「…」

この後輩、どうしてくれようか。

…事の発端は約30分前にさかのぼる。


*


「手合わせ願います、先輩」
「ほ?」

後輩くんは2本の竹刀を手にわたしにそう言ってのけた。
いやいやいや。ちょっと待て。

「わたし剣道とかできないんだけど?」
「大丈夫ですよ、先輩なら」
「なにその謎の自信。どこから湧いて出てくるの」
「負けた方が勝った方の言うことを何でもききます」
「人の話聞いてない!しかもルールが理不尽極まりない!」
「では行きます」

いきなり持ちかけられた勝負の行方などとうに知れていた。

「…先輩、本気出してください」
「君はわたしに一体何を求めてるの」
「残念です…。では僕が勝者ということで」

ちょっと嬉しそうなのがむかつくな。

「もう何でもいいよ…。で、わたしは何をすればいいの?」
「…」
「…」
「…膝枕を、してほしいです」

な、なんだってー。


* * *


「三海くん脚ほっそ…女の子みたい」
「昔から筋肉があまりつかなくて…」

しかもわたしがされる側かよ、というツッコミは心にしまった。
後輩くんの名前はここにきてやっと判明した事実である。
三海朝多、それが彼の本名だった。

まあ今しがた述べたように彼の身体は非常に華奢であり、よくそんな体型で先ほどの剣技が披露出来たものだなと感心せざるを得ない。

「先輩、頭を撫でてもいいですか」
「お好きにどうぞ」

目を合わせるのが恥ずかしくて、彼のお腹を見つめたまま返事をする。
三海くんは浅く息を吐くとわたしの髪を梳き始めた。

「ずっとこうして貴女に触れてみたかったんです」

エッ。

「貴女はずっと僕なんかの手の届かないところにいましたから」

…そんな大袈裟な。

「まさかこんなに時間がかかるなんて」

……。

「ねえ、先輩」

…。


「先輩?」

…。

*


「ふふ、寝ちゃったんですか…?ほんと、無防備だなあ」

三海は澪の頬を優しく撫でると、てての名前を呼んだ。

「ぬしさま、お呼びでございますか」
「てて。彼女を安全な所に」
「は…。では、行かれるのですね?」
「うん」
「ご武運を」




「ん…」

畳のにおい。ふわふわする頭をなんとか叱咤して瞼を開ける。

「! もう目が覚めてしまわれたのですかっ」
「…?」

そこに三海くんはもういなくて、かわりにててさんがちょこんと座っていた。起き上がろうとするわたしを見てなぜか慌てている。

「困ります!貴女様にはもう少し眠っていて頂かないと…」
「あの…ててさん、三海くんは?」
「えっと、その。ぬしさまは…」

あからさまに目を泳がせるててさんはどこから見ても幼い少女なのに、わたしの中で何かがそれを漠然と否定していた。

「…っ、お客様にもそれはお話し出来ませぬ。どうか、ご勘弁を」

頭を下げるててさんの背中を見て、違和感の正体が分かってしまった。
今になってやっと、三海くんの「妹じゃない」発言に納得がいった。


「ててさん、それ」

思わず指をさして尋ねたわたしに、ててさんはハッとなって勢いよく顔を上げた。

「宥風様は見えていらっしゃるのですね…」
「え?」
「ぬしさまが心をお許しになった理由が、ようやく分かった気がします」

いまいち見えない話に、わたしは疑問符を浮かべるばかりだ。


「お気付きの通りです、お客様。わたくしめは半妖───九尾と人間の混血に御座います」