予知夢





目が覚めたら、泣いていた。けれど今度は記憶もしっかりと残っていた。


「…佐助さん…」


するりと零れるように名前をつぶやく。視界が開けていくように鮮明に、記憶が蘇る。ああ、どうして忘れてしまっていたんだろう、こんなに大切なこと。
ちょうど一年前、私は佐助さんと出会って、そして今生の別れをしたのだ。たった一ヶ月半のその間に、佐助さんは私の一番大切な人になった。部屋の一角に飾られているアメジストのペンダントも、いつの間にか習慣になったと思っていた緑茶も、そしていなりも。佐助さんがここにいたという確かな証拠だ。


『アキ』


「いなり…」


ふるりと尻尾を降って現れたいなりに名前を呼ばれ、振り返る。


『その様子…記憶が戻ってしまったようだな』


「そう言うってことは…やっぱり記憶を消したのはいなり?」


『然り』


「そう」


衝撃の事実を思い出した割には、冷静だった。
夢を伝って別の世界を視たり、自分の世界の過去や未来を視ることを夢渡りというんだそうだ。またオカルトっぽい能力が開花したみたい。私が今になって夢を見た理由ってなんなんだろう。
いなりいわく、
スーパームーンの影響で私の力がまた上がり出しているらしい。月にそんな力があるなんて未だに信じられないけど。無意識の中で佐助さんをたどって、あちらの世界を視ているんだとか。無意識のうちにって…どんだけひきずってるんだ私は。
知らぬ間に重い女になってたことに軽くショックを受けながらも。未だに佐助さんとの繋がりがあることが嬉しかった。


けれど、その夜見た夢によって私の感情は一転して暗いものになる。



夢の中での意識が覚醒した瞬間。耐えられない熱気に慄いた。轟々と燃え盛る炎の中にいたのだ。
どこかの城の中なのか…煙と甘ったるい匂いの充満する広間は辺り一面に火の手が上がり、喉が焼けるようだ。火に囲まれた中央には二人の人影。


(佐助さん…!)


叫んだはずの声は出なかった。向かい合っていた人影のうち片方が膝から崩れ落ちる。あろう事か倒れたのは佐助さんだ。もう片方には見覚えがない。どうして、どうなってるの?なんで佐助さんが倒れてるの??舐めるように壁を這う炎にミシミシと天井の板が不穏な音を立てる。もう一人は行く手を阻む炎をものともせずにその向こうに消えてしまう。次の瞬間、爆音と熱風が吹き付けて、思わず目を瞑った。息をするにも苦しい。このままじゃ、佐助さんが…!
状況の整理も二の次に、佐助さんのもとへ。声も出ないし、例のごとく動物の手足が目に入るが、構うもんか。じりじりと焦がされていくような熱を無視して近寄って、思わず息を飲んだ。佐助さんの腹部からおびただしい量の血が流れていたのだ。素人目にもわかる、絶望的な状況。
嘘でしょ、佐助さん。お願い目を覚まして…ここから脱出しないと…じゃないと…

バキッと一際大きな音を立てて天井の端が崩れたのはその直後だった。部屋の一角が崩れて、初めてこの場所が高いところにあるのがわかった。崩れた場所から小さく町並みらしきものが見え、重たい灰色をした空からはチラチラと雪が舞っていた。


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