厄日
花の女子大生。
それなりに謳歌してきた。
特別真面目だったつもりも、不真面目でもなく。サークルやってバイトして、授業もそこそこ。友達作って、遊んで
......恋をして。
「どうしてこうなった...」
神代アキ、21歳。
本日、大学内で付き合っていた彼の浮気現場に出くわしてしまいました。
しかも、あろう事か相手は私の友人だった。
ありきたりと言えばありきたりな展開だった。少女漫画かよと心の中で突っ込みをいれたほどだ。
これが漫画なら、お決まりの「誰よその女」的な展開が待っていただろうが。自分が渦中になってみて分かる、そんな度胸ある人はそうそう居ない。
現実はなんとも気まずく、完全に目が合った彼氏と、いたずらが成功した様な顔をした友人を見て、黙って立ち去ることしか出来なかった。
「はぁ...」
大打撃。HPゲージは真っ赤っか。吐き出しようのない気持ちをぐるぐる抱えたまま、なんとかバイトを乗りきった私は偉いと思う。誰か褒めてください。
時刻は0時過ぎ。
駅前は酔っ払った人たちで溢れていた。カラオケ行く人ー!なんて大声でふらふらする団体さんをすり抜けて、居酒屋通りの終わりに差し掛かかる。
人気はまばらになり、閉店したお店が並ぶだけの商店街に入る。
ふと、
シャッターの降りたドラッグストアの前で、縮こまっている男の人が目に入った。
周りに仲間っぽい人気もなく、十中八九潰れて放置されたパターンだろう。いつもなら絶対にスルーする...んだけど。
......なんか、変。
遠目で観察するに、髪は明るいし、まぁまぁ若そう。ヤンキー?膝抱えて座ってるけど、なにか違和感...。
じっと観察して、思い当たる。酔っ払い特有の雰囲気が出てない。なんか、どっちかというと悲壮感が漂ってる。酔ってない上に、急病人でも無さそうなら、近寄らないに限る。
もう用はないとばかりにさっさと通り過ぎようとした。
「...ねぇ」
あちゃー、絡まれた。
いつの間にか通りには私とその人しかいない。これ、私に声かけてるんだよね。
なんで観察なんかしちゃったんだろう本当馬鹿。さっさと通り過ぎてれば良かったのに。今日に限って何なんだ、厄日か。帰りたい。
心の中で文句を爆発させつつも、ビビりながらそろそろとおにーさんの方へ近付いた。
そーっと近寄ってみるとやっぱり若いおにーさんだった。っていうかそれよりも、近くで顔を見てぎょっとした。え、どうした?めっちゃ涙目なんだけど。なんで?泣き上戸?
「ちょ、どうしたんですか?大丈夫ですか?」
思わず焦って声を掛けると、おにーさんは驚いたような顔をして、少し躊躇ったあと
「俺様ちょっとばかし迷子みたいなんだけどさ、ここ何処かわかる?」
半泣きの苦笑いでそう言った。
俺様?...迷子??いい大人だよね?
「えー、っと、酔ってます? 」
「酔ってないよ」
「一応こっちは、駅の東口なんですけど。それはわかります?」
「えき?」
まじか。
ていうか、よくよく見るとこの人の服装おかしくない?サブカル系とかじゃちょっと包括出来ない特殊さなんだけど。全身迷彩って何。サバゲー中?
私マジでやばい奴に絡まれてるよ。どうしよう。
「じゃあ、どこに行きたいとかありますか?」
「...甲斐」
「かい?」
適当に道だけ教えて離れようと思ったらまさかの返答。
かいってどこ?貝?会?居酒屋の名前?地名??
......甲斐?
ってどこだっけ。山梨あたりだっけ?
「......甲斐って、ここ埼玉ですよ」
「さいたま?」
なんだよ、その記憶喪失ネタっぽいのに合わせろってか?埼玉の昔の呼び名なんて知りませんよ。ちょっと待ってね。
携帯を取り出して、「埼玉 昔の地名」 でググってみる。おにーさんは携帯にやたらびびって、明るい...とか呟いていた。携帯の存在も知らない設定でいくんですね、はいはい。
「あ、出ました、武蔵ですって。武蔵国ですここ」
「...武蔵......」
「多分今から山梨...あ、甲斐?に戻るのはきついと思いますよ?電車ないし」
「でんしゃ...それがないと帰れないの?」
「そうですねぇ、もう上りは終わっちゃってますし。始発まで漫喫にでもいた方がいいんじゃないですかね」
面倒くさくなってきたので、適当に話を合わせる。
「しはつ?まんきつ?ごめん、さっきから全然言ってることわからないんだけど」
「もう、おにーさん、設定が雑すぎてのるにのれないですよ、いつ時代の人ですか」
「...戦国」
「あー、それで甲斐とか言ってたんですねぇ、残念ながら今は平成なんですよー」
「え.........?」
「え?」