邂逅





春。桜はすでに葉桜になりつつある4月。私は今日から高校生になる。

緊張と期待に胸を躍らせながら、下駄箱までやってくると、遠くから突如「親方様ああああ!!」と絶叫する声が聞こえてきた。早くも様子がおかしい人がいる。高校って怖いな。

近場で校則がゆるいという理由だけでこの高校を受験したけど、治安も確認しておくんだった。同じ中学から受験する子もそこそこいたから大丈夫だと思ったのに。
にわかに校門の辺りが騒がしくなる。さっきの親方様ぁあの比じゃない。うるさい...本格的に選ぶ学校間違えたかも。黄色いんだか、金切り声なのか、よく分からない声援に若干引きながら、何事かと振り向くと、やたらと背の高い男子高生が連れ立って歩いてくる。ああ、あれか、いわゆる学校のアイドル的なやつ?いるよね、何処の学校にも目立つ集団って。ほらもう髪色も制服も崩しまくり。
あーいうのがカーストの頂点とかってやつなんだろか。

自分には縁のない人達だなと眺めていると、不意にその中の1人と目が合った。朝日に照らされてキラキラと反射する派手な橙の髪に、目を奪われた、直後。
びっくりしたように目を見開いたその人は次の瞬間こちらに向かって猛スピードで迫ってきた。

え、なになになになに、こわい。


咄嗟に隠れようと辺りを見回すがもうすでに見つかっているし、下駄箱で隠れるもなにも、だ。
ていうか何でこっちくんの、


「アキちゃん...!!」


「ひっ、」


あっという間に距離を詰めたその人は、思いっきり、それはもう思いっきり抱き着いてきた。なんなの!?誰!?なんで名前知ってるの!?!?


「離してください!あなた誰ですか!?いきなりなにす...」


大パニックになりながら、ジタバタともがく。ぎゅうぎゅうと絞め殺されるんじゃないかってほど抱き締められる。家族以外の男の人に抱きしめられるのは生まれて初めてだ。力強すぎ、筋肉質で体硬いな、でもなんかいい匂いする、と頓珍漢なことが脳内を駆け巡る。周りは何が起こったのかと騒然としてるし、ふざけんなとか女子の不穏な声も聞こえる。必死で引き剥がして、顔を見れば、何故かその人は半泣きだった。ん?デジャブ。


「アキちゃん...俺様のこと、忘れちゃったの...?」


緑のネクタイピンが3年生だということを表してる。先輩だ。こんな先輩中学にいた?無理。思い出せない。
こんなぶっ飛んだことしてくる人会ってたら絶対に忘れないし。


「忘れたもなにも...初対面ですよね...?」


言葉にした瞬間、後悔した。初めて会う人だけど、私の今の言葉は、この人を酷く傷つけた。それがわかったから。
何か言わなくちゃ、でも何を?


「アキ?アキって言ったか?」


橙色の先輩の背後から、肩越しにこちらを覗き込む新たな人。真っ白い髪に鮮やかな紫の眼帯。ガタイのいい男の人だ。明らかにこの人も先輩だろう。

「は?おい、本当にアキじゃねぇか!」


めちゃくちゃ嬉しそうにそう言う彼にも見覚えがない。でも確かに私の名前を呼んでいる。さらにその人を押し除けて、黒髪の眼帯の人と茶髪に男の人までもに囲まれた。


「あの、ほんとに、勘弁してください…人違いですって…」


リンチでもされそうな距離感に怯えまくってそう言うと、一様に彼らの表情が変わる。


「ああ?お前もしかして本気で覚えてねぇのか?」


「アキ殿、某のことも佐助のことも忘れておられるのですか?」


その口ぶりからは忘れているのが信じられないという気持ちが伝わってくる。身に覚えのないことなのに、それがとても責められている気がして、いたたまれない。佐助と呼ばれたのはさっきの橙色の先輩のことだろうか。
噛み合わない会話と異様な空気。遠巻きにざわつく周囲の人の視線。なんだか混乱して泣きそう。そんな空気を変えたのは白髪の先輩だった。


「俺は三年の長曾我部元親だ。お前は忘れてるかもしれないが、過去に助けられたことがある。だからまた会えて嬉しくなっちまった。驚かせて悪かったな」


「そ、うですか、…いえ、こちらこそ覚えてなくてすみません。神代アキです」


「俺は伊達政宗、二年だ」


「某の名は真田幸村。幸村と呼んでくだされ。アキ殿とまた会えて嬉しいでござる。此度は同級生として仲良くしましょうぞ」


改めて名前を教えてもらう。その間放心したように立ち尽くしていた橙色の先輩は、長曾我部先輩に小突かれてようやく口を開いた。


「あー、…と、俺様は猿飛佐助。三年。よろしくね、アキちゃん」


猿飛佐助…、名前を聞いてもやはり覚えがない。だけど覚えていないことが無性に申し訳ない。そのせいもあってかこちらに笑いかけるその顔が、とても無理して作られたものに思えた。


「よろしく…お願いします」


訳もわからずそれだけ言うので精一杯だった。





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