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「さようならー」

授業も終わり、部活動のある人たちは慌ただしく教室を出て行った。

私は今朝、なでしこ様(クラスメイトがそう呼んでいた)に教室で待っていろといわれたので、大人しく座って待っている。
部活動に参加していない人たちも次々と帰り始め、帰りの挨拶が終わってから既に15分が経っていた。遅い、遅すぎる。

『なまえちゃん、迎えの人本当に来るの?』
「わかんない…でも学校を守るガーディアンの人が嘘をつくはずがないよね」
『暇だからしりとりしようよ!』
「周りの人には私が独り言を言っているようにしか聞こえないんだよね、嫌だ」

ケチー、とつぶやきながら私の元を離れて教室をぐるぐると回るリッツを横目に迎えの人を待つ。
遅すぎる、もう私自身で探しに行ってしまおうか。
しかし私は方向音痴なのか前科があるので、知らない場所でうろうろするわけにはいかないのだ。校舎内に残っている生徒が居れば案内してもらえるかもしれないけれど。

目の前で行ったり来たりしているリッツがいい加減鬱陶しかったので怒鳴ろうとしたら教室のドアが勢いよく開いた。顔を出したのは男の子。

「わりー、遅れた!お前がみょうじなまえ?」
「そうです。お待ちしていました」
「じゃあ行くかー!」

爽やかな笑顔で手招きをし、ゆっくり歩き出した男の子は青いケープを羽織っている。ガーディアンの人だ。カバンを掴んで急いで男の子を追いかける。
茶髪でサラサラの髪をなびかせて歩く男の子はなにかスポーツをやっているようで、少し汗と土と太陽の匂いがした。
ちらりと視界に入ったのは緑色のピアス。きれいだと思っていると男の子がくるりとこちらを振り向いた。

「そうだ、俺5年の相馬空海な」
「あーみょうじなまえです」
「ははっ、知ってるっての!」

どうやら彼は相馬先輩というらしい。年は私の一つ上で先輩だ。
彼が笑うたびに緑のピアスがキラリと光って目を奪われる。
器用にこちらを向いて後ろ向きに歩きながら相馬先輩はまた私に質問を投げかけた。

「みょうじって転校してきたばっかだよな?」
「はい」
「最初はロイヤルガーデン見て驚くと思うけど多分慣れっから!」

大丈夫、とニカッと笑顔で言った彼の言葉の意味がよくわからない。つまりロイヤルガーデンは初めて見る人にはとても驚くほどの何かなのだろう。

いつのまにか頭の上に座っていたリッツが楽しみー!と叫んでいてうるさかったのでデコピンをして黙らせた。
さらに何故か私を見ていた相馬先輩はプッ、と吹き出した。そりゃそうだ、一人で頭にデコピンとか普通の人はやらないよね、恥ずかしい。
吹き出したのがいつの間にか爆笑になっている彼を小さく睨むと、目に少し涙をためてもう一度吹き出した。初対面なのに失礼すぎる。

いつの間にか外に出ていて、朝と同様に運動場を走り回る運動部の声が聞こえた。どうやらロイヤルガーデンは外にあるらしい。ガーデンと聞いていたから外だろうと踏んではいたけど。
春に近い冬だけどまだ少し肌寒い。通り抜けた風が寒くて思わずくしゃみが出た。スカートだと膝が寒い。
腕を擦っていると、相馬先輩が大丈夫か?と顔を覗き込んできた。

「大丈夫です」
「そうか?もうちょっとの辛抱だからなー」

そういって相馬先輩はぐしゃぐしゃと私の頭を撫でた。なんだか子ども扱いされているみたいだ。


相馬先輩の言った通り、それから数分もしないうちに大きくて透明な建物が現れる。

「じゃーん、ここがロイヤルガーデン!」
「きれい…」

小さなお城のようで思わず見惚れてしまった。太陽の光がロイヤルガーデンを照らしてキラキラと輝いている。リッツも口を開けたまま固まっていた。
相馬先輩が開けたドアを少し覗くと、中は色とりどりのバラやたくさんの花が咲き乱れていた。
噴水のようなものや、そこから水が流れるよう水路もある。木も立っていて一言で言うと“豪華”だ。

一歩ずつ前へ進んでロイヤルガーデンの中へ入る。暖房が効いているのか、外より暖かかった。
周りを見渡すと、奥に丸い机を中心にキラキラした3人を見つけた。目が合うとニコリと微笑まれる。
あまりの豪華さに目を丸くしてると、隣にいた相馬先輩がハハッと笑った。
彼の方へ顔を向けると、太陽のような暖かい安心する表情でニッと笑った。

「ようこそ、ロイヤルガーデンへ!」


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