消された記憶




夢から醒める一瞬前。意識は夢の中にありながら、そして起きたらきっと忘れてしまうんだろうなって思ってる。



「やっぱり思い出せないなぁ」


起き上がってため息をつく。目尻は濡れているから、また勝手に泣いたんだろう。



この数日、どうやら私は悪夢にうなされているらしい。自分のことなのにらしいっていうのも変な話だけど、でもだって、朝起きた瞬間になんの夢だったのかもどんな気持ちだったのかも忘れているんだから仕方ない。
さすがに毎回泣きながら目が醒めるのと、不思議と同じ夢を見ているような確信がして。なんとか夢の内容を把握しようと試行錯誤すること早4日。夢を見始めたのはそのさらに3日前からだから、今日で7日目になる。

ベッドから半身を起こしてぼんやりと考えていると、お腹に重みを感じて我にかえった。


「おはよう、いなり」


ベッドによじ登ってきて撫でろ撫でろと頭を押し付けてくるいなりの相手をしながら、拾った頃に記憶を馳せた。いなりと一緒に住むようになってもうすぐ一年になる。なぜだか時間が経てば経つほど、拾った頃の記憶だけが曖昧になっていって。たしか雑木林にすてられてたのを拾ったんだったと思う。子犬だとばかり思っていたのだが、帰ってきた両親に一瞬で犬ではないと断言され、調べて見たら狐だった。しかも、突然変異…いわるゆるアルビノというやつらしい。白い毛と赤目の狐は、最初こそやれ野生に返そうとか保健所連れてくかとかあったものの、いつの間にか居ついていた。


いなりと一緒に階下に降りて、簡単に朝食の準備をする。いつの間にかよく飲むようになった緑茶を淹れて、一息。習慣でつけたテレビでは、しきりにスーパームーンについて特集していた。なんでも月が地球に近づいていて、いつもよりも大きく見えるんだとか。ていっても、バイト帰りに見る月は今の時点で普段より大きく感じる。一番近づくのは7日後らしい。ま、その日もバイトだし、さして興味もないんだけどね。


まるで内容がわかっているかのようにテレビを見ていたいなりが不意にこちらを向いた。ん?ごはん?



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夜も更けた頃。ふと気付くと森の中を歩いていた。濃密な草木の匂いに、湿った風の感触。雨が止んだばかりのようだ。遠くでなにかの鳴き声がする。視点は低く、見下ろすと犬のような前足が見えた。


私はいつの間に動物になったんだ…?


そこでようやく気付く。ああ、これは夢だ。
サクサクと濡れた草を踏みしめながら森の中を進んでいくうちに、曇った空が晴れて月が顔を出した。森の木々を射抜くように照らされた月光に、浮かぶ人影。こちらに背を向ける方向に立っているその姿に、既視感がわく。顔も見えないし、どんな服を着てるかもよく見えないのに。でも確かに覚えがあった。
ぎゅうっと何かに掴まれたように胸が痛い。悲しみなのか喜びなのか、名前のつけられない感情が渦巻いて。


私は…あの人を知ってる…??


不意に自分以外の気配がして、ざわりと空気が震える。いち、に、さん…人影を囲むように現れたのは八つの気配。不穏な雰囲気に飲まれるように風の音が止んであたりには静寂が満ちる。

ーーそれは一瞬の出来事だった。


再び雲が月をおおった瞬間。影が一斉に動いて…そして、倒れたのだ。視界に捉えきれなかった。気がつけば気配は途切れていて、八人分の人影が地に伏していた。何が起こったの…?生臭いような鉄臭いような、いやなにおいがただよって総毛立つ。なにこれ。


夢にしてはリアルすぎてタチが悪い。この悪夢のせいで私は泣いていたの?恐怖に怯えた涙だったのかと納得しかけたそのとき。再び雲が晴れて月光が差し込む。月明かりの下で今度はこちらを向いて立っていた人影は何かを拭うような仕草をして口元を隠していた布を取り払う。


「長、ご無事でしたか」


「あたりまえでしょーが。俺様をだれだと思ってんの」


どこからとも無く現れた新しい気配に対して、気だるげに返されたその声にドキリと胸がつかえた。この声は、知ってる。これは、この人は──


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