世界はこんなに美しい9 [ 2/3 ]

目的の島には1週間ほどで到着した。
ダズは相変わらず紙を眺めて首を捻っている。
方角や日数を記したそのメモに出発地の名前はない。
クロコダイルはその人物がマリージョアに住んでいたことを知っているが故に、メモの示す先を正しく理解できた。
しかし、彼女と面識もないダズにはいくら考えたところでわからないだろう。
「止めとけ」と言っても、妙に真面目な部下は「他にすることもない」と飽きずに解けない謎に挑んでいた。

随分とのどかな島だった。
ログがきっちり取れるにも関わらず、最近の海賊の横行とは無縁のように思える。
ここに手を出すとヤバイという噂でも流れているのだろうか。
実際、何か問題を起こせばサカズキがすっ飛んでくるだろう。
彼女とサカズキは、長年の誤解を解いた様子だった。
海軍の3本柱である屈強な伯父は、可愛い姪に手を出そうとした輩を問答無用で海に沈めるに違いない。
もしかしたらどこか別の場所に、軍艦の1隻でも隠してあるのかもしれないと警戒はしていた。
しかし、見渡す限りの野原からは、そんな様子も感じられなかった。

「この島のどこにいらっしゃるんで?」
「さァな…そこまでは聞いてねェ」
「…左様で」

島のどちら側から上陸するかは書かれていたが、それ以上の情報は皆無である。
少し歩けばわかるのかとダズを引き連れて島に入ってみたものの、のどかな風景ばかりで家1つ見当たらなかった。

不意に、遠目から笑い声が聞こえた。
求めていたものでないことに嘆息しつつも、クロコダイルはそちらに足を向ける。
少し高い丘を登り切ると、眼下に小さな村が見えた。
聞こえた声は遊んでいた子ども達のものらしい。
特有の高い声が、丘に反射して響いている。

「このご時世にしちゃ、のんびりした所ですね」
「あァ」
「聞いても宜しいですか?」
「内容による」
「…では、後ほどで構いません」

一瞬躊躇った様子に、クロコダイルはダズの心中を察した。
「大将の姪とどういう関係なのか」と大体そんなところだろう。
村の様子を見て、もうすぐ居場所が掴めると判断したに違いない。
会えばわかるとでも思っているのだろう。

「おい、ガキ共」

クロコダイルがそう声をかけると、子ども達は一様に怯えの色を顔に貼りつけた。
隣ではダズが気の毒そうに小さな一群を見つめている。
その様子でさえ、彼らには恐怖の対象になるだろう。
ダズがそのことに気づいているのかは、クロコダイルの知るところではなかった。

「この辺に目の見えねェ女が住んでるだろ?」
「…し、しらない!」
「だれのこと?」
「嘘つくと自分達のためにならねェぞ?」
「しらないってば!!」

寄り添いながら拒否を示す子ども達。
その様子を、クロコダイルはじっと見つめ続けた。

ふと、1人がちらりとどこかに視線を送る。
すかさずそれを追うと、物陰に隠れていた誰かが走り出した。
クロコダイルがダズに顎をしゃくる。
忠実な部下はそれだけで走り出し、一瞬でその誰かを捕まえて戻ってきた。
大きな手に首根っこを掴まれているのは、やんちゃそうな少年だ。

「方向は見てたか?」
「はい、あちらです」
「くっそー、はなせよー!!」
「黙ってろ、干涸らびさせんぞ」

手近な木に右手を当てたクロコダイルがその水分を奪い取ると、騒いでいた子ども達は一様に口を噤んだ。
その様子に、彼はにやりと笑う。

「大人しくしてりゃ、お前らには何もしねェよ」

先ほどダズが示した方向にクロコダイルが歩き出す。
怯えきって震える一群を、ダズはやはり気の毒そうに見ていた。

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