泡沫

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2.

「痛い…」

 目に入った駅名が信じられず、ひっそりと自分の腕をつねってみると痛みが走った。

(夢…ではない?)

 痛みを感じるということは夢ではなく現実なのだろうか。よくある夢小説のように、トリップした…?いや、そんなことってあるのだろうか。

「すみません」
「あ、ごめんなさい…」

 思考の渦に飲み込まれそうになったが、人とぶつかったことにより引き戻される。
 ここは駅のホームだ。ぼーっと突っ立ってては邪魔になるし危ない。なにより情報がほしい。
そう考えたなまえはまず駅から出ることにした。

 携帯のアプリに入れているICカードは当たり前のように自動改札機ではじかれたので、切符を無くしたことにして現金で精算してもらい駅を出る。
 当然のように駅前の景色にも見覚えはない。
 スマホで地図を表示させようとするも、圏外の表示…仕方がないので近くのネットカフェで個室を借りまずはざっと目ぼしい情報を拾って行く。


(眠りの小五郎も、高校生探偵もいない…?)


 予想はしていたが、名探偵コナンと検索してもヒットする結果はなかった。
 ならば…と毛利小五郎や工藤新一の事件の記事を探そうとするも、出てくるのはパッとしない情報ばかり。
 毛利小五郎の探偵事務所は出てくるが、眠りの小五郎というキーワードは出てこない。
 工藤新一と検索すれば、"もしかして:工藤優作"と本を勧められる始末。ちなみに通販サイトには闇の男爵シリーズが出てきた。

 ならば、と検索した観覧車の爆破事件やマンションの爆破事件。しかしそれらにヒットする記事も見つけられなかった。


(原作よりも前の世界…?)


 名探偵コナンは小さい頃から好きで映画も毎年見ていたが、細かい時系列を覚えているのは警察学校組と呼ばれる5人組が関わった事件くらいだ。
 その事件の記事がないのであれば、まだ事件が起きてないと考えるのが妥当か。

 警視庁のデータベースにアクセスして、在籍者名簿を確認できればだいたいの時期は掴めるがこのセキュリティの低いネットカフェからアクセスしたのじゃあ足がつく可能性が高い。
 トリップ早々犯罪者として捕まりたくはないし、捕まったら身分について言い訳ができず下手したら精神病院送りだ。


(まずは生活の基盤をなんとかしないと…)


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 近隣のお店やホテルをチェックし、自分の持ち物を確認したなまえはまず家電量販店に来ていた。このインターネット社会でスマホが使えないのは困るので、プリペイドSIMと充電器を購入した。
 幸い、というべきかスマホの機種はなまえが持っているものと同じものが売られていて、SIMを差し込めばインターネットも使えるようになった。

 しかし、元いた世界で使っていたアプリは一部名前や仕様を変えていたし、記憶していた職場の番号にかけても繋がることはなかった。

 予想はしていたものの、突きつけられた現実に少し落胆したが次の行動に移すべく、歩みを進める。


(まずは宿を確保しなくちゃ…手ブラだと流石におかしいから鞄買うか)


 近くのアパレル店に入り、プライベートと仕事2wayで使えそうな手頃な鞄と何着か服を購入し近くのビジネスホテルでを取った。
 宿泊名簿には、さっき色々と調べたお店の中から記憶した住所と偽名を使った。良心が痛んだが、背に腹はかえられない。探られたら世間的に死にかねない情報は出したくない。


 ホテルの部屋に入り、備え付けのインスタントコーヒーを入れてほっと一息ついた。


「これからどうしようか」


 天井を見あげてぽつりとつぶやく。


 キャッシュカードは使えなかった。クレジットカードは怪しまれたら怖くて使ってないが、まぁ難しいだろう。職もなければ貯金もない…いや、きっと戸籍すらない。
 戸籍や住民票がなければ家を借りるのも難しいだろう。それでできる仕事となると日雇いの派遣か、水商売が…はたまたグレーな商売か。


(仮にも警察官が何考えてるんだ…)


 なまえは元の世界では、警視庁のサイバー犯罪対策課に所属していた警察官だった。警察学校在学中に、ちょっと調べ物…として警視庁のデータにアクセスしてしまいーーさすがにバレた。めちゃくちゃ怒られたーーハッキングの腕を買われてサイバー犯罪対策課にスカウトされた。
 元々得意だったハッキングを仕事でするようになって(ちゃんと操作令状とか取られてるところ相手にだけどね?犯罪は犯してないよ?いや、ギリギリだけど)メキメキと力をつけていき、今や対策課のエースとまで呼ばれるようになっていた。

 その技術を使うのが、手っ取り早く生活の基盤を作り上げられるだろう…となまえは考えていた。
 正直言ってハッキングはただの犯罪でしかない。この世界のサイバー犯罪対策課がどの程度力があるか分からないし、捕まったらアウトだ。それでも、この世界に来たからには叶えたい願いがなまえの中にはあった。


(ここが本当に原作より前の世界なら…彼らを救いたい。そのためには情報が必要…)


 彼らとは…そう、いずれ公安の捜査官として黒の組織に潜入する安室透…降谷零の警察学校の仲間達のことだ。


「変えよう…哀しい未来を」
 
 

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