Kが私に鷹を預けてから一週間が経とうとしていた。
あの日からKからの連絡は無かった。
私は結局鷹を預かる事になってしまっていた。
鷹は静かであった。未だに私の前では鳴くところを見せていなかった。性格も大人しく暴れ出す事も無かった。Kの言っていた少し悪戯好きと言うのは本当らしく、私が餌を受け皿に素手で乗っけようとすると痛くない程度に軽く突っついてくる。
最初の頃は驚いて手を引っ込めてしまった。その時限って鷹は私から目をそらす。
その事にも段々慣れて、突かれても手を引っ込め無くなった。そんな時鷹は不思議そうに首を傾げていた。
ある時指を籠の隙間からそっと差し込んでみた。するとまたもや鷹は首を傾げ指を軽く突いてきた。その嘴をそっと指の腹で撫でて見る。
驚いて首を引っ込めるかと思っていたが、意外な事に軽く目を瞑り、なすがままにされていた。気持ち良いのだろうか。
今度は頭を撫でてみた。初めは少し硬い感触だったが、それでいて滑らかで柔らかかった。ゼリーと言うよりも寒天、そんな感じだった。頭を撫でている時も鷹は動かなかったが、しばらくすると、目を開け、首をゆっくりと引っ込めた。今日はこれだけと言う様であった。
そうして鷹を見ている内にふと彼のことを思い出した。
昔私の生まれ故郷に彼はいた。
幼稚園の頃に互いを知り小中学校と一緒で高校生の時に別れたが、その後も何か行事があるたびに顔を合わせていた。
何故かと言うと私の母親と彼の父親が古くからの親友でよく一緒に出かけていた。それは世間の目から見てに不倫と言うのだが、二人はそういう関係ではないことを証明する為に、私たちを一緒に連れて行った。(実のところ互いに恋愛感情は抱いていなかったらしい。この時代に珍しい事である)
まあそんな感じで私と彼は昔からの馴染みであった。
彼はそんなに喋る人ではなかった。ただ人に慕われやすいタイプでいつも彼の周りには人がいた。つまり人気者と言うわけだ。
私は彼ほどでもなかったが人気はそこそこある方だった。
そんな二人が一緒にいると小学校はともかく中学校はよくカップルとはやしたてられたりもした。
そんな時、私はむきになって怒っていたが、彼は全く動じず、理路平然としていた。私はそんな彼に憧れもした。
実際、私と彼はお互いに相手のことを親友と思っていたが、恋人同士になる事はついぞ無かった。
互いを異性として意識した時もあったが、告白などの行動を起こすまでには至らなかった。
まあ、彼が告白してきたら受け入れてもいいかな、とそんな風には考えていた。どうやら彼の方も同じような事を考えていた節があった。
つまり、どちらかが一時の感情に流されていれば私と彼は結婚していたかも知れなかった。
まあ、結婚せずとも彼とは家族のような関係であったが。いわば血の繋がっていない兄妹という感じの関係だった。
実際に二人きりでいる時は、彼の事を「兄」と呼んでみる時もあった。彼もその時は何故だか私のことを「姉」と呼んだ。私は彼の妹でも全然構わないと考えていたが、彼も私の弟で構わないと考えていたのだろうか。
彼は他の人に対しては分らないが私に対してとても優しかった。私が落ち込んだ時には大抵側にいた。彼なりの気遣いなのか、慰めの言葉をかける事はせず、静かに私の隣に座っていた。でもそれだけで私は落ち着く事が出来たし、落ち着いた時に彼に愚痴をこぼす事も出来た。彼はそんな私の愚痴を一通り聞き、私が話す事が無くなると、彼は決まって何か暖かい飲み物を持ってきてくれた。
そんな感じで大学まではよく一緒にいたのだが、どういう訳か、社会人になってからは殆ど会う事も無くなった。それでも双方の予定が空いた時には食事等を共にしたりもしたが、以前と比べ会う回数は眼に余るほど減っていた。
お互いに仕事が忙しかったと言うのもあったが、その他にもっと違う何か他の理由がある様だった。それが何かは良く分らなかったが、お互いがずっと一緒に過ごしすぎてしまったのでその反動で会わなくなったのかもしれない。
私は彼に恋人が出来ていたら女である私はその彼と恋人との関係を邪魔してしまうかも知れない、と考えていてそんなくだらない危惧を理由に私から連絡をする事は滅多に無かった。
そうこうしている内に私は仕事で故郷から離れる事になってしまった。
彼に一応手紙を送っときはしたが、詳しい住所等は伝えずにおいた。住所を伝えても故郷とは随分離れているので意味はないし、そんなに長く故郷を離れるつもりも無かった。
とは言っても故郷を離れて2年ほど経ってしまったが。
そんな訳で彼とは長い間会っていない。
彼を忘れた訳では無いのだが、こちらに来て仕事に追われている内に、彼の事は段々と頭の隅に追いやられてしまっていた。
が、Kから押し付けられた鷹と過ごしているうちに、自然と記憶から彼の事が蘇って来た。
この鷹の動作がKと似ているのだろうか。
記憶と照らし合わせて見ると確かに似ている部分はあるようだった。でも、ただそれだけでは無い様に感じた。
匂いが似ているのだろうか。いや違う、鷹と人間の匂いなんて似てる筈はない。
上手く言い表すことが出来ないのだが、周りを取り巻く空気が似ていると言えばいいのだろうか。
露骨に表現することは無かったが、鷹は外に出たがっている様に見受けられた。
雲が殆ど無く、太陽が空で幅を利かせているような天気の時には、私はカーテンを開け、太陽の陽射しをリビングに受け入れることにしていた。そんな時、鷹は首だけを動かし、窓から見える外の景色を眺めていた。始めは外の景色が珍しいのだと思った。なので鳥篭を動かし、鷹が良く見えるように窓に近づけてあげた。いつか飽きるだろうと思っていたが、いっこうに飽きる気配を見せず、餌の時間になっても外を見つめてい事も度々あった。
外の空気に触れたいのかなとも思い、窓を開け、日陰の中に入るように、庭に鳥篭を出してみた。
すると鷹は眼の前の風景というよりも、空を見上げている様子であった。時にはそのまま籠のなかで翼を広げたりもした。
やはり鳥類だから、空を自由に飛ぶ事が好きなのだろう。地面に這いつくばり、狭い檻の中で人間の見世物になって寿命まで生き永らえるより、たとえ餓死や同族と縄張り争いで死ぬ可能性があったとしても、森の中で自由に飛び回りたいのだろう。
私はそんな鷹の考えを少し羨ましいと感じた。
本能だけで動くことが出来るその考えを。
人間は本能で動く事が中々出来ない。何をするにも損得勘定の計算をし、時には自分が正しいと思った事でさえも実行する事が出来ないでいる。だから、鷹の損得無しで直ぐに動ける感情を私も欲しいと思った。
2
再びKからの手紙を見返す。Kの性格から考えると色々とおかしい文章ではあるが、筆跡は明らかにKの物であった。
Kには鷹を預かってもらう事以外に他の思惑がある様に感じられた。
私に何か言いたい事でもあったのだろうか。
私は記憶の奥からKを思い出す。
Kは性格からいうと女という性別からは遠くかけ離れた人であった。
その代りと言うのもおかしいが容姿の方は女の私から見てもとても美しかった。
どこかの歩行者天国を歩いたとすれば十mおきに声を掛けられる程だった。
実際に学校では彼女の性格を良く知らない異性からは頻繁に告白されていた。
唯彼女の方は全然その気が無い様でそれを全て断っていた。ただ時に断られても諦め切れないらしく、しつこくアタックを掛けてくる異性も多数あった。
そんな奴らに彼女は彼女なりのやり方、つまり暴力で返していた。それも気の強い女性がやる頬に平手打ちなんて生易しい物ではない。鳩尾に容赦なく拳を叩き込んだり、顎に底掌を叩き込んだりしていた。
女性だからそんなに痛く無さそうと普通は思うだろう。しかし、彼女は性格もそうだが、筋力も女の物では無く、男でもその一撃を喰らって立っている事が出来るの物はいなかった。大抵の異性ならばそれで絶対に諦める筈なのだが、稀に仕返しをして来た者がいた。
ある時、Kと二人で家への帰路についていた時であった。公園のベンチで一休みしていた突然5人程の男に囲まれた。その中の一人はKに振られ、サマーソルトを顎に叩きこまれた男であった。その現場を偶然見ていたから私も顔は偶然覚えていた。女にやられた事に男としてのプライドが許せないのか仕返しに来た様だった。そもそも一人の女性に対して五人で来るなんてプライドも何もあった物では無かったが。
その男なりに質の暴力で負けてしまったから、数の暴力で返そうと考えたのだろう。まあそれは世間で卑怯というのだが。
そんな訳でKと四人は喧嘩をすることになった。ちなみに私は五人の内の一人に身柄を拘束されてしまった。ただそれ以上何をされる訳でもなくこの喧嘩が終わったら開放してくれると言われたが。体のいい人質と言う訳だ。
彼女は私が人質にされているのに全く気にするどころか、寧ろこの状況を楽しんでいるようであった。その時Kはこう思っていたらしい。お前のお陰で全員を倒す理由が出来た、と。まあ私の安否を気にするKなぞ考えられなかったが。
流石のKでもこの人数相手では無理だな、と私は考えていたのだが、その予想は裏切られた。
突然4人に飛び掛ると、その内の一人の鳩尾に跳び膝蹴りを入れた。綺麗に決まり喰らった人は前のめりに倒れた。可哀相にと少し思った。
一人を倒され慌てた三人はKを取り囲むように位置取りをした。Kは嫌そうな顔をしていた。 後からKに教えて貰った話だが、1対多人数だと相手は纏まっていた方が戦いやすいらしい。一斉に掛かって来たとしても互いが邪魔をする上に相手全員が自分の視界に入るので御し易く、逆に囲まれると少なくとも背後の一人は見えないし、互いに邪魔をする事が無いので纏まっている時と比べ2、3倍は不利らしい。と、言われてもそんな経験をした事無い私には良く分から。
確かに囲まれたKは戦い辛そうであった。だが負けそうな雰囲気は見えなかった。相手の攻撃を上手く受け流し、反撃していた。唯、入れ替わり立ち代わり襲ってくるので有効な一撃を相手に入れられずにいた。
私ともう一人はベンチに座って、その様子を息を呑んで見ていた。
私は拘束された、とは言ったが単に腕を捕まれただけでそれ以外何もされなかった。
公園のトイレにでも連れ込まれて何かいやらしい事でもされるのではないかと少し恐怖を感じていたが、そんな気配は全く無かった。
それどころか私を拘束した相手自ら名乗ってきた。名を中村といった。私も名乗られっ放しは相手に失礼と思い自分の名前を名乗った。
中村は私を拘束する為だけに連れて来られたらしく本人が言うには昼飯を奢って貰う代わりにこの頼みを引き受けたそうだ。それ以上の事は頼まれて無いし、別に逃げ出さない様に見張ってるだけで良いと言われたのでこうして腕を掴んでいるらしかった。試しに私も昼飯を奢ってあげると言ったら腕を簡単に離してくれた。その代り逃げ出さないで欲しいと頼まれた。もとより中村が居なくとも私は逃げ出すつもりは無かった。そもそもこの公園は人通りが少ない訳でもなく少し走れば交番があった。
囲まれたとき交番に助けを求めようかと思ったのだが、Kが絶対に嫌がると思い止めておいた。もし本当に危ないと思ったら行くつもりではあったが。
そんな訳で二人で観戦していた。私は最初からだがいつの間にか中村もKを応援していた。
そうしている内にKが二人を一気に倒した。上手く二人の攻撃を相打ちにさせて、そのままノックアウトした様だった。勝負はこのままKが押し切ってしまうかに思えた。
と、一人残った男が懐から何か金属製の物を取り出した。
まずいな、と中村が呟いた。喧嘩に疎い私もこれは危険だと感じた。
恐らく刃物だろう。あれで刺されたら流石のKも無事では済まないだろう。刺された場所によっては死ぬと言う事もあり得る。
誰か人を呼んで来てくれ、と私は頼まれた。多分あいつは止まらないし、俺一人では止められないから、と言って二人の方に駆け出して行った。
私は直ぐにベンチから立ち上がり公園の外に向かった。交番に助けを求めよう、Kは嫌がるけど仕方ない。
道路に飛び出す。すると突然横から人が出てきて私はぶつかってしまった。直ぐに謝り急いでいるのでと再び走ろうとしたら腕を掴まれた。
顔を見ると彼であった。何故こんな所に居るのかと疑問に思ったが、そんな事よりKが危険ので直ぐに彼に助けて欲しいと頼んだ。
彼は喧嘩を少し前から見ていたらしく直ぐに事情を理解した。
二人で公園に戻ると中村が倒されていた。止めに入ったはいいものの二人の間を割るように入ってしまった為、Kに敵と勘違いされて倒されたらしい。
Kは正面から男と向き合っていた。そのままお互いに様子を窺い、踏み込む隙を探している様であった。
彼は私から離れるとKに見えるようにゆっくりと男の背後に移動した。
と、その時男が飛び出しKの顔を狙ってナイフを突き出した。
首を少し曲げそれを軽くかわすと、腹に蹴りを入れた。決まったかに見えたが男は後ろによろめきながら何とか耐えた。鳩尾に入らなかったらしい。Kは追撃しようとしたが、男がナイフを振り回したので踏み込む事が出来なかった。
膝を着いている男に後ろから彼が近づき素早くナイフを取り上げる。
驚いた男は彼の方を向き、ナイフを取り返そうとした。彼はそれをKの手前に放り投げた。男は慌ててそれを拾いに行く。その判断が命取りであった。ナイフを拾い上げた瞬間、Kの膝蹴りが顔面を直撃した。
男は5m程吹っ飛びそのまま動かなくなった。
Kは彼の方を向くと、飛び掛かった。彼は横に転がって避ける。
そういえば彼とKは顔をあわせた事が無かった。Kが増援と勘違いして仕舞うのも仕方ないと言えば仕方ないのかもしれない。
Kは再び彼に攻撃を加えようとする。慌てた私はKに飛びついてそれを止めた。危なかった。後一秒遅ければ彼も地面をベットに夢を見ていただろう。
Kは邪魔をされて怒っていたが、事情を説明すると納得した。
Kの頬に切り傷が出来て、結構な血が出ていた。さっきの突きを完全にかわし切れなかったらしい。
絆創膏は無いかと鞄を探したが、すぐに見当たらなかった。Kは別にいいと言ったが、さすがに女の子が顔に傷を付けたままではまずい。まあK自身は気にしないだろうが。
更に鞄を漁っていると彼が横から絆創膏を差し出してくれた。いつも持ち歩いているらしい。
傷が隠れるように絆創膏を貼る。少しKは恥ずかしそうだった。
男たちは全員、気絶してはいたが、死んではいなかった。Kはほっとこうと言ったが私と彼はそれはまずいと言ったので、Kも大人しく従った。
中村を揺すって起こした。少し朦朧としていたが、Kが全員倒した事を伝えると、わかった、こいつら連れて帰るからと返事をした。
三人で公園を出る。歩きながらKは彼に私との関係を尋ねた。
彼は親友だと何の迷いも無く答えた。そう答えてくれたのが私は少し嬉しかった。
Kはじっと彼を見つめた。大抵の異性はそれで目を背けるのだが、彼は背けなかった。
それで、もうセックスはしたのかとストレートに訪ねた。
私は慌ててそんな事してないと言う。じゃあキスは、と更に畳み掛けて来た。それもしてない、と彼が言う。
お互いにそういう感情は抱いてないと説明する。Kはさっき彼が親友だと言ったのを聞いていなかったのだろうか。
Kはふーんと納得した風を装っていたがあんまり信じてはいない様であった。
彼は学校から帰る途中に公園で二人を見かけ、声を掛けようとした。がそこに男達が入ってきたので声を掛けるタイミングを失った。助けに行こうと思ったが、何故か二人とも逃げようともせず、それどころかKが戦い始めたのでしばらく様子を伺っていた。まあその後は私と会って男からナイフを取り上げ、Kに襲われたと言う訳だ。
方向が違うのでKと別れ、彼と二人で道を歩く。
彼はKの事を面白い人だなと言った。Kに対して嫌悪感は抱いていないようであった。
私は彼がKに一目惚れするのではないのかと少し考えていた。
試しにKを好きになったのかと訪ねると、まだ会ったばかりなのに分かる訳が無いと返ってきた。そういえば彼は容姿で人を区別はしなかった。だからKに見つめられても目を背けなかったのだろう。
Kの方は彼の事を少し気にいった様であった。Kいわく見つめられて顔を赤らめたり背けたりしなかった男は彼が始めてらしい。
それからも彼とKはたびたび顔を合わせる事があった。
大抵の場合は三人で遊ぶ時だけだったが、稀に予定が立っているのに急な用事で私の予定が合わず行けない時には彼とKで遊ぶときもあった。
そうしている内に恐らく、いや多分Kは彼の事を好きになっていた。
何故好きになったのか、理由は良く分らない。
まあ理由なんて物はどうでもいいのだろう。
カッコ良いからとか、優しいからとかそんなものは後で幾らでも付けられる。
気付いたら何となく好きになっていた。それだけで恋愛は成立するのだ。
やがてKは私に打ち明けて来た。彼を好きになってしまってしまった、どうしよう、と。
3桁近い告白を受けたが全て断ったKには恋愛経験が全く無かった。
実はKが毎回告白を断っていた理由はもしOKしたとしてもどういう風に相手に接したらいいか判らない、と言うのが本音だったらしい。まあ、恋愛に興味が無いと言うのもあったらしいが。
とは言っても私の方も恋愛経験は無かったが。
Kは私の事が気になる様だった。彼を好きになることは私を裏切る事になるのではないのかと。どうやら彼と私の関係をまだ勘違いしている様だった。
私はあらためてKに説明した。私と彼は幼馴染だけど、そういう恋愛関係では無い、むしろお互いに家族でいう兄妹のような関係で、もしKと彼が付き合う事になったとしてもその関係はそれが原因で崩れる事は無い、と。
それを聞いたKは少し安心したようであった。
私は彼の家に遊びに行った時彼にKの事をどう思っているのかそれとなく訪ねてみた。
彼はいい人だねと答える。自分より男らしくて少し乱暴だけど、心の奥の深いところでは優しい、と。
もしも告白されたらどうする?と訪ねてみる。え、Kには彼氏がいるんじゃないのかと返事が返ってきた。まあ、普通はそう思うだろう。寧ろあの容姿で恋人がいないと思う方がおかしいのかもしれない。そんなものいないよ、と答える。
彼は少し考えた。まあ断る理由も無いし、OKするかも知れない、と答えた。
でも、それで私とKの関係が崩れるのなら断るよ、とも言った。
彼は私との関係については何もいわなかった。絶対に崩れない事を知っているのだろう。
私はその答えを聞いてKを後押ししてあげようと考えた。
学校でKと一緒に食事を摂っている時、私から切り出そうと考えていたのだがKの方から持ちかけてきた。
彼に気に入られるにはどうしたらいいのかな、と。
そんな回りくどい事はせずにKらしく素直に自分の気持ちをぶつけてみたらいいんじゃないかな、ほらいつもKが男子にされてるみたいにね、と私は答える。
要するに告白だね、とも言う。
Kはそうしたいけれど、もし断られたらと不安な表情をしていた。
Kにしては珍しく弱気であった。
しばらく一人で考えさせて、とKは私に言った。
確かに私が余計に口をだして良い事ではないようだった。
相談を持ちかけられたら乗ってあげしても良いだろうが、それ以上の事は余りしてはいけない気がした。
ともかくK自身の問題なのだから私はでしゃばらずに置こうと決めた。
次の日、Kが私に決意を固めた表情で私に告げて来た。
私、彼に告白する、と。
私は一週間ぐらい悩むと予想していたのだが、そこはKらしく一日で決断した。
私はうん、としか言えなかった。ああそうなんだじゃ頑張って、と突き放したような言い方はしたくなかったが、逆に彼ならきっとOKしてくれるよと気の利いた事も言いたくは無かった。
私にそれを告げると直ぐに教室を出て行ってしまった。Kの事だから直ぐに告白するつもりなのだろう。が、彼がいるのははこの学校では無く、隣の地区にある学校なのだが。
その事をKは知っていたのだろうか。
やはり知らなかった様で次の授業休みにKは戻ってきた。
そして泣きそうな顔で私に訴えてきた。
彼が居ないよどうしよう、と。どうやら授業中ずっと探していたらしい。
私は彼がこの学校では無く、隣の学校に在籍していると説明した。
なんで私が出て行く前に言ってくれなかったの、とKは怒って私の頬をつねってきた。かなり痛い。実際は私がその事を言う暇も無くにKは教室を出て行ってしまっていたのだが。
まあKに訳を話しても聞く耳を持たないので、素直に謝る。
Kはそれを聞くと手を離した、ほっぺがひりひりと痛む。きっと鏡を見たら赤く腫れている事だろう。
Kは再び悩んだ。どうやって彼に会おうか、と。
確かに同じ学校だったら放課後呼び出したりすることは出来るだろうが、他の学校だとそうもいかない。いつのものKならば堂々と彼の学校に乗り込んでいって他の生徒の目を気にする事無く告白する事位容易にやってのけそうだが。
でも今のKには出来そうも無かった。
私に頼めば彼を呼び出す位の事はしてあげようと思っていた。
だがKは頼んで来なかった。おそらく私と彼の関係を忘れているのだろう。
自分からその事を言い出すのは気が引けた。
だけど時が経ち、Kの気持ちが変わってしまう前に彼に会わしてあげたかった。
そこで私はある事を思いついた。
うまくいくかは分らないが試して見る価値はある。
放課後頃合を見計らい教室で頭を抱えて唸っているKに一緒に帰ろう声を掛けた。
Kと一緒に校門を出て、公園の中を通る。
公園の時計を見る。時計の針は後少しで午後五時を指そうとしていた。
一人、向こうから歩いてくる人影が見える。
私はそれが彼だと分っていた。
以前彼と公園で会った時に(私達がが男に絡まれ、Kが全て撃退した時だ)私は彼にいつもこの時間に帰るのかと訪ねていた。
すると彼はまあ特別な用事が無い限りこの時間に帰っている、と答えた。
なので私は彼とKがこの公園で会うように時間を調節し、Kに告白するタイミングを作って上げようと考えた。
実際それはうまくいった。
が、余分な人物が一人居た。それは私だった。
流石にKも他の人が近くに居ては告白はしづらいだろう。
彼が私達に気付いたのだろう、右手を振って挨拶をしてきた。
Kも気付いた様で少し驚いた表情をした。
そのタイミングを見計らい私は学校に忘れ物をしてしまったので取りに戻るから先に帰ってて、とKにいって退散するつもりであった。
私がそのことを言おうと口を開きかけた瞬間Kが私の方を向いた。
まるで私が仕組んだ事を知った様な、そんな表情だった。
その表情は私に対して怒っている一方で、彼と会えた事を喜んでいる様であった。
Kは策略が嫌いであった。嵌められるのは勿論だが、相手を嵌める事も嫌がった。
そんな事をして相手を潰す位なら正々堂々と戦った方がましと考えている様であった。たとえ負けるような喧嘩でも。
私はその事を知っていた。こんな事をしたらKに殴られる事も。
私はKに勘付かれるよりもっと早く退散すればいいと後悔した。
別に殴られるのは構わないのだが、あまり彼の見ている前で殴られる事はしたくなかった。
私は殴られると思い身構えた。
が、Kは私を殴らなかった。
そのどころか私の手首を掴み、彼の元へ引っ張っていった。手首が痛い。
彼の眼の前に来た。Kはそこで私を離した。
彼は何も言わずその様子を黙って見つめていた。恐らく今Kは告白しようとしている。何故私を連れてきたのか分からないが。
Kは彼の前に立ち、彼の名前を呼んだ。
彼はKの何時に無く真剣な様子に気付きまっすぐKを見る。
これからKが何を言うのか気になっている様であった。
Kは告白した。
私と付き合って下さい、と。
ストレートでシンプルな告白だった。
大抵の異性なら即座にはいと答えるだろう。
だが彼は直ぐには答えず考える素振りを見せた。
少しの間の沈黙。
何故だろう。何時もは聞き流している風の音や鳥の鳴き声が今だけはは良く聴こえる。
時の動きがゆっくりと進んでいるようにも感じた。
彼が口を開く。
直ぐに返事は出来ない、少しの間考えていいか、といった。
Kは分かりました、と何故か敬語で答える。
私はKの背後に居るので表情は見えなかったが、Kはなんだかほっとしているようであった。
じゃあまた、と言ってKは逃げるように公園の出口から出て行ってしまった。
私はKの後を追うべきか迷ったが、彼が一緒に行ってあげなよ、と言ったので、追いかける事にした。
Kは公園の出口の壁に寄りかかっていた。もちろん公園の中からは見えない。
顔は火が出そうなほど真っ赤で、目には涙を浮かべていた。息も荒い。
余程恥ずかしかったらしい。
私は余計な事をしてごめんね、と謝る。
え、とKは何故謝られたのか分からないようだった。
私が彼に会えるよう仕組んだんだ、と真実を話す。
ああ、とKは思い出したようだった。やはり、あの時勘付いていたらしい。
私は今度こそ殴られると思った。目を瞑り身構える。
が、Kは殴らず、有難うと私に言う。
私はその反応に驚いた。え、殴らないの、と言う。
殴って欲しいのか?と逆に訪ねられた。
ううん、そういうわけじゃ無いけど、と答える。
てっきり殴られると思っていたので少し拍子抜けしてしまった。
それより帰らないのと訪ねる。
うん、かえるとKは答えた。
だがその言葉とは裏腹にその場に腰を下ろしてしまった。
どうしたの、と私が訪ねるとあはは、腰が抜けちゃった、とKは疲れきった顔で答えた。
鷹が鳥篭を叩く音で私は我に帰る。
手紙を見返し始めてから随分と時間が経っていた。
周りは既に暗くなっていて、明かりが無いとと鷹の輪郭しか判らない程であった。
部屋のスイッチを押し、蛍光灯の明かりを点ける。
明かりがつくと鷹は少し眩しそうに目を瞬いた。
少し周りをキョロキョロと見回す。私の姿を見つけると再び篭をコツコツと叩く。
鶏肉を冷蔵庫から取り出し、手に乗せる。そしてその手を受け皿の穴から差し込む。
私も随分と鷹に慣れたものだ。
鷹は私の手を突かずにうまく鶏肉だけを咥える。
全て餌を食べ終わった後、嘴で少しだけ手を突く。食べ終わったよという合図のつもりらしい。
何時もはそれで手を引っ込めていたが、今日は引っ込めずしばらく手を入れたままにしてみる。どういう反応を示すだろうか。
鷹は首を傾げた。何故私が手を引っ込め無いのかと疑問に感じている様であった。
しばらく手をジッと見つめていたが、やがて手を突きだした。
力をうまく加減しているようで痛いとは感じ無かった。ただ少しこそばゆい。
最初の方は私の手のあちこちをを突いていたのだが、やがて指の根元の少し下が柔らかい事に気付き、その部分をプニプニと突き始めた。
それがまたこそばゆく、少し心地ちよくも感じた。
暫くの間、鷹は手を突いていた。が、突然何を思ったのか嘴のてっぺんを指先に擦りつけ始めた。
その動作は私に撫でて欲しいとおねだりしている様に見えた。
試しに指先で嘴の裏を撫でて見る。すると以前撫でられた時のように再び目を瞑った。
この穴からは撫で辛かったので扉を開ける。鷹は翼を広げる。だが飛び出す様子はない。
手を差し込む。すると鷹は嘴を上に向ける。首を撫でて欲しいらしい。
首の部分は以前撫でた頭より柔らかく、優しい手触りであった。
撫でると、首が動いて呼吸しているのが分かる。
鷹は気持ち良さそうに目を瞑っている。
そのまましばらく撫でていたが、いつの間にか鷹は眠ってしまっていた。
撫でるのを止めても起きない。
時計を見ると私も寝なければいけない時間に近づいていた。
扉を閉め、布を掛け、部屋の明かりを消した。
筈だった。
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