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「今日はより一層良い天気だね」
「そうですね!こんな日は動物を放牧するのに最適です」


私と賢治君、そして敦君と一緒に市警から届いた依頼を解決しに出掛けた。何でも走行中の車が謎の爆発を起こしたそうだ。それだけならなんて事ないが、プライドの高い組織が探偵社に投げつけてきた事件なので、そこらの簡単なものではないのだろう。


「敦君は、こういう仕事初めてだっけ?」
「はい!一生懸命頑張りますので、宜しくお願いします!」
「うんうん、良い気合だね!」


賢治君と敦君。年下の可愛い男の子を二人も連れて歩ける日が来るなんて思わなかった。両手に花とはこの事だ。マフィアに居た頃は黒スーツのおじさんばかりだったから、花というより泥だった。そう、泥だ。





現場に到着すると、辺りは騒然としていた。まあ、そうなるのもおかしくない。車がビルの窓硝子を突き破っているのだ。それだけなら良くある話だけれど、問題は三階程の高さに車がぶら下がっている事だ。


「走行中の車が突然あそこまで吹っ飛んだそうですよ」
「これは市警も投げ出したくなるわ」


手で影を作り、車を見上げる。敦君は私の隣で頭を抱えていた。この子、探偵社に入ってから頭を抱えてばかりだ。それが普通の反応だけれど、普通でない反応ばかり見てきた私にとっては新鮮そのものだ。


「運転手は車内で即死、身元不明」
「身元不明?でも指紋や歯型が残っていれば身元って判るんじゃ」
「うん、そうだね。残ってれば、ね」


語尾を強調すると、敦君は遺体を想像したのか顔を青くさせた。乱歩さんがいればあっという間に終わる事件も、私達が解決に至るまでは少々時間が掛かる。ここからは賢治君の出番だ。

商店街を歩くだけで、賢治君はみんなに名前を呼ばれ引き留められる。これが賢治君の凄いところだ。意図も簡単に人の懐へ入っていく。正直、どんな異能力よりも尊敬している。


「…大人気だね」


敦君がぽつりと呟いた。すると賢治君はにこりと笑い「都会の人は怖いと聞いていましたが、この街の人は皆さん良い人ばかりで」と嬉しそうに言った。それは賢治君の人柄の良さがこの結果なのだけれど、それはまだ彼には分からないようだ。

三人並んで歩いていると、突然日が陰った。「よう、名前ちゃん、賢ちゃん、仕事か?」そう言ったのは見るからにヤのつくアレな職業の男性。敦君は私に掴まり、プルプルと震えていた。


「こんにちは。今、そこの爆発した車の事を調べてるんです」
「何かご存知ないですか?」


すると怖面の男性は「噂はあるなあ」と呟く。ここからは賢治君お得意のにこにこ攻撃で、男性は一発で撃ち落とされた。もちろん、男性が賢治君の可愛さにやられた訳ではない。「本来は云うたらあかんのやけど…」腰を曲げ、男性は小声で話し始めた。どうやら事件前に肥料を大量に買い込んでいた人達がいるらしい。

「肥料?それは良い」賢治君は目をキラキラさせていた。可愛い、本当に可愛い。すると男性は「いや、精製がどうとか云うとったから」と続けた。


「ああ…窒素肥料ですか」


賢治君は残念そうに答えた。頭にはてなマークを飛ばしていた敦君に「爆弾の原料だよ」と教えてあげれば、目を見開き驚いた。その間にも賢治君は男性に感謝を意を述べていたけれど「賢ちゃんの為なら何でもするけぇな」の発言に敦君は首を傾げていた。





必要な情報は手に入れた。私は基本口を出さす、賢治君の好きな通りに事件を解決させてきた。今回もそのつもりだ。目の前を歩く二人を見ながら、次の目的地を予想しながらその背中を追う。


「工場区の裏通りと言えば互助青年会の皆さんの寄合所がありますね」
「青年会?」
「都会風に云うと…えーと…ギャング?」


賢治君の言葉に敦君が露骨に嫌気を表情に出した。そしてその後すぐ「ご本人に聞きに行きましょう!」と言った賢治君に対し、敦君は物凄く焦っていた。「苗字さん、いいんですか!?危ないですよ!」私を振り返り言った敦君に大丈夫だと返せば、ギョッとした表情をする。


「心をこめて聞けば答えてくれますよ。そういうものです」
「そ…そういうものなんだ!」


ぱぁ、とした表情をしているけれど、敦君。そういうものでは無い。賢治君だからこそ出来ることだ。けれど私が口を出すような事ではない。二人のやり取りを見ながら、次に向かう場所は想像どおりだったと、足を進めた。





目の前には正に雑魚キャラですと言わんばかりの男達が広がっていた。敦君は私の背中に隠れ震えている。そんな私は賢治君の隣に立ち、にこにこしながら彼のする事を見るだけだ。


「皆さんが爆弾を作って車を高跳びさせたんですか?」


賢治君はとても真剣だけれど、相手の男達は賢治君が子どもだからと馬鹿にしているらしい。まあ、確かに成人していない男の子二人に、女一人。彼らからすればまさに恰好の獲物だ。すると賢治君はドレッドヘアの男性の鎖を持ち「良い鎖ですね。牛を牽引する為に持ち歩いてるんですね?」と言った。残念ながら違うようだけど。

すると目の前の男のうちの一人が「何が狙いだ」と言った。すると賢治君は礼儀正しく「皆さんが犯人かどうか教えてもらいたいんですよ」と答えた。うん、賢治君のこういう素直な所が大好きだ。捻くれを拗らせてる太宰も少し見習うべきだ。

しかし男達はくすくすと笑い、知らないと言う。普通なら犯人がすぐ分かるけれど純粋無垢な賢治君は「そうですか!それは失礼しました」と恐ろしいほど礼儀正しかった。そこからは早く、賢治君はさっさと建物から出る。私も「お邪魔しました」と頭を下げ、賢治君に着いていき、その後を慌てて敦君がやって来た。


「どう考えても嘘でしょ!あいつらが犯人だよ!」


敦君が声を荒げた。けれどそれに対し賢治君が「素直に気持ちを話せば通じ合えるものです」とまるで聖母のように穏やかに言った。そしてまた敦君は「それもそうだね!」と花を撒き散らしながら答えた。そんな二人を見ながら私達を睨みつける視線を無視し、その場を立ち去った。





ぐぅ、と賢治君のお腹が鳴る。大体、仕事が終わる頃はこんな感じだ。「今日は頑張ったし、牛丼食べに行こっか」二人にそう言うと賢治君はパァと花を咲かせたような笑顔を見せる。うん、可愛い。


「賢治君、牛飼ってたんでしょ?食べられるの?」
「牛は大好きですよ。飼うのも触れ合うのも食べるのも」


三、二、一。一人心の中でカウントダウンをする。すると私達は車に囲まれ、その中からぞろぞろわらわらと先程の人達が降りてきた。ここ迄想像通りに物事が進むと嬉しくて仕方ない。ニヤニヤしながら下品な笑みを見せつける男達は、格好つけたような台詞を言うが賢治君にはそんなの不必要である。


「そうでしたか!本当の事を正直に話す為にご足労頂くなんて…嬉しいです!」


魂が抜けたような阿呆面を晒す男達。その気持ちは良く分かる。「僕の担当した事件では皆さんそうやって素直に告白して頂けるんですよ!」嬉しそうに言った賢治君に対し敦君が返事をした所で、賢治君は背中から殴られ、アスファルトに打ち付けられた。


「まず、一人」


私達の周りは隙間のないほどに囲まれていた。「上玉の女は生け捕りだ!」誰かの叫び声に「っ、苗字さん!」敦君が慌てたように私の名前を呼んだ。にっこりと笑い敦君を見る。「大丈夫だよ」そう言った瞬間、男達が一斉に襲いかかろうとした。


「あいたた…」


その声に男達の動きが止まる。賢治君はのっそりと立ち上がり「気にしないで下さい」と笑顔を見せた。場に変な空気が流れているのも知らず、賢治君は田舎の牛について語りながら意図も簡単に車を持ち上げた。

私は慌てて固まっている敦君の手を取り、電信柱の後ろに隠れさせる。ここからは賢治君の一人舞台だ。今日もやる事なかったなあ。そろそろ賢治君も独り立ちだなあ。そんな事を考えながら、次々に男達を倒していく賢治君を見守った。


「いやー、賢治君凄いよね」


私がそう言うと敦君は半べそをかきながら何処かに電話をしていた。すると「国木田さん!僕には無理です、あんな遣り方!」怯えるように、縋るように電話したのは国木田君だった。大丈夫、私も無理だから。


「さあ、皆さんの親切心で事件も解決したし牛丼食べに行こっか。もちろん、私の奢り!」
「わーい!さすが名前さんです!」


プルプル震える敦君の肩に手を回し「敦君も頑張ってね」と言えば、潤んだ大きな瞳がゆっくりと私を映した。「…はい」そう答えた声は震えていた。


2018/04/27