未完成の3


 日曜日、私は仕事で此処から五キロほど離れた都市部に行く必要があった。
 日帰りが出来ない事も無かったが、仕事が立て込んでしまった場合はあちらで泊まる必要があった。
私は大丈夫なのだが、問題は鷹だ。
近所に預ける事が出来れば良かったのだが、その近所となる家が近くに無い。
ペットOKなホテルがあればいいのだが。
文鳥やインコ位の小型の鳥類ならば普通のホテルでも大丈夫だろうが、鷹の様な大型となると難しいだろう。
パソコンで少しばかり調べてみる。
肝心のペットOKなホテルは見つからなかったものの、ペット専用のホテルは見つかった。
預かっている鷹をKに断わりもせずに預けるのは気が引けたが、他のいい案も見つからないので、電話を掛けて予約を取り、そこに預ける事にした。
リュックサックに仕事に関する書類やモバイルPCを詰め込んで背に背負い、篭に布を掛ける。あまり鷹を公衆の面前に晒したくはなかった。
篭を両腕で抱えるように持ち上げる。少し重たかったが、持ち運べ無いほどではない。
一時間に2,3本程しか出ていないバスに間に合うように家を出る。
思えば私が鷹と一緒に外出するのはこれが初めてであった。
バス停で五分ほど待つとバスが来た。
念の為運転手に鷹を乗せてもいいですか、と訪ねる。運転手は少し笑いながら、鳥篭に入っているなら問題ないですよ、と答えた。
二人席の窓側に鳥篭を置き、私はその隣、つまり通路に面した席に座る。
運転手を除きバスには人が5人乗っていた。そのうち三人は家族のようで夫婦らしき男女と小学一年生位の女の子が一番後ろの座席に仲良く座っていた。
人が沢山乗っている状況ならば三人で五人席に座るのは好ましくは無い事だろうが(もちろん二人席に一人と一羽で座っている私もだが)、まあこんな席が空いている状態ならば誰も文句は言うまい。
気付くとコツコツと篭を叩く音がしていた。篭に掛かっている布のせいで聞えにくく、私が気付くのに少しばかり時間が掛かった。
私が布を取ると鷹はやっと気付いてくれたと謂うように目を瞬いた。
どうしたの、と訪ねてみる。当然鷹が答える筈はなかった。
その代りと言ってはなんだが鷹は私から目線を外し、首だけを器用に回し、窓の方を向いた。
外の景色を見たいのか、と聞くと、鷹は首を縦に振るような動作をした。人の言葉が分かるのだろうか。
篭を180度回転させ鷹の正面に窓があるようにする。
バスは法定速度を守って走っているらしく、ゆっくりと進んでいく。従って窓から見える景色もゆっくりと後ろに流れていく。
外の景色は畑や田んぼ、奥に山が見えるだけだった。私にとっては見慣れた光景だ。
だけど鷹にとってはそれがいいのだろう、首をせわしなく振って流れていく景色を追っていた。
鷹は景色に夢中なのでそのままにし、私は鞄から資料を取り出し読んでいると、
それなあに、と横から声を掛けられた。資料から顔を上げ横を向くと。女の子が立っていた。
一番後ろの座席に座っていた家族の娘だろう。
それ、とは恐らく鷹の事をいっているのだろうか。
これ?、と私は相変わらず景色を見ている鷹を指差し訪ねる。
うん、と少女は答えた。
私は鳥篭を自分の膝の上に置き、女の子に良く見えるようにした。
鳥さん?、と少女は聞いて来た。
そうだよ、と私は答える。この鳥はね、鷹って言う種類なんだよ、と説明する。
そういえば私も詳しい種類は知らないな、とふと思った。今度調べてみよう。
たかさんってかっこいいね、と女の子は言う。そうだね、と相槌をうつ。
触ってみてもいい?、と聞かれる。
え、と戸惑う。
私は一向に構わなかった。鷹も撫でられるのは嫌いでは無い筈なので他人に撫でられても怒りはしないだろう。
が、万が一と言う事もある。もし怪我をさせてしまったら彼女の両親に何といえば良いのか分からない。
この子はデリケートだから知らない人が触るとビックリして暴れだしちゃうの、だから触る事は出来ないんだ、ごめんね、と丁寧に断る。
わかった、と彼女は納得した様だった。じゃあもう少し見ててもいい?、と聞く。
いいよ、飽きるまで見てて良いよ、と答える。
彼女が座って見れるように篭を膝に載せたまま私は窓際に移動する。
鷹は私をじっと睦めている。なんだか怒っている様であった。デリケートと言われたのが気に触ったのだろうか。
窓の外からは自然が消え、代わりに無機質な建物が立ち並んでいる。終点に近づいて来ているのだろう。
今日は家に帰る途中?と彼女に尋ねてみる。
うん、そうだよ、と彼女は鷹から目を逸らさずに答える。
お祖母ちゃんちでお泊りして帰って来たの、とも答えた。
ふと気になって後部座席を見る。女の子の両親は寝て居る様であった。疲れているのだろうか。
 一方、鷹は首を傾げ目を瞬かせながら彼女と見つめ合っていた。少しすると首を180度回転させ私の方を向いた。
その鷹の行動に女の子はわあ、と驚いた。どうやら首が180回転するのが不思議だったらしい。
鷹はその声に反応して再び女の子の方を向いた。
たかさん、もっかいやって、と彼女は鷹に言う。
 しかし、鷹は首を傾げるだけだった。何の事だか分からないのだろう。
女の子は子供特有の純粋な眼差しで鷹を見つめる。
そんな目で見られたら大人である私は目を背けてしまう事だろう。
鷹も私と同じらしく、視線の逃げ場を求め再び私の方を向いた。
すごいすごい、と女の子は喜んだ。
 と、そこでバスが止まり、アナウンスが終点に到着した事を知らせる。
後ろで目覚めた女の子両親は娘が居ない事に気付き、辺りを見回していた。
それを見て私は女の子に声を掛ける。お母さん達が心配しているから戻った方が良いんじゃないかな、と。
うん、と女の子は素直にうなずき後部座席へ駆けて行った。
リュックを背負い篭を持ちバスを降りようとする。すると後ろから声をかけられた。振り向くと女の子の母親が立っていた。
 すみません内の子が迷惑掛けまして、と申し訳無さそうに謝って来た。
 いえいえ別に大丈夫ですよ、とありきたりな言葉を返す。
実際、迷惑ではなかった。子供は嫌いか好きかで言えば好きなほうであったし、話し掛けられた時、少し退屈だったのだ(資料を読んではいたが、それは暇つぶし程度に過ぎなかった)。
何かお詫びに喫茶店でも、と母親が提案してきた。
そんな大げさなと私は思う。
いえ、結構です、と断わる。
そこまでして貰うつもりは無かったし、なにより鷹を必要以上に他人の視線に晒したくは無かった。
運転手が催促するように終点ですと再度アナウンスをした。
では、私は急いでいますので、と私はバスの昇降口に向かった。
降りる時に母親の後ろで女の子がバイバイと手を振っている。それに軽く手を振り返し、私バスをあとにした。
          2

 Kが告白した日から三日後、私は彼の家でテレビゲームをして遊んでいた。
私が遊ぼうと誘ったの訳ではなく、彼の方から遊ぼうと誘ってきたのだ。
最初はKの事について私に相談する為の口実なのかと思っていたのだが、彼の家に行くと、そんな様子を見せようとせず、いつも通りに彼は振る舞っていた。
だが、言いたい事を隠している事も又、事実だった。少し、ほんの少しだが何時もより動作がぎこちない。
まあそれが分かった所で何にもならないのだが。私からKの事を言い出す訳にもいかない。
そんな訳で、私は彼と一緒にテレビに向かっていた。二人ともゲームはどちらかと問われれば好きと答える方ではあるが、毎日欠かさずするというほど好きではなく、時間が空いたらやろうかなと頭の隅で考える程度であった。
1ステージが終わりひと段落着くと、「このまま続ける?」と彼が聞いて来た。どちらでもいいよ、と答える。じゃあもう少しだけ続けるか、と彼は言う。
そのまま二人で2ステージを攻略していると、彼が何気ない様子で話しかけてくる。
なあ、いま君が使っているキャラクター気に入っているか?と訪ねてくる。
うん、使いやすくて好きだよ、と答える。
じゃあさ、もしそのキャラが告白してきたらどうする?
え、と私は戸惑う。このゲームにそんな要素は無いはずだ。
その事を彼に伝えると、彼は薄く笑いながら、そういう意味じゃないんだが、と言う。そして少しの間沈黙し、再び訪ねて来た。
もし、というかこんな事はありえないんだけど、そのキャラが現実に存在して、君に告白して来たらどうする?、と。
 うーん、と私は少しの間考える。画面の中に映されている自分のキャラを見つめる。
答は出なかった。分からない、と答える。
そうだよな、分からないよな、と同意するように彼も言う。
ほぼ同じタイミングで二人のキャラが倒れ、画面には「GAME OVER」の文字が表示される。その下にはドット絵で描かれた二つの棺桶と幽霊にデフォルメされた二人のキャラが表示された。
分かる訳が無い。最新のアニメの様な物や現実よりリアルなゲームなら答えようもあるが、ドット絵で描かれたキャラでは答えようが無い。
止めるか、と彼が言う。そのゲームに未練も無かったので私はそれに従う。
時計を見ると丁度正午を過ぎた所であった。
彼は昼飯を作って来ると言って、下の階の台所へ降りて行った。
私はそのまま彼の部屋で床に寝転がる。
何を考えるでも無く、何かをする訳でも無く、天井を見つめていた。
10分程そうしていたが、やがて私の頭の隅で暇だー、という思いが創られ始めた。その思いが




余裕を持って家を出ていたので鷹をペットホテルに預けるにはまだ時間があった。約一時間程だ。
なのでペットホテルの方向へ向かいつつ、少し寄り道をする事にした。

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