなく雷鳥だった。だが様子がおかしい。左手に持つ黒いものの正体は靄状の刀だった。雷鳥はこちらを見つめるとゆらりとこちらに近づいてきた。こちらを見る目は明らかにおかしかった。
「ふ……フフフ……フハハハハハ」
「やっべえんじゃね?」
「まともじゃねえだろ!」
 刀を構えて突進してくる雷鳥に抵抗など出来ず、逃げ出した。振り向きざまに奏夢はナイフを投げる。だが簡単に刀で跳ね返されてしまった。
「とりあえず逃げるぞ! 」
「ニガサナイ……」
「うわぁ!? 」
雷鳥は守羅に向かって刀を突き出した。避けることは出来たが、その威力はとても恐ろしく、壁にヒビが入った。
「佐竹! 」
「雷鳥さんどうしちまったんだよ! 」
「とりあえず、その刀を取り上げるんだ!」
燿夏は掃除用具入れからモップを取り出した。雷鳥は奏夢に狙いを定めた。ナイフを取り出し、刀を跳ね返すが、大きさと威力の差は桁違いだ。
「つーか、奏夢竹刀はどこにやった! 」
「保健室に忘れてきてしまった! 」
「馬鹿か! 」
「仕方ねぇ、桑原、燿夏、頑張って避けろ」
「へ? 」
「は? 」
守羅の一言に何を言い出したんだと言わんばかりにそちらを向く。守羅は拳銃を両手に構えてこちらに向けていた。
「雷鳥を殺す気かよ! 」
「下手なやつは殺すだろうな。俺は、"殺さねぇ"よ! 」
守羅は雷鳥に向かって連射する。だがやはり刀で防がれてしまう。しかし、守羅はそれを分かっていたようだ。
守羅が何をしたいのか察した2人は背後からそろりと雷鳥の首を狙う。ぶんと後ろを振り向かれ、それは阻まれてしまった。それどころか刀は燿夏に向かって突き出された。
「燿夏! 」
急な出来事に足が竦んでしまった燿夏は突き出される刀を目の前に逃げることが出来なかった。

だが、急に目の前に広がる黒い塊により痛みは全くなかった。黒い塊に燿夏は覚えがあった。
「コン、ニャク……? 」
3階で急にいなくなったコンニャクだった。刀が深く刺さり、コンニャクは泣きそうな声を漏らす。そして赤い目からは涙のような液体がぽたぽたと落ちた。
「きゅ……きゅぅ……」
すると雷鳥の手から刀は黒い砂のようになって消えたと同時に気を失い、床に倒れた。
「ごめんな……痛かったよな……」
まるで人間のように痛みで泣くコンニャクに燿夏は優しく抱きしめた。本当にこんにゃくのようにひんやりとしていて柔らかかった。
「俺を守ってくれてありがとうな」
その言葉を燿夏から聞いた瞬間、コンニャクの体は光と共に消えていった。 topnext→