手がかりを探る
「これでいいの?」
「完璧です」
参った、イケメンすごい。細身のジーンズに黒いニットっていうめちゃめちゃユ〇クロ感溢れる素材でも、素晴らしく着こなしている。兄の服だし、変にはならないと思ったけど、これは予想以上。どこからどう見ても現代のチャラいおにーさんだ。
「あのさ、この格好どこにも武器隠せないんだけど」
「隠せなくていいんです。武器は何も持たないでください」
「なんで?襲われたらどうするの?」
昨日も思ったけど不用心だよアキちゃん。なんて言ってくる猿飛さんに銃刀法と現代の人たちの非力さを教える。猿飛さんがほんとに忍者なら、普通に出歩いて猿飛さんより強い人と遭遇することは、そうそうないと思う。
「では、行きましょうか」
なんとか説得して武器を家に置いてもらい、 ようやく外に出た。天気は上々。図書館までは歩いていける。
「そういえば、猿飛さんは昨日のいつこっちに来たんですか?」
「んー、日暮れ頃かな」
図書館への道すがら、猿飛さんが来た時の状況を聞いた。森から出たと思ったら近くの雑木林だったらしい。
「とりあえずあちこち見て回ったけど、変なカラクリばっかりだし、話しかけても誰もまともに取り合ってくれないし。最初の場所に戻ってもみたけど、何も起きなくてさ。途方に暮れてたら、アキちゃんが通りかかったってわけ」
…夕方から私に会うまでって、6時間以上もさ迷ってたのか。それはきつい。
「そりゃ、半泣きにもなりますね」
「......それはもうなかったことにしてよ...」
バツが悪そうに目をそらした猿飛さんは、だって無視しないでくれたの、アキちゃんが初めてだったんだもん...とかなんとか、小声でごにょごにょ言っていた。
そりゃ、私だって話しかけられなきゃ絶対に無視してた。ていうか、だもんって。いい歳してその口調許されるのイケメンだけですからね。ああ、猿飛さんイケメンだったか、ちくせう。
「...と、着きましたよ」
見上げた建物に驚く猿飛さんを、はいはい大きいですねーと流して館内に入り、司書のお姉さんに、異世界トリップとかの本ないですか?と聞いてみた。が、困った顔された上に小説のコーナーに案内された。ですよね。
「猿飛さん、突然人が居なくなっちゃうみたいなことって昔でいうところのなんですかね」
「えー、......神隠し、狐の嫁入り、とか?」
「それで行きましょう」
今度は別のお姉さんにトライ。民族、伝承みたいなコーナーに案内された。猿飛さんと手分けして端から背表紙を総ざらっては、手に取ってパラパラ。
オカルト特集みたいなものから、物々しい古い本まで、一通り見てみたが現象の説明はあれど、解決方法は載っていない。
「...ないですねぇ、手掛かり...」
まことしやかに伝えられているだけで、体験した本人の手記などがあるわけじゃないから、当然といえば当然の結果なのだけど。うーん難しい...
ーーバサッ
「ん?」
お手上げ宣言をしようとした時、目の端に赤色が映った。見ると、どこかの棚から落ちたのか、床に1冊の本が落ちていた。ここの棚は一通りみたはずだけど、こんな本あったっけ?
手に取ってみると、深紅の和綴じの古い本だ。表紙には何も書かれていない。図書館の蔵書印も、貸出用のバーコードもついてない。
気になって開いてみる。
「...え、」
ーーーー白紙だ。
捲っても捲っても、黄ばんだ和紙が並ぶ。文字はどこにも見当たらない。
「何かあったの?」
猿飛さんが、私の手元をのぞき込む。
「なにこれ、何も書かれてない...」
「......ッ、何でもないです」
突然足元から何かが這い上がってくるような寒気を感じ、気味悪くなった私は、猿飛さんが触れる前に慌てて本を閉じ、無造作に書棚に突っ込んだ。
何も書いてないんだ、手掛かりな訳がない。
「アキちゃん、顔色悪いけど大丈夫?」
猿飛さんの心配に応える余裕もなく、言いようのない悪寒から逃げるように猿飛さんの手を引いた。