一方、一火と優依の2人は保健室を出て、図書室に向かっていた。図書室は、教室がある棟とは別の棟にある。他に職員室や理科室など専用の教室が集まっているのだ。
彼らは何事もなく図書室の前に着いた。だが残念なことに鍵がかかっていた。職員室は1階にあり、図書室は3階にある。階段を往復するのも気力がなくなるだろう。だが、ここから出るにはヒントを得なくてはいけない。
はぁとため息をつく一火と優依。扉に背を向けたその時だ。カチャリと確かに扉から聞こえた。思わず振り向くも誰かがいる、という気配はない。優依は恐怖からか一火のブレザーの裾を掴んだ。
恐る恐る取っ手に手をかけ、扉を引いた。するとすんなりと開いたのだ。2人は顔を見合わせる。そして意を決した様に、中に入っていった。
図書室の様子は特に変わった所はない。だが昼間訪れる桜花高校の図書室とは雰囲気がガラリと変わる。気のせいか、ひんやりとした空気も流れている感じがする。
日頃から図書室に訪れている優依は大体の本の場所を覚えている。だが、学校の歴史のことなど、図書室にあるのだろうか?
「何をお探しかしら」
ふと聞こえた声に優依はきゃっと声を上げる。一火は咄嗟に声の主を探した。それはカウンター席に座り、こちらを見ていた。
「あらあら、いつも来てる人ね。別にアタシは怖い人じゃないから平気よ」
丸眼鏡をかけたパッツンに三つ編みの女性は立ち上がるとふわふわと浮いてこちらに近づいてきたのだ。本人曰く怖がらなくてもいい、と言われても幽霊のごとく浮かれてはありえない光景に信じることも出来ない。警戒心丸出しの一火を見ながら女はため息をついた。
「下手に時間潰して捜し物するより、アタシに聞いた方が早いんじゃないの? 」
「てめぇは誰だ」
「アタシ? 名乗るほどでもないわ。図書室にいるただの幽霊。アタシを呼ぶ時は、本子(モトコ)とでも呼びなさいな」
「モトコさん、この学校で起きた、殺人事件って知ってますか」
優依はさっそく本題に入った。その瞬間、モトコの顔は一瞬こわばる。が、すぐに資料を探しにふわふわとカウンターの裏側にある扉の奥へスーッと消えてしまった。
「見たか? 」
「うん……もしかしたらなにか知ってるのかな」
「あれは、"何かしら関わっている"顔だった」
2人はボソボソと会話をしていると、モトコが再び扉の奥から戻ってきた。本の厚さは薄いが、昔のものなのかところどころ破れている。
「この学校2回名前が変わっているの」
「え? 2回も? 」
「きっとマスコミに知られたくなかったからじゃないかしら。そこは分からないけど。1回目は第二次世界大戦が終わった後。2回目が……そうそう、この事件があった後よ」
モトコは慣れた手つきでページを開く。指さした先に書いてあるメモらしきものを2人は覗き見る。
「1年生生き埋め事件……? 」
「そう、これはとある女の子がイジメで生き埋めにされた殺人事件よ。被害者の名は――……」
「え? 」
*
「なんや、色々すまんかったなぁ……」
正気に戻った雷鳥は至って普通だった。右腕の傷以外、他に外傷もなかった。無事だった雷鳥に安堵のため息が出る。Limeで報告を受けた奏夢が話した。
「今図書室に一火と優依さんが向かったらしい」
「まぁあの2人やから大丈夫とは思うけど、ホンマ早う家に帰りたいわ……」
「今回の件は本当に何なんだろうな……」
「もう少ししたら僕らも図書室に向かおう。早く進まないと気が狂いそうだ」
「なぁ、燿夏……燿夏? 」
守羅は燿夏にも話しかける。だが先程までいたはずの燿夏がいなくなっていた。そして、辺りをキョロキョロと見回す3人は青黒い蝶がヒラヒラと消えていくのを確かに見たのだ。
「あれだ!雷鳥サンに化けてたやつ! 」
「あの蝶が? 」
「たぶん、柊に化けてたやつもあれだ。確かに見たんだ」
「ほんなら追いかけてシバいたるわ! 」
3人は蝶を追いかけていった。
*
「よう、か……」
「ええ、苗字は記されていないけれど。彼女の慰霊碑も旧校舎の裏手にあるの」
「ようちゃんと、同じ名前……」
「同じ名前の子がいるのね」
「桜苑 燿夏っていう子なんだけど」
「桜苑……!? 桜苑先輩の子?」
モトコの問に2人は首を傾げる。だが、他に桜苑という苗字の人は知らない。
「ごめんなさい、いえ、そのヨウカも桜苑先輩が好きだったのよ……」
「その人今いくつの人だ? 」
「恐らく、40歳くらいかしら……」
「俺たちの親父と同じくらいだな……」
その時だ。Limeの通知音が鳴る。スマホを取り出すとそこには「燿夏がいなくなった」と一言書かれていた。
「桜苑がいなくなったと」
「探しにいかないと! 」
「もしかしたら、ヨウカの仕業かもしれないわ。自分と同じ名前だからか、もしかしたらその桜苑先輩に似ているからか……」
「とりあえず旧校舎裏に行こう! ありがとうモトコさん」
2人は騒がしく図書室を後にする。1人残されたモトコはため息をつくと、震えた声で、「……妖花、ごめんなさい……アタシのせいでもあるのよ」と懺悔した。
top ┃
next→