泡沫

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「んーあとは…あ、コーヒーメーカー欲しいな」

 引っ越をしたはいいものの、まだ家具は何もなく寝袋で寝泊まりしている状態だったなまえは休みを取って大型ショッピングセンタに買い物にきていた。

 ベッドやキッチン雑貨を買い、配送手続きを済ませ残りは手で持って帰れるものだけ購入するつもりでお店をブラブラと見て歩く。

 元の世界では、毎日激務だったがコーヒーの淹れ方だけにはこだわっていたのでこちらでもしっかりしたものをそろえたい…。と思い店を検索してヒットしたところへと向かう。


(時間も場所もあるしサイフォン式に手を出してみようかなぁ…)

 毎日職場で淹れるのにサイフォン式は使うことができず、ずっと諦めていたが今なら使える気がする。せっかく購入するならいっそ…と考えているとふと人の視線を感じたのでそちらへと目線を移す。

「サイフォン買おうとしてるんですか?」
「?」

 目線を移した先には、整っている優しげな顔をした青年が立っていた。大学生くらいだろうか…店員かとも思ったが、先程見かけた店員はみな白いポロシャツに黒ズボンという服装だったのに対して、彼はTシャツの上にグレーのジャケットを羽織っているので客の一人のようだ。

「あ…すみません。若い人がサイフォン見てるの珍しいからつい…」
「ごめんなさい。急で驚いてしまって…新生活を始めたので、コーヒーメーカーを一式揃えたいなって思っていて。昔から興味あったんですよね、サイフォン」

 急に話しかけられて驚いたなまえに対して、話しかけた理由を慌てて弁解する青年…。たしかに、今どきカプセル式で手軽にコーヒーを淹れられる機会もあるしそうでなくても大抵の人は普通の紙ドリップを選ぶだろう。若い女性ーといっても24歳だがーがサイフォンを見ていたら珍しく思うのも無理はない。

 特に隠すこともないので、サイフォンを見ていた理由を話すと青年は少し不安げにしていた表情を明るくし、言葉を続けた。

「いいですよね、サイフォン! やっぱり豆の香りを一番引き立たせられるのはサイフォンだとオレも思ってて…」
「コーヒー、詳しいんですね。サイフォンメーカーお持ちですか? なにかオススメとかありません?」
「あーすみません…オレ寮に入ってて持ってなくて」

 一人暮らししたら買いたいなと思ってちょこちょこリサーチに来てるんです。と言って笑う青年こちょこリサーチに来てるんです。と言って笑う青年は、会ったことはないはずなのにどこかで見たことあるような気がする。


「ヒロ、ここにいたのか! 探したぞ」
「あーゼロ、ごめんごめん!」
「知り合いか?」
「いや、つい話しかけちゃった人」
「ついって…お前な…」

(ゼロって言った!? ゼロとヒロ…え!?)

 ふたりのもとにやってきたのはミルクティーのような亜麻色の短髪に少し褐色な肌の容姿をした青年…。こちらもとても顔が整っている。そして彼のことを、ヒロと呼ばれた目の前の青年は彼のことを"ゼロ"と呼んだ。
 会ったことはないが、見たことはある…元の世界で大好きだったキャラクター、安室透…いや、降谷零…その人だ。そして、ヒロと呼ばれた青年はスコッチ…諸伏景光なのだろう。

(わ…若い…!)

 作中でも、ベビーフェイスと言われており29歳には見えない容姿をしていたが、恐らく今はもっと若いのだろう。高校生と言われても 納得してしまうかもしれない…そんな姿をしていた。諸伏も、髭は生やしておらずまだまだ幼さを残している。
 安室透の爽やかさは何処から…と聞きたいくらい、ヒロ…諸伏景光に対しての不満を露わにしている。これが、きっと彼の本来の性格なんだろう。


「僕の顔になにかついてますか?」
「えっ…いや、随分とイケメンさんだなぁと思って…ごめんなさい不躾に。失礼でしたよね。」

 あまりの驚きについ降谷の顔を注視してしまった。彼は変に鋭いし下手なことを言って無駄に怪しまれたくはないので当たり障りのないことを言って誤魔化す。嘘はついてない、実物が想像以上にイケメンで本当に面食らったのだ。

「ゼロの顔は目をひくからなぁ」
「うるさいヒロ。別に構いませんよ。……ところでヒロ、松田たちが向こうで待ってる。用がないならそろそろ行くぞ」
「ごめんごめん、じゃあ、素敵なコーヒーメーカーと出会えるといいですね」
「ありがとう! さようなら」

 ちらりとこちらを振り返り手を振ってくれる諸伏と、こちらの様子には全く興味を示さず進んでいく降谷を見送り並んでいるコーヒーマシンに目線を戻し、大きく深呼吸をした。

(まさかこんなところで出会うなんて…!)

 予想外にキャラクターと遭遇し、今更ながら心臓が心臓が激しく動く。本当に名探偵コナンの世界で、彼らが生きている…。
 彼らと出会えたことで、自分の中にあった想いがさらに強くなった。


「救おう」

 ーー彼らは、この世界に必要だ

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