to be continued…
猿飛佐助を霧とともに送り出し、姿も変えて、アキの元に戻った。
霧が晴れて猿飛佐助が姿が跡形も無くなった瞬間、アキは膝から崩れ落ちた。堪えていたものを吐き出すように、子どものように泣いていた。
そばに寄りそうと、大粒の涙が己の鼻先を濡らす。精神が大きく揺らいでいるのがわかる。このままでは、また、己の声も届かなくなるだろう。
猿飛佐助との記憶を消すという事は、アキ自身の力を強めた要因がなくなるということだ。それは、アキの力がまた弱まることと同義で、己との意思疎通も取れなくなるということだ。しかし...
承諾してしまったものは、違えられない。それに、あの男の言う通り、このままアキに記憶を残したままでは、この先人並みの幸せを歩む事はしないのだろう。
あの男を思って独りで生きていくことを、アキが幸せだと思うのなら、それもありなのかもしれないが。
己もそれを望まない。
「アキ、許せ」
「っ、」
アキの額に己の額を押し当てて、呪いを唱える。暖かい光がアキを包んで、消える頃にはアキは意識を失って静かな寝息を立てていた。
目が覚めたら猿飛佐助との日々はなくなっているだろう。記憶をすべてなくす訳では無いから違和感は残るだろうが。それでも、思い出すことは無い。
人型に変化してアキを抱き上げる。泣き腫らした瞳から、最後の涙が零れた。
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あれ、今日何日だっけ?
いつものように目が覚めたはずなのに、なんとなくいつもと違う朝のように感じる。不思議。
起き上がって、ふと鏡が目に入った。
「え、なんでこんなに目腫れてるの...」
やだなぁ、今日は...、
今日は、なにをしようとしてたんだっけ?
?
?
ついにぼけてきたのか、私。
はてなを飛ばしていると、足元にふわふわとした感触が。
「おはよう、いなり」
擦り寄ってきたいなりに挨拶して頭を撫でると、気持ち良さそうに目を細めた。いなりを拾ったのは昨日のことだ。
ああ、そうか、昨日は近所の雑木林で子犬(多分)を拾ったんだった。耳が立ってて狐みたいだから名前は安直にいなりにした。
でもなんでそもそも夜に雑木林なんか行ったんだっけ?
ふわりふわりと、霞をつかむように記憶が曖昧だ。変なの。最近色々あったから、疲れてるのかなぁ。
春人には浮気されるし。丸井くんに告白されるし。仔犬拾うし。
ん?思ったより色々じゃなかったわ。いや、でも...もっと他にもあったような気がするんだけど...気のせい?
ここ1ヶ月くらいを思い返してみる。ちゃんと大学へは行ってたし、授業の内容もまあまあ覚えてるし。バイトであったことも覚えてるんだけど。あれ、それ以外って特になくない?じゃあいいのか。
首をひねりながら起き上がってふと首元に感じる何か。見ると紫色の石のついたペンダントが鎖骨の中央で揺れている。
あれまぁ、アクセサリーつけっぱで寝てたわ。...?でも、私こんなペンダント持ってたっけ??
こころなしか胸元で光るアメジストの石はじんわりと暖かく、体温に馴染んでしまっている。
自分で買った覚えないなぁ、誰かにもらったんだっけ?ああ、たしかこないだ傷心一人旅した時に寄った店だ。ほんとにボケボケだなぁ。自分で買っといて忘れるってどういうことよ。
不思議な感覚に戸惑うものの、疲れてるのかなぁと勝手に結論付けた。
トントンと階段を降りていくと、綺麗に整えられたキッチンに湯呑みが二つ。湯呑み...?私は普段はコーヒー派だ。
ちらりと壁のカレンダーを見ると、今日の日付に花丸がついている。ああ、そうか、今日は久しぶりに両親が帰ってくる日だ。久しぶりの日本で懐かしかろうと思って、昨日のうちに湯のみを出して洗っておいたんだった。いろいろなことに合点がいってさっきまで感じていた違和感が消えていく。事後報告になっちゃうけど、いなりのことも紹介しなきゃねーとうりうりと頭を撫でてやると、いなりは何故かさみしそうな顔をしてくぅんと鳴いた。