たまの休日








「芳乃、明日池袋行くぞ」


「いきなり何」


朝イチ教室に入ってきたと思ったら、おはようもなしに冒頭のセリフである。思わず怪訝な顔をしてしまったのもしょうがないと思う。

ていうか、行こうぜ?じゃないんだ。行くぞって、なにそれ私に決定権ないの?事情を聞くに明日は日曜で珍しく部活もないらしい。むしろ土日まで練習してる方が私には理解できない。まぁ、試合を控えてない土日は任意らしいけど。


「研磨がゲーム買いに行くんだってよ。俺もシューズ見たいし」


「いってらー」


「お前も行くんだよ、どうせ暇だろ」


「失礼な、私だって忙しいの」


「なんか予定あんの?」


「ないけど、明日は家にこもって本読むの!」



「不健康だな、外で遊べ」



「研磨に言ってやってよ」


「研磨は部活もしてるし、こうやって出掛けたりするからお前よりよっぽど健康的だと思うけどな」


正論すぎて何も言い返せない。研磨が行くなら二人で行けばいいじゃんよ。池袋かぁ。人多そうでめんどくさいな…。


「なんでよー」


「なんでもいいだろ。そんなに俺らと遊ぶの嫌なわけ?」


そういう聞き方ってずるい。
黒尾はともかく研磨とはあれから共通のゲームの話を良くするようになって、オンラインでも仲良しになった。一緒にでかけるのが嫌なわけではない。


「嫌じゃないけど」


「じゃ、明日11時に東口のふくろうのとこな」


「ちょ、」


「決まりー」


さっと会話を切り上げた黒尾は、引き止める間もなく別の友人の輪の中に入っていってしまった。
はぁ、もう勝手にしてくれ。
ていうかいまさらだけどこの世界にも池袋があって、いけふくろうはいるんだよなぁ。私の世界とどこまで一緒なんだろう。私の働いてた会社も存在するのかなぁ。
友達と休日に遊びに行くなんて、久しぶりすぎて何していいかわかんないよ。

飲み…には勿論行けないし、カフェで女子トーク…も想像つかないし。今どきの高校生は何して遊んでるの?
一生懸命大人にならなきゃと思って頑張ってた時からするとここでの生活はぬるま湯に浸かってるみたいでひたすらに心地いい。
相変わらず勝手に巻き込んだ神とやらは許せないけど、この状況をもっと楽しんでみようかと思えてきた。


#



「ねね、君ひとり?」


翌、日曜日。思った通りの人混みの中、予定より早めに到着して手持ち無沙汰にスマホを構っていたら突然声を掛けられた。
顔を上げると、やたらと明るい金髪のおにーさんが笑顔で立っている。
うわ。


「ひとりじゃないです」


「大人っぽいけど…学生だよね?ガールズバーとか興味ない?お酒作って運ぶだけで時給2000円だよ〜」


「興味ないです」


「入れる時だけ入ってくれればいいからさ。今体験入店やってるんだよね。同年代の女の子いっぱいいるからさ、気楽だよ?ワイワイ楽しくやって稼げるのって最高じゃない?それに…」



こっちの返答も無視して喋りまくるおにーさん。
何この人全然めげないじゃん、怖い。ガールズバーとかほんとに興味ない。ていうか、池袋キャッチ禁止になったんじゃなかったのか。断ってるにも関わらずしつこい態度にだんだんイライラしてくる。


「…だから」


やんないって言ってんだろ消えろ。

そう言おうとして口を開いた瞬間におにーさんの背後から研磨と黒尾が現れた。



「ごめん芳乃お待たせ」



「ん、誰こいつ?知り合い?」



研磨の不審者を見る目と、黒尾の威圧を含んだ視線に気押されたのか。さっきまであんなに流暢に喋ってたおにーさんが黙った。
金髪少年に、片や長身でガタイのいい男の子。見た目だけならガラ悪いもんなこの二人。素晴らしい牽制だ。



「全然知らない。いいから、行こう」



この気を逃す手はないと二人の腕を引いて、早足で立ち去る。背後でおにーさんの舌打ちする声が聞こえた。舌打ちしたかったのはこっちだわ。警察に職質されてしまえ。


「ありがとう助かった」


「いや、おれ達の方こそごめん」


「でもなんか全然余裕そうだったな」



申し訳なさそうな研磨とは裏腹に黒尾は面白がって茶化してくる。まぁ、正直大したピンチでもなかったのは確かだ。この程度いなせないでどうするんだ。池袋でキャッチって、草むらでポケ〇ンに出会うくらいのエンカウント率だからね。



「なんか、イメージ変わるな」



「え、うそ」



合流した途端人のことをじっと観察してくると思ったら。ぽんと呟かれた黒尾の言葉に冷や汗が出た。
不安的中。今どきの女子高生が何着てるかなんてわかんないし…これでも無難を追求したのだ。

細身のデニムにパンプスにブラウス着て、髪は時間あったから毛先を巻いてポニーテール。あとは時計とイヤリングを適当に。化粧はするかしないか悩んで結局薄めにした。違和感あるのかなやっぱり。やばー、私服って一番加減わかんないんだもん、だから出掛けるの乗り気じゃなかったってのもあるのに。



「オシャレだって言いたかっただけだと思うよ。似合ってる。ね、クロ」



「っ、おう、」



「研磨…っ!ありがとう嬉しいー!」


この子は天然の人たらしなのかな、そうなのかな!私が不安そうなのが顔に出たのか、研磨がすかさずフォローを入れてくれた。
研磨に促されて黒尾は慌てて超タイプとか頷いてるけど、研磨に乗っかってんのが見え見えだ。こういうことをサラッと言える研磨がカッコいいのです。おねーさんなんか奢っちゃうぞー。


「さ、まずはゲームだよね、アニメイト行くの?」


「うん」


おっけー、じゃあサンシャインの方の地上出口かな。一気に機嫌が持ち直して、歩き出す。
後から二人が付いてくるのを確認して効率のいいルートを考える。黒尾の行きたいシューズ屋と、私もせっかく来たからにはジュンク堂に行きたい。先にサンシャインの通りで色々済ませて、適当にごはん食べてジュンク堂は帰りでいっかな。人混みをひょいひょいとくぐり抜けながら歩いているといつの間にか黒尾と研磨と距離が空いていた。




「研磨、サンキューな」



「…クロが見惚れてるのが悪いんだからね」



「いや、だってアレはビビるでしょ。めっちゃ雰囲気変わるっつーか、いい女感…」



「言いたいことは分かるけど。芳乃不安そうだったよ」



「俺そんな変な事言った?」



「さぁ。ほら、早くしないと芳乃が1人で先行っちゃうよ」



「…、」


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