first kiss(後編)


 今日雄英に行く用事があるんだけど、どうよ?
 サポート会社に勤務する高校時代からの知り合いから届いた短いメッセージに、分かった。とだけ返して、俺は口元を捕縛布で隠した。

「HEYHEYHEYイレイザー! ウブな顔して誰かにデートでも誘われたかァ?!」
「うるせぇ……」

 山田の考えは間違いではないが、素直にこの後の予定をバラす理由もないので無視して職員室を出る。
 サポート科に顔を出して彼女が来る時間を確認し、授業のため教室へ向かった。

 授業を終えてメッセージを確認すると、#い#から待ち合わせ場所の連絡がきていた。
 教員トイレ。
 それしか書いていない。せめて男子のか女子のかを書いておくとか、時間も添えておくとかしろよ。と思いながら、サポート科付近の教員トイレに足を運ぶ。女子トイレに入ったら確実におかしいので、男子トイレに入ると、換気窓を覗いている彼女がいた。

「オイ……」
「あ? ああ。おつかれ。消太くん」
「ああ……おつかれ」
「人来るとまずいし、用具入れで良い?」
「……ああ」

 俺の方が近かったので先に用具入れの中に入ると、彼女も急ぎ足で中に入って来た。

「ん」

 早々にそういう姿勢を見せる。彼女も割と合理性を求めるタイプなのだが、未だにテンポが速すぎて慣れない。くっついて、俺の両手を掴むと顔を上げてまぶたを閉じている。その彼女の手の甲を指で撫でて、俺も顔を寄せた。

 音もなく触れる唇が馴染むのを待って、柔らかい彼女のそれをゆっくりと俺の唇で食んだ。何度か歯を使わずに噛んでいると、待ちきれない様子で彼女の舌が侵入してきた。その舌を軽く吸って、俺もそれに絡んでみると口の中で水音がやけに響く。唇以外が近すぎたことに気が付いた時にはもう遅すぎた。

「っ、は……消太くん……」

 彼女の開いた口を手で塞ぐ。これ以上そんな声を聞くとまずいと思って。黙ったのを確認して離すと、溜まってるのかとおどけて彼女は笑った。
 そうしていつもの行為を終えたので、彼女は用具入れから出て行った。

「今度はその先もチャレンジしてあげよっか?」
「お前な……」
「ふは。ま、そうなっても良いよってハナシ。じゃーね」

 そうなってもって、どういう意味だよ。と思考してから考えるのを止めて、俺も職員室に戻った。


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夜明けの想夏