彼等との距離





衝撃的な下駄箱での出会いを終えて。あの後私は教室に入った瞬間怒涛の質問責めにあった。初対面のクラスメイトに根掘り葉掘り彼らとの関係を聞かれたが、話せることなんてなにもない。むしろこっちが知りたいくらいだと言ったら矢継ぎ早に情報が舞い込んできた。
彼らは本当に高校では目立つ集団のようだ。

真田くんは隣のクラスらしいとか、猿飛先輩と真田くんは幼馴染なのだとか。伊達先輩はどこぞの会社の息子で、社会の片倉先生は彼のお目付役なのだとか。長曾我部先輩は生徒会長の毛利先輩と犬猿の仲だとか。いやまじでそんな相関関係一気に言われてもわからないし。あんまり興味ないし、ますますどこで出会ったのかわからない。

何より一番わからないのは、


「アキちゃん、俺と付き合ってください!!」


「いやだから断りましたよね!?その話!」


あれから三日に一回ペースで猿飛先輩が告白してくることだ。本当に噂を聞けばきくほど派手な集団で、正直言ってあんまり関わりたくないのに。
朝から下駄箱で待ち伏せされて、公開告白されるなんて、どんな羞恥プレイだ。最初はびっくりしてとても丁重にお断りしたのだけど、猿飛先輩は全くめげずに、次の日にまた告白された。そんなこんなでこのやりとりも五回目くらいだ。流石にこっちも雑になってくる。


「今日もやってんなぁ、猿。なぁアキ、猿がダメなら俺はどうだ?」


もはや定番化されつつあって、伊達先輩などはお構いなく介入してくる。


「そういう冗談まじでやめてください、伊達先輩のファンに刺されますから」


「政宗でいいって言っただろ」


「はいはい、政宗先輩」


「アキ殿!政宗殿よりも佐助の方がアキ殿に似合いでござる!だからどうかご一考くだされ」


「幸村くんはなんでそんなに猿飛先輩を推してくるのよ…」


「なんでダメなのアキちゃん!」


「ダメとかじゃなくて、私猿飛先輩のことよく知らないし、いきなりすぎるって言うか」


流石にこうも間を置かずに言われると本気で言ってるのかも疑わしくなってくる。挙句に彼らとのエピソードに覚えのない私がいくら聞いても、彼らの誰も、肝心の関係性を一切教えてくれないのだ。そんな不自然な彼らと迂闊に距離を詰めたくない。


「まずはお友達から、ってやつ?」


「そう言うことじゃなくて、…いや、まぁ、はい、もうそれでいいです」


前向きに解釈し出した猿飛先輩に、もはや一旦それでいいかと、投げやりに頷く。頻繁に告白されるのも心労なのでそれが収まるならなんでもいい。猿飛先輩な突飛な行動と、それに悪ノリする政宗先輩のおかげで、私は二年生以上の女の先輩から蛇蝎の如く嫌われているのだ。どうやら去年までは女子とさほど関わらず、野郎だけの集団でワイワイやってたらしい。それが今年の春から私に執着するという異常事態が起きている。幸い一年生はそれまでの彼らを知らないせいかそういう先輩なんだという認識だし、これでクラスの女子まで敵にまわっていたら高校生活終わってた。本当に勘弁してほしい。


「"お友達"なんですから、距離感ちゃんと考えてくださいね!」


「もちろん!」


「某はすでに友人でござる!」


「その"お友達"には俺たちも入るのか?」


謎のお友達宣言をする幸村くんとなにやら嬉しそうな政宗先輩の横にはいつのまにか元親先輩がいた。正直二人は先輩だからお友達もなにも先輩でしかないのだけど、ここでなんかいうとまた面倒そうだ。


「はい、そんな感じです、よろしくお願いします」


とっととこの場を切り上げて教室に行きたい。その一心で認定したお友達に今後も悩まされることになろうとは、この時の私は知る由もない。



▼▼



「アキちゃーーん、お昼食べよーーー」


午前の授業の終了チャイムとほぼ同時。なんならまだ鳴り終わっていないそばから教室に顔を出した猿飛先輩に、思わず顔が引き攣った。ちゃんと授業でてた?早すぎない?学年で階の違う校舎で、どう移動したって普通無理じゃないの。

私のドン引きを意に介した様子もなく、猿飛先輩は教室に入ってくる。入り口にいた女子がきゃあと声を上げた。


「私、今日の昼はクラスの子達と食べる予定で…」


「じゃあその子たちも一緒に食べよう?」


いや普通そこは諦めるところでしょ。どんだけ強引なんだ。案の定、ガチガチに緊張した友人たちが私を差し出すかたちになり、後から合流してきた幸村くんと共に屋上に連行されることになった。もちろん道中の視線が痛い痛い。市中引き回しの刑にでもあっている気分だった。


たどり着いた屋上にも、勿論他の生徒はいて、興味本位の針の筵のような視線の中でお弁当を食べることになる。


「アキちゃんお弁当は自分で作ってるの?」


「いえ、母に作ってもらってます」


「お母さん今は一緒に住んでるんだ」


「今は…?、はい、そうですけど?」


ん?普通の高校生は母親と住んでるのでは?なんとなくその会話に引っ掛かりを覚えたけれど、今のご時世、家庭の形は何通りもあるしなぁ、と気にしないことにする。とっととお弁当を食べ終えて教室に帰りたい。


「お母さん忙しかったらいつでも言ってね、俺様がお弁当作ってあげるから」


「え、猿飛先輩自分でお弁当作ってるですか?」

絶対に頼むことはないだろうと思いながらも、お弁当を自作しているという話には興味を引かれた。


「そうだよ」


「某の弁当も佐助が作っておりまする」


言われてみれば二人のお弁当の中身は量はさておき同じおかずが並んでいた。バランスも彩りもいい、美味しそうなお弁当。見た目に反して家庭的なの?それは少しギャップかもしれない。というか、なぜ幸村くんのお弁当を猿飛先輩が?

「お二人はどういう関係ですか?」


「某と佐助は同じ道場に下宿しているのだ」


「へぇ、道場…」


「学校の近くにある武田道場だよ、空手とか剣道とか武術全般教えてる」


「アキ殿も今度是非ご一緒に、一度親方様とご挨拶を」


「いや、私体力に自信がないので遠慮します」


師範とか師匠ではなく親方様?独特な呼び方するんだな。最初に会った時から気になってた幸村くんの妙に古風な口調は、その道場に影響されているのかな?と勝手に考える。みるからに素直そうだもんね。


「猿飛先輩も習ってるんですか?空手とか」


「まぁ護身術程度にね」


細身だけどしっかり筋肉ついてたしな…と初対面での余計なことを思い出してぶんぶんと頭を振る。気を取り直して頬張った卵焼きはやけに甘く感じた。




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