世界はこんなに美しい8 [ 1/2 ]

「2年待て。それで必ず結果を出す」
「はい、待っています」
「行ってくる」
「はい、お気をつけて」

別れの口づけのあとで窓辺に立ったクロコダイルは、一瞬迷ってから振り返った。
中々出ていかない気配に、**はベッドの中から首を傾げる。

「どうかしましたか?」
「あー、一応言っとくか…」
「はい?」
「お前、もっとおれ以外の奴のことも気にしろ」
「え?」

言われた言葉を呑み込めず、**が疑問符を返す。
きょとんとしたその様子がクロコダイルには可笑しかった。

「世界はよ、本当の姿でもお前が思うより美しいはずだ」

その台詞を最後に、クロコダイルは宵闇の中に消えた。
残された**は、白い腕をベッドサイドのテーブルに伸ばす。
そこには葉巻が1本置き去りにされていた。

クロコダイルはここには来ない。
正確には2年間、その頭の中にある計画が成就するまでは。
**のために、**の頭の中にあるプルトンの情報を無意味なものにするために国盗りをする。
そう約束して、出て行ったのだ。

国盗りのあとの立場がどうなるかはわからない。
七武海として、アラバスタの英雄としてそのまま国王になれるかもしれない。
だが、いくら国を救うという建前があったとしても、海賊であるクロコダイルが一国を手に入れることに反発する者は少なくないはずだ。
それでも迎えに来ると、彼は**に約束をした。

ベッドの中で葉巻の香りを吸い込む。
2年とは、どれほどの年月だろうか。
この10年、**は時間というものをほとんど意識しないまま過ごしてきた。
長かったのか短かったのかは、正直わからないというのが本音である。

「まずは、1晩目…ですね」

寂しさの滲む声音に、思わず苦笑が漏れる。
残された葉巻を握りしめながら、**は長い月日に思いを馳せた。


【世界はこんなに美しい8】


約2年後、クロコダイルはインペルダウンの檻の中で溜め息をついていた。
両腕には海楼石の手枷。
身体から始終力が抜けて、立っているのも億劫な有様だった。

『こんな姿、あいつには見せられねェな』

もう何度そう思ったか知れない台詞を、クロコダイルはまた反芻した。
約束したというのに。
**のためにプルトンを手に入れると、そのあと必ず迎えに行くと。
そのための2年間だった。

しかしクロコダイルは、当時まだ3000万ベリーの賞金首だった若造に敗れ、この有様だった。
彼を獄に送った張本人に仕立てられたスモーカーは、特進して現在准将という話である。
**にはまだ会いに行っているのだろうか。
護送の去り際に「本部勤務になった」と呟いていたのが引っかかっていた。
ローグタウンよりは遙かに、マリージョアに近い。
会おうと思えば以前より容易いはずだ。

『いや、見れはしねェか。…まァ、考えてもどうしようもねェ』

**を想っても今は仕方のないこと。
現在の彼女がどうしているのかを知る術がクロコダイルにはない。
諦めるつもりはなかった。
しかし、打開策がないのも現状である。

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