世界はこんなに美しい9 [ 1/3 ]

「さて…」

読んでいた新聞を折り畳み、クロコダイルは腰を上げた。

「行きますか?」
「あァ」
「まずはどこへ?」
「ここだ」

問いかけてきたダズに、クロコダイルは小さな紙片を放る。
飽きるほどに眺めたその内容は、もうとっくに覚えていた。

「何をするんで?」
「迎えに行く」
「どなたを?」
「大将の、姪だ」

にやりと歪められた口元に、ダズが目を丸くした。


【世界はこんなに美しい9】


戦争が終わって1ヶ月が経とうとしていた。
世間は先週、麦藁のルフィが起こした奇怪な行動の話で持ちきりだ。
何を考えているのかと、クロコダイルは呆れを通り越して感心すら覚える心境だった。

本当に、世の中というの皮肉である。
自分の野望を阻み、インペルダウン送りにした男。
自分にとって唯一無二の存在を自由の身にした男。
そして、自分を脱獄させた男。
全てがモンキー・D・ルフィという1人の男だ。
命からがら逃げ出したはずと思っていた若造は、身体の傷も癒えぬうちにまた世間を騒がせた。

しかし、この行動はクロコダイルにとって好都合である。
お陰で、海軍は今マリンフォードから離れられない。
そもそも戦争でめちゃめちゃになった街の修復やら基地の修繕やら、死傷者の確認その他諸々で息つく暇もなかっただろう。
そこに、麦藁のルフィと“冥王”シルバーズ・レイリー、更には元七武海のジンベエという3人の登場だ。
一兵卒だけでなく、大将クラスの人間も対策会議で足止めを食っているに違いない。
サカズキもまた、例外ではないはずだ。

不思議そうに紙片を眺めるダズと共に、クロコダイルは船を出した。
やらなければならないことは色々とある。
また組織を作るのか、しばらくは2人だけでやるのか、それもまだ決めていない状態だった。

しかし、何より優先すべきことが1つだけある。
自分を待っている人間が居るのだ。
インペルダウンにまで会いに来た、あの奇特な女。

迎えに行ってやらなければ。
それが、2年と少し前の約束なのだから。

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