一夜明けて





昨夜はあんなに眠かったのに、目が覚めたのは早朝だった。


「6時......」


寝起きは悪いはずなのに、随分とぱっちり目が覚めた。昨日のことは、夢だったのだろうか。
ろくに着替えもしないままぺたぺたと階下に降りる。お茶を入れた痕跡が食卓に残っていた。

ということは......

和室の戸に手をかけようと近づくと、タイミングを見計らったように反対側から戸が開いた。


「戻れなかったみたい」


「…その様ですね」


肩を竦めて苦笑いする猿飛さんがそこにいた。夢じゃなかったんだ。


「おはようございます、猿飛さん」


「おはよう、アキちゃん」


...昨日までアンタ呼ばわりだったのに、一夜で何か心境の変化でもあったのか。昨日と変わらない胡散臭くにこやかな笑顔の猿飛さんに、下手な笑みを返す。


「朝ご飯でも食べながら、昨日の話の続きをしましょう」


そう提案して、猿飛さんを食卓に促した。
昨日の残りのご飯があるから、チンして。卵でも焼けばいいかな。戦国時代って、どんな食文化?まぁいっか。食べれるものだけ食べてくれれば。


「卵焼くの?こっちは白米?やっぱりお姫様でしょ」


おとなしく待ってられなかったのか、適当に作業する私の手元をのぞき込んだ猿飛さんは、またもやそんなことを言う。


「今はこれが普通ですよ」


言いながらちょっと安心した。有名な武将に仕えてるくらいだし、高級料亭みたいな日本料理食べてたらどうしようかと思った。
それを伝えると、とんでもない!とすごい勢いで否定されたけど。それはそれで心配になるよ...ちゃんと食べてるのかな猿飛さん、忍者って黒い丸薬とか食べてるイメージなんだけど。

コンロに興味津々な猿飛さんを無視して黙々と卵を焼き上げた。同時進行で作ってた味噌汁をよそって、冷蔵庫から漬物と、作り置きしていたきんぴらを出す。


「お待たせしました、簡易ですみません、どうぞ」


「十分豪勢だよ…!」


おっかなびっくり卵焼きに箸をつけた猿飛さんは、お気に召したらしく、ぱくぱくと食べすすめていく。
お口にあって何よりだ。

朝ご飯を食べながら、私はタイムスリップという現象と、私の知る戦国時代について話をした。
やっぱり猿飛さんの見た目で昔の時代の人っていうのは、どうにも納得出来なかったのだ。言葉遣いも、用語の意味を知らない以外は変わらないし、確認したらこの時代の文字でも、漢字と平仮名なら読めるらしい。当時はもっとふにゃふにゃした字だったんじゃないのか?

食事が一通り終わり、お茶を入れる。


「ついでに簡単に調べてみたんですけど、猿飛佐助という人物は架空の人物とされていました」


「......それって、つまりどういうこと?」


「ここで考えられるのは、さっき話したタイムスリップという現象に加えて、パラレルワールドの可能性が出てきたという事です」


「ぱられ...なんて?」


「パラレルワールド、平行世界という意味です。つまり猿飛さんは、この世界と平行して存在する別の世界の過去から来たのではないか。ということです」


自分で言ってても訳が分からないし信じられない。案の定猿飛さんも、眉根を寄せてしまっている。時間を越えただけでなく世界の壁も越えるなんて。


「......今日は、図書館にでも行ってみましょうか」


「としょかん?」


「ありとあらゆる本が揃っているところです。猿飛さんの現状打開に繋がる糸口が見つかるかもしれません」


私の言葉に、猿飛さんの表情が明るくなる。そうと決まればさっさと行こうと急かす猿飛さんを、制す。その前に、だ。


「着替えてもらってもいいですか?あ、なんならお風呂入ります?」


「へ?」


昔ならともかく、現代のコンクリートジャングルでは全身迷彩は悪目立ちがすぎる。兄の服を適当に着てもらうことにしよう。
兄の部屋に入って着れそうな服を見繕う。ついでに父の書斎にあった国語辞典も拝借した。


「ひとまずこっちの服に着替えてください。それから、これはこの時代の言葉が載ってる本です。今後は、分からない言葉があったらこれで調べてみてください。いちいち説明するのもめんど...もとい、私の説明だけじゃ心許ないので」


「…ありがと」


何とも言えない顔で、服と辞書を受け取った猿飛さんは、思ったよりすんなり着替えができそうだ。彼の着替える間に、私も着替て支度することにした。


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