episode.20
※ロー視点
食堂で飲んでいると聞いたときはいつものことだと思い、後で顔を出すと答えた。
日中に外出したせいか夜の酒場にもう一度繰り出す気は起きず。寝酒がわりに食堂に顔を出して、ついでに女子部屋で寝てるであろうリトの様子だけ見て寝るかと算段をつけた。はずだった。
「おい、なんだこの状況は」
目の前では意識朦朧としたリトがペンギンに抱きついており、それをイッカクが必死で引き剥がしている。
シャチはそばで俺の方に来いとリトを煽っていて、周囲はそれを肴に盛り上がっていた。
「あ、キャプテン!助けてくれ!」
こちらに気づいたペンギンが疲れた様子で助けを求めてきた。おいシャチ、お前は俺がリトに早く寝ろと指示したことを知ってるはずだよな。なんでこんなことになってんだ。
そう言う思いを込めて、シャチにジロリと視線を向けると、慌てたように弁解を始めた。
「いや、キャプテン誤解です!俺は飲ませてないっす!俺が通りかかった時にはもうこうなってたんすよ!」
「チッ」
リトは酒に弱い。おそらく極端に弱い。それは日中の酒場での様子で見当がついた。そんな人間に意識が朦朧とするまで酒を飲ませるのは危険行為だ。
うちのクルーも悪気があったわけじゃねェのも分かる。苦手なやつに無理やり飲ませるような奴らじゃない。十中八九リトが自分で楽しく飲んで潰れたんだろう。うちのクルーのペースで飲んでりゃ当然の結果だ。
仕方なく酒盛りの間を縫ってリトの側へ行く。ペンギンにしがみついているリトに意識があるのか確かめようと手を伸ばした瞬間。
「うー…ローの匂いがする…」
顔を上げたリトのぼんやりした視線が宙を彷徨って俺に定まる。
「やっぱり!ローだぁ」
心底嬉しそうな顔をしたと思ったら、ペンギンから離れ、次の瞬間がばりと正面から抱きつかれた。一瞬のその顔に面食らって、避けることもなくなすがまま受け止めた。酒のせいか熱い体温がじわじわと伝わる。
「…おい、リト、どんだけ飲んだ」
「わかんないれす…どれも、美味しくて…お酒、おいしいなぁ」
「頭痛や吐き気は?水は飲んでたか?」
「ない…です、眠たい…部屋行って寝ましょ?一緒に寝たい」
途切れ途切れのリトの爆弾発言に、周囲がざわつく。面倒くささに頭を抱えたくなった。
「キャプテン、やっぱりリトと…」
「うるせェ、それ以上馬鹿げたことを言ったやつは刻む。リト、体調が変だと思ったらすぐ言え、それ以外はもう喋るな」
リトは了承したのか頷くように俺の服に顔を埋めた。途端に意識を失ったのか、ガクンと膝から崩れたのを咄嗟に支えた。すぐさま呼吸と脈を確認する。酒による中毒症状ではないと判断してため息をついた。
膝裏に腕を入れて抱え直す。いつぞやの夜の廊下以来だ。あの時に比べたら肉付きも良くなった。それでもまだまだ軽いが。
リトを抱えたまま周囲のクルーを見渡す。
「今後リトに酒は禁止だ。お前らも酒はほどほどにしておけ。俺は先に寝る。ペンギン、あとは頼んだ」
「お、おお、まかせてくれキャプテン」
完全に誤解されたな、と思いながらリトを抱えて船内を歩く。いまは急病人もいないし、今停泊している島には幸い調達できる医療物資もある。念の為生食を点滴しておくか、とそのままお馴染みとなった自室に連れて行った。
◇◆◇
「酔ったリトも可愛かったなぁ」
「抱きつくならわたしに来てくれたらよかったのに」
「にしても、キャプテン怖かったな」
「「本当に」」
ローがリトを連れて立ち去った後の食堂。シャチは能天気にリトの可愛さを語り、ペンギンとイッカクはしみじみと頷く。周囲もそれに同意した。
誰からともなく話題はこの場にいない二人のことになる。
「実際どう思う?キャプテンとリト」
「ものすっごく過保護」
「だよなぁ」
「あいつ危なっかしいしなぁ、なんか世話焼きたくなるよな」
「親子みたいなもんか?」
「いや兄妹だろ」
「恋愛感情はないと思う?」
「リトはどうなんだろうな、あいつにとっては命の恩人だろ?間違いなく慕ってるとは思うが」
「キャプテンもわかんねェな…死ぬほどモテるけど、キャプテンが女に固執するところみたことねぇし」
「まぁでも、少なくともリトにちょっかい掛けようもんならぶった斬られるな」
「それは間違いない」
再びうんうんと頷く一同。無法者の自覚はあるし、人並みの幸せとは無縁な道を選んだことも重々承知の上だ。
けれど敬愛するキャプテンと、可愛い妹分であるリトとの関係を、微笑ましく見守るくらいは許されてもいいだろう。そんなことを考えながら、飲み会は続き、賑やかな夜は更けていった。