泡沫
1-1
「田中社長ったら、そんなに飲んで奥様に叱られますよ?」
「いーのいーの、今日は嫁さんいーないからっ」
「まぁ、そうなんですか…? では、今日はゆっくりしていってくださいね。」
名探偵コナンの世界へ来てから1ヶ月、現在なまえは繁華街のとある店でホステスとして働いていた。
降谷零の仲間を助けようと決めたはいいものの、職なし金なしではどうしようもない。情報を集めるのもスマホだけでは些か不便の方が勝るのだ。
日雇いでコツコツ稼ぐことも考えたが、いまがどんな時期で、最初の爆発事件までどのくらい猶予があるか分からないのでできるだけ早く生活を安定させたかったのでホステスという道を選んだ。
高級繁華街からは少し外れた道にある、ホワイトに近いグレーな店を選んだ。ここなら事件が起きてなにか捜査が入ることはあまりないだろうし、逆に入店するのもあまり厳重な審査はなかった。
(はぁー、接客業って大変だな…今日も疲れた…)
ある程度潜入捜査のスキルは学んでいたが、実戦ははじめて…ましてや"女"を武器にすることなど今までなかったので毎日仕事を終えホテルに戻ると疲労困憊だった。
しかし、その頑張りもあってか1ヶ月でだいぶ資金調達はできた。
「そろそろなんとか家を探して、PC買おう…」
ホステスで働いた理由には、金銭面やセキュリティの問題もあったが別の目的もあった。
ーー情報収集だ
高級街から外れるとはいえ、客層は悪くない。悪くない一方で、高級街には立ち寄れないグレーな仕事をしている客も大勢やってくるのがポイントだった。
親から逃げるように、着の身着のまま上京してきたので現在はホテル暮らし…足がつくような銀行振込やクレジットカードは使いたくないがそろそろホテル暮らしは脱出したい…。というような設定で話をすれば、"そういった"ことにも対応してくれる不動産をいくつか知ることができたのだ。
休みの日にそのいくつかの不動産を調べ上げ、一番安全かつ捜査の入らなそうな不動産を選んで家探しをしたなまえは、米花駅から徒歩10分かからない程度の比較的新しいマンションの1室を借りた。
比較的新しいマンション内の3LDKの物件。資産運用のために購入したらしく、人が住んでいたことはないそうだ。
独り身でマンションの3LDKは持て余すかも…と思ったがこれから"情報屋"になろうとしているのだから一部屋は仕事部屋として使っても良いだろう。
この世界にきてしまってから自分の居場所が不安定なことがとても気になっていたなまえは迷わず入居を決めたのだった。
(ここが、わたしの居場所…わたしはこれからここで生きていくんだ)
この1ヶ月、仕事の合間に図書館に通ったりインターネットを使ったりして過去に同じような人がいないか調べていたが全く手がかりが掴めず、なんとなくだがもう元の世界へ帰れないのではないかと思いはじめていた。
それはひどく悲しく辛い現実だが、どこかで納得している自分もいて少し戸惑ったものだ。
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