ブランク






2度目の高校生活で思い知ったことがある。

恐ろしいくらい高校の授業は高度だということだ。私に限って、のことかもしれないけど。大学が文系だった私にとって理系科目は実に7年ぶりくらいだ。


特に数学!驚くほど全然覚えてなかった。公式もそうだし、証明とか比例とかほんとに勘弁して欲しい。
ほかの科目については授業を聞けばある程度はあーー、思い出してきたーはいはいやったわー、ってなるにも関わらず。
数学に関しては毎回すごい新鮮な気持ちで授業を聞いてる気がする。もともと当時から得意な科目じゃなかったってのもあるけどそれにしてもこのままじゃテストが危ういレベルだ。

そんなこんなで危機感に駆られた私は、数学だけ予習をはじめた。ていっても、教科書に目を通して例題を解いてみるくらいのもんだけど。

昼休みを早めに切り上げて学食から戻り、五限の予習をしていると。教室に戻ってきた黒尾が唐突に午後ティーを差し入れてきた。そこらでファンに貰ったもののレモンティーは好みじゃないらしい。さりげにモテるアピールがイラッときて遠慮なく貰って紙パックにストローを突き刺した。


「次の数学なんか課題あったっけか?」


「んーただの予習」


「ふーん、偉いなー」


「いやマジで、数学に関しては笑えないんだってば」


2度目っていうアドバンテージがありながら赤点とったら目も当てられない。偉いなーなんて、言われて予習してる25歳危うすぎる。これを平然とやれてたんだから、高校生ってほんと凄いなって思う。
勉強しながらバイトして遊んで恋して部活する体力よ…。若いってすごい。私はひとつで手一杯だよ。


「黒尾は頭いいよね」


「いいってわけじゃねーけど。まぁ、補習くらって練習の時間減るのも嫌だしな」



偉いのはどっちだ。部活したいから勉強するって。簡単そうにいうけどやりたいことのためにそれ以外のこと頑張るって、相当に難しいと思うんだけど。普通関心のないところに努力の矛先向けるのってしんどくない?一番合理的だったとしても実践は難しいものだ。
私は苦手なこととかやりたくないことから極力逃げるために知恵を絞るようなタイプだから、余計に淡々と努力できる人を尊敬する。


「すごいなぁ、黒尾のそういうとこ本当に尊敬するわ」


素直に賛辞を送ると黒尾は不意をつかれたような顔をして黙った。気にせずに黙々と教科書をめくる。うわー、この単元まだ続くのか。応用とかもういいよ、基礎からあやふやだもの。



「なぁ、芳乃って本当に同い年?」



しばらく黙ってたと思ったら唐突な質問にびっくりして、飲んでた午後ティーが気管に入ってしまった。激しくむせる私に黒尾が呆れたように背中をさする。



「な、なんでそんなこと聞くの」



荒れたと呼吸を整えながら、やっと言葉を返す。なにでバレた?どこでバレた?無意識におばさんな発言でもしたかな。


「いやなんかさ、年の割に落ち着いてるっつーか、暗いわけじゃねーけど、他の女子のテンションともまた違うっていうか。まぁ特に意味はないんだけど」


いや、意味あるでしょ。やっぱり年齢によるテンションの差は補いきれないってことか。
ていうかそれで、さっきの質問って。


「何それディスってんの?」


「ちげーよ、いい意味で!いつも一定のスタンスっつーか、なんか包容力?余裕ある感?うまく言えねーけど」


言い出しっぺの黒尾がうまく言い表せないでいるのも仕方ない。まさか、目の前の同級生の中身が8個も年上とは思いもよらないだろう。
そりゃあ、現役のテンションにはついていけないし、君らよりかはそれなりに社会の酸い甘いも経験してきたから高校生の話題程度で驚くようなこともあまりない。勿論周りに合わせてある程度リアクションするけどね。今んとこそれでいじめられてる訳でもないしな。


「ま、人生経験の差じゃない?」


大層な経験があるわけじゃないけど。
得意げに冗談めかしてそういうと、黒尾はシャーペンを握る私の手を取って、にやりと妖艶な笑みを浮かべた。


「ふーん、じゃぁ俺にもイロイロ教えてくんない?」


「?」


「経験豊富なんでしょ」


……こいつ…
一瞬なんのことだかポカンとしてしまった。察した。この脳内ピンクが。思春期真っ盛りかよ。
察してしまったのもなんかやるせなくて不覚にも顔が赤くなった。なんか悔しい。


「…バーカ、お子様にはまだはやいよ」


苦し紛れに捨て台詞を吐いて、手を振りほどく。教科書に目を落とした瞬間五限のチャイムがなった。結局まともに予習できなかった。今日もし私が当たって答えられなかったら黒尾を呪うからな。


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